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Zero-shot・Few-shot・Chain-of-thoughtの医療活用

3つの主要プロンプティング戦略を医療場面に適用する方法を、具体的テンプレートとともに解説します。

3つのプロンプティング戦略

AIに医療的な質問をする方法は、大きく3つの戦略に分類できます。それぞれに適した場面があり、使い分けることで回答の質が大きく変わります。

Zero-shot: 例を示さずに直接質問する Few-shot: 数個の例を示してからパターンに沿った回答を求める Chain-of-thought (CoT): 思考過程を段階的に展開させる

Zero-shot プロンプティング

Zero-shot は最もシンプルな戦略です。例を示さずに、直接的に質問や指示を行います。AIの事前学習知識に依存するため、一般的・標準的な医療知識を問う場面に適しています。

Zero-shot が適している場面

  • 一般的なガイドラインの確認
  • 標準的な薬剤情報の参照
  • 基本的な病態生理の説明
  • 定型的な文書テンプレートの作成
プロンプト

あなたは循環器内科の専門医です。

2型糖尿病を合併した慢性心不全(HFrEF、LVEF 35%)患者における SGLT2阻害薬の適応と推奨について、以下の観点から解説してください。

  1. 適応基準(どのような患者に推奨されるか)
  2. 推奨される薬剤と用量
  3. 開始時の注意点
  4. モニタリング項目と頻度
  5. 中止を検討すべき状況

日本循環器学会のガイドラインに準拠し、 各推奨にエビデンスレベルを付記してください。

プロンプト

あなたは医学教育に携わる内科専門医です。

敗血症における臓器障害の発生メカニズムを、以下の流れで解説してください:

  1. 感染→免疫応答の異常活性化
  2. サイトカインストーム
  3. 血管内皮障害と凝固異常
  4. 微小循環障害
  5. 多臓器不全への進展

各ステップで関与する主要なメディエーター(サイトカイン、接着分子等)を 具体的に挙げ、治療介入のポイントとなる段階を示してください。 研修医が理解できるレベルの説明でお願いします。

Zero-shot の限界

Zero-shot は便利ですが、以下の場面では精度が不十分になることがあります。

  • 施設特有のフォーマットに合わせた文書作成
  • 特殊な患者背景への対応
  • 非標準的な臨床判断

このような場面では、Few-shot 戦略が有効です。

Few-shot プロンプティング

Few-shot は、期待する回答の例を1〜3個示してから質問する戦略です。「こういう形式で」「こういうトーンで」「こういう粒度で」と例示することで、AIの回答をコントロールします。

Few-shot が適している場面

  • 施設独自のフォーマットに合わせた文書作成
  • 特定のスタイルでの患者説明
  • 一貫した形式での鑑別診断リスト
  • カスタマイズされた教育資料の作成
Zero-shot(施設フォーマット不明)Few-shot(施設フォーマット例示あり)

この患者の退院サマリーを書いてください。

以下の例に合わせた形式で、新しい患者の退院サマリーを作成してください。

【例1】 入院期間: 2025/11/1〜2025/11/8(7日間) 主病名: 急性心筋梗塞(#1 LAD) 入院時所見: 胸痛にて救急搬送。ST上昇あり。 治療経過: 緊急PCI施行(DES留置)。術後合併症なし。 退院時処方: [処方リスト] 退院時指導: 心臓リハビリ外来フォロー。禁煙指導済み。


上記の形式に従い、以下の患者の退院サマリーを作成してください: [新しい患者の情報]

プロンプト

あなたは総合内科の専門医です。 以下の例に合わせた形式で紹介状を作成してください。

【例:紹介状のフォーマット】

○○先生 御侍史

平素より大変お世話になっております。 下記の患者さんをご紹介申し上げます。

【患者氏名】山田太郎 様(60歳男性) 【紹介目的】精査加療のお願い 【傷病名】右肺結節影(肺癌疑い) 【経過】 2025年10月の定期健診にて胸部X線で右上肺野に結節影を指摘。 CT精査にて右S1に18mm大のスピキュラを伴う結節を認めました。 PET-CTでのSUVmax 5.2と集積亢進あり。 【現在の処方】アムロジピン5mg 1x/日(高血圧に対して) 【お願い事項】気管支鏡検査を含めた精査をお願いいたします。

何卒よろしくお願い申し上げます。

以下の患者情報から、上記と同じ形式の紹介状を作成してください:

[患者情報を入力]

プロンプト

以下の例を参考に、指定された疾患の患者説明文書を作成してください。

【例:高血圧の患者説明】 「高血圧について」 Q1: 高血圧とはどんな病気ですか? → 血液が血管を流れるときの圧力が高い状態が続く病気です。自覚症状がほとんどないため「サイレントキラー」と呼ばれますが、放置すると脳卒中や心臓病のリスクが高まります。

Q2: なぜ治療が必要ですか? → 高い圧力が長期間続くと、血管の壁が傷つき、動脈硬化が進みます。結果として脳出血、心筋梗塞、腎不全などの重大な病気を引き起こす可能性があります。

