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はじめに — 「方向」だけ決めれば、あとは動く

この本が解く問題、九十秒の証拠、本書の使い方。専門職が自分のAI経営システムを組むための入口。

この本が解く、あなたの問題

夜の九時。あなたは、まだ机に向かっている。

日中の本業 ── 診察でも、商談でも、研究でも ── は、とっくに終わっている。なのに、目の前には、片づかない作業が積み上がっている。報告書の下書き。明日の資料。返さなきゃいけないメール。調べ物。どれも、本来あなたがやるべき「判断」ではない。誰でもできる「作業」だ。

あなたは専門職だ。医師かもしれないし、弁護士、会計士、研究者、コンサルタントかもしれない。長い時間をかけて、希少な専門性を手に入れた人だ。

なのに、一日の大半は、その専門性とは関係のない雑務に消えていく。本当にあなたにしかできない判断に使うべき時間が、機械でもできる作業に、静かに食われている。

この本は、その時間を奪い返すための本だ。

結論を先に言う。やることは、一つしかない。

あなたは「何を・なぜ」を決める。「どう」はAIにやらせる。

方向は人間、手はAI。この一行を、仕組みに落とすだけだ。

それは本当に動くのか(九十秒の証拠)

理屈の前に、実際に起きていることを見せる。

外来の、患者と患者のあいだ。九十秒ほどの隙間に、私は画面の隅へ、一行だけ打ち込む。「デプロイして」。それだけで、次の患者を呼ぶ。

午後、外来が引けたころには、本番のアプリが書き換わっている。専門医試験の問題集が、六四二問から八〇九問に増えている。ずれていた引用が、四九件、消えている。私はその間、ずっと子どもを診ていた。コードは一行も書いていない。

私は小児科医で、エンジニアを一人も雇っていない。それでも、患者向けの医療情報サービスも、学習アプリも、週刊のニュースレターも、会社の経理も、回っている。すべて、私が方向を決め、AIが手を動かした結果だ。

念のため言っておく。これは「特別な才能」の話ではない。私は、プログラミングを正式に学んだことがない。やったのは、手をAIに渡し、自分は方向と判断に集中する、という仕組みを、一つずつ組んだことだけだ。だから、あなたにも組める。

この本の使い方

この本は、読んで感心するための本ではない。組み立てるための本だ。だから各章を、こう作ってある。

  • 現場:私の仕事で実際に何が起きているかを、具体で見せる
  • やり方:そこから、あなたが真似できる原則を取り出す
  • 持ち帰り:章末に、今日試せる一歩を一つ置く

全六部。第1部で土台(方向と手)を固め、第2部で中心となる「自分のOS」を組み、第3〜4部で「作る・回す」実例を見せ、第5部であなた自身のOSを設計し、第6部で「速くなった先に、何を残すか」を考える。

最初から順に読んでもいいし、いま必要な部から開いてもいい。ただ、第1部だけは、先に読んでほしい。ここを飛ばすと、残りが「便利な小技集」に見えてしまう。この本が渡したいのは、小技ではなく、考え方の軸のほうだ。

一つだけ、断っておく

この本は「診察室でAIをどう使うか」の本ではない(それは、別に一冊書いた)。これは、一人の専門家が、自分の仕事まるごとをAIに任せる仕組みを、どう組んだかの本だ。だから、特定の職業の専門知識は要らない。要るのは、「自分の時間を、取り戻したい」という気持ちだけだ。

読み終えたとき、あなたは自分のOSの最初の一行を書ける。今日から、隙間の九十秒で、始められる。

では、始めよう。 暮らしはウェルネス、仕事はAIに。