社内の規程について、同僚からよく質問されます。「出張の日当はいくら?」「在宅勤務の申請は何日前?」。毎回、規程のファイルを開いて探すのが手間です。
そこで、規程のフォルダ(30個のファイル)を丸ごとAIに渡して、聞いてみました。「出張の日当はいくら?」。返ってきた答えは、去年改定される前の金額でした。フォルダに、古い版のファイルも残っていたのです。
かといって、関係しそうな1ファイルだけ渡すと、今度は「その規程には書いてありません」。別のファイルに書いてあったのでした。
Step 1:AIは、手元の情報で答える
AIが答えるとき、使っているのは、そのときに手元に置いている情報です。あなたの頼み方、読んだファイル、それまでの会話。これをまとめて、コンテキスト(文脈)と呼びます。
チャットのAIも、エージェントも同じです。手元にない情報からは答えられません。手元に古い情報があれば、それを根拠に答えます。
Step 2:手元に置ける量には、上限がある
AIが一度に手元に置ける情報の量には、上限があります。この上限を、コンテキストウィンドウと呼びます。
量は、トークンという単位で数えます。おおよそ、文字の数に比例する単位だと思っておけば十分です。トークンは、AIの料金や、使える量の上限の話でも出てきます。
上限に近づくと、AIは古い部分を要約したり、忘れたりします。また、たくさんの情報が手元にあるほど、大事な所を見落としやすくなります。
渡す量と、答えの質
古い版や関係ない規程が混ざり、それを根拠に答える。量が多いほど、大事な所を見落としやすい
答えが別のファイルにあると、「書いていない」と答えるか、推測で答える
Step 3:量ではなく、要る情報があるか
答えの質を決めるのは、渡した量ではありません。いま答えるのに要る情報が、手元にあるかどうかです。
多すぎても、少なすぎても外れる。では、どう渡せばよいのか。次の回から、その方法を見ていきます。
Step 4:この章の練習用の規程を作る
この章は、社内の規程に答える質問係を作ります。本物の規程を渡す前に、練習用の規程を作らせます。
renshu の中に「規程」というフォルダを作って、架空の会社の社内規程を作って。1つの規程を1つのファイルにする。
・旅費規程(2026年4月改定):国内の出張の日当は、日帰り2,000円、宿泊を伴うとき3,000円。海外出張のことは書かない
・旅費規程(2025年版):日帰りの日当は1,500円。古い版だと分かるように、ファイルの一番上に版を書く
・在宅勤務規程(申請は3日前まで)、休暇規程、経費精算規程、備品貸出規程も、それぞれ第1条から第8条くらいで
各ファイルの一番上に、いつの版かを書いて。実在の会社名や人の名前は使わないで。
古い版をわざと残しておくのは、冒頭のずれを、練習で起こせるようにするためです。
試しに「出張の日当はいくら?」と聞いてみてください。ファイルが6つしかないうちは、AIが古い版に気づいて、正しく答えることもあります。ファイルが30、100と増えるほど、冒頭のようなずれが起きやすくなります。ずれを見てみたい人は、「旅費規程の古い版を、日当の金額を変えて10個足して」と頼んでから、もう一度聞いてみてください。
本物の規程が Word や PDF のファイルでも、たいていはそのまま読めます。読めないと言われたら、「文字だけのファイル(.txt か .md)に変えて」と頼みます。本物を渡すのは、第1部の最後の安全ゲートを通ってからにします。
ここが核心
たくさん渡すほど良いのではなく、いま要る情報が手元にあるかで、答えが決まる。
注意
ただし、上限の量はAIの種類や設定で違う
コンテキストウィンドウの大きさは、AIの種類(モデル)や、使っているプランや設定で変わり、年々大きくなっています。この本では数字を覚えるのではなく、「上限がある」「近づくと質が落ちる」の2つを覚えておきます。
セルフチェック
1. 規程のフォルダを丸ごと渡して質問したら、古い版の金額で答えました。いちばん近い理由はどれですか?
今日のまとめ
- コンテキスト:AIが答えるときに手元に置いている情報
- コンテキストウィンドウ:一度に置ける量の上限。量はトークンで数える
- 答えを決めるのは量ではなく、要る情報があるか
次の問い:全部渡さずに、要る所だけを読ませるには?