Q3: 日常生活で気をつけることは? → 減塩(1日6g未満)、適度な運動(1日30分のウォーキング)、禁煙、適正体重の維持が大切です。


上記と同じQ&A形式で、以下の疾患の患者説明文書を作成してください:

疾患名: [疾患名] 対象患者: [年齢層・背景] 健康リテラシー: [高/中/低]

Chain-of-thought(CoT)プロンプティング

Chain-of-thought は、AIに段階的な思考過程を展開させる戦略です。臨床推論のプロセスと親和性が高く、複雑な鑑別診断や治療方針の決定に特に有効です。

CoT が適している場面

  • 複雑な鑑別診断の検討
  • 多剤併用患者の薬物相互作用評価
  • リスク・ベネフィット評価
  • 倫理的ジレンマの検討
  • エビデンスに基づく治療方針の決定
プロンプト

あなたは救急医学の専門医です。

以下の症例について、段階的に臨床推論を行ってください。 各ステップで思考過程を明示してください。

【症例】 28歳女性。突然の頭痛と嘔吐で救急搬送。 バイタル: BP 160/95, HR 110, BT 37.8℃, GCS E3V4M6 頭痛は「今までで一番ひどい」と訴え。

【推論ステップ】 Step 1: 主訴と疫学的特徴から、まず考えるべき疾患群を挙げてください。 Step 2: バイタルサインから読み取れる情報を分析してください。 Step 3: 「今までで一番ひどい頭痛」という表現の臨床的意義を考察してください。 Step 4: 緊急度の評価(must-not-miss diagnoses)を行ってください。 Step 5: 鑑別診断を可能性の高い順に5つ挙げ、各鑑別の支持所見と否定所見を整理してください。 Step 6: 直ちに行うべき検査を優先順位付きで提案してください。 Step 7: 最も考えられる診断とその根拠をまとめてください。

各ステップの結論を次のステップの推論に反映させてください。

プロンプト

あなたは臨床薬理学の専門家です。

以下の多剤併用について、段階的に相互作用を評価してください。

【処方リスト】

  1. ワルファリン 3mg/日
  2. アミオダロン 200mg/日
  3. クラリスロマイシン 400mg/日(新規追加予定)
  4. ランソプラゾール 15mg/日
  5. アトルバスタチン 10mg/日

【評価ステップ】 Step 1: 各薬剤の主要な代謝経路(CYP酵素)を確認 Step 2: CYP酵素を介した相互作用の組み合わせを全て列挙 Step 3: 薬力学的相互作用の可能性を評価 Step 4: 臨床的に最も重要な相互作用を重大度順にランク付け Step 5: 各相互作用への対策(用量調整、代替薬、モニタリング)を提案 Step 6: 新規追加予定のクラリスロマイシンの可否について最終判断

各ステップの根拠を明記し、最終的な推奨を明確に述べてください。

戦略の使い分けガイド

3つの戦略は場面に応じて使い分けることが重要です。

戦略選択の目安:

  • Zero-shot → 標準的な医療知識の確認、一般的な質問
  • Few-shot → 特定のフォーマットや文体に合わせた出力が必要な場合
  • CoT → 複雑な臨床推論、多段階の判断が必要な場合

戦略の組み合わせ

実践では、これらの戦略を組み合わせることでさらに効果的なプロンプトを作成できます。

プロンプト

あなたは総合診療科の専門医です。

以下の例のように、段階的な臨床推論を行い、鑑別診断をまとめてください。

【例】 症例: 65歳男性、3日前からの咳嗽・発熱 思考過程:

  1. 急性の咳嗽+発熱 → 感染症を最も考える
  2. 年齢65歳 → 市中肺炎のリスクが高い年齢層
  3. 鑑別: 市中肺炎(最も可能性高)、急性気管支炎、インフルエンザ、COVID-19
  4. 次の検査: 胸部X線、SpO2、血液検査(WBC, CRP)、インフルエンザ迅速検査 結論: 市中肺炎の可能性が最も高く、A-DROPスコアで重症度評価を行う

上記と同じ形式で、以下の症例を分析してください:

[新しい症例の情報]

Chain-of-thought プロンプティングでは、AIが「思考過程を示す」ことで一見説得力のある回答を生成しますが、その推論が必ずしも正しいとは限りません。特に稀少疾患の鑑別や、エビデンスが限られる領域では、AIの推論過程そのものを批判的に検証する姿勢が不可欠です。

この章のポイント

3つのプロンプティング戦略はそれぞれ得意な場面が異なります。日常的な確認にはZero-shot、フォーマットの統一にはFew-shot、複雑な臨床推論にはChain-of-thoughtを使い分けることで、AIの回答品質を最大化できます。迷ったら、まずZero-shotで試し、回答の質が不十分であればFew-shotやCoTにステップアップする段階的アプローチが実践的です。