状況
日経メディカルの連載とメルマガを並行して動かしていると、医療ニュースの解説を書く機会が月に何本も来る。
問題は、同じニュースでも読者層によって伝え方がまったく違う点だ。「Nature Medicineに出たLLM診断支援の論文」を医師向けに書くなら感度・特異度や研究デザインの話になるが、メルマガ読者(医療に関心はあるが臨床知識は薄い一般層)向けには「何がどう変わるのか」「今の自分にどう関係するか」の言葉が要る。
この2バージョンを毎回ゼロから書いていると、同じニュースを2度読んで2度構成して、みたいな非効率が積み重なる。Claudeに渡して並列で下書きを出させることで、自分は「AI出力の何が足りないか」を判断する工程に集中できるようになった。
やったこと
3ステップに分けている。
Step 1: ニュース本文を渡して要点を抽出させる
記事URLか本文テキストをそのまま貼る。要約よりも「何が主張で何が証拠か」を分離させるほうが後工程で使いやすい。
以下の医療ニュース記事を読んでください。
[本文またはURL]
次の3点を整理してください:
1. 主張(この記事が言いたいこと)
2. 証拠(その根拠となるデータ・研究・声明)
3. 限界・留意点(記事自身が認めている制限、または読み手が注意すべき点)
AI出力を受け取ったら、まず「証拠」の部分が一次情報に即しているか自分で確認する。ここで論文や公式発表の原文を引いて、数値が合っているか、文脈が正確かを突合する。合っていなければ修正してからStep 2へ進む。
Step 2: 医療従事者向け解説を生成させる
Step 1の要点整理を引き継いで、連載向けのトーンで下書きを出させる。
整理した内容をもとに、医療従事者向け(医師・看護師・医療職)の解説文を書いてください。
条件:
- 800〜1200字、である調
- 研究デザイン・エビデンス強度・臨床適用上の注意点を含める
- 数値は原文に忠実に。推定・外挿はしない
- 「画期的」「革命的」等の誇張語は使わない
- 最後に「実臨床で何が変わるか・変わらないか」を1段落でまとめる
Step 3: 一般向け解説を生成させる
同じニュースを、メルマガ読者に向けた言葉に変換させる。
同じ内容を、医療の専門知識がない一般読者向けに書き直してください。
条件:
- 600〜900字、ですます調
- 専門用語は使わず、日常の言葉に置き換える
- 「自分に何が関係するか」が最初の段落で分かるようにする
- 過剰な安心も不安も与えない。現時点での不確実性を正直に伝える
- 「続きは医師に相談を」等の逃げ文句で終わらない(具体的に何を聞くかまで書く)
2つの下書きが出たら、自分の意見と体験を加筆して仕上げる。この最終の「自分の主張」工程はAIに任せない。
効いたところ
- 下書き生成まで体感で6割短縮(1本あたり2〜3時間かかっていたところ、自分の加筆工程だけの1時間弱になった)
- 2バージョンを並列で出すことで、「この情報は一般向けに翻訳できない」という判断が早くなった(翻訳できない=一般層には不要なニュースという判断基準になる)
- AI出力の「論文で示されている」「研究によると」という言い方のばらつきを、エビデンス強度に揃えて修正する作業が、逆に自分のエビデンス評価の訓練になっている
- 視点が一方向に偏りにくくなった(AIは欧米の研究を中心に出す傾向があるため、日本のコンテキストで補足する習慣がついた)
限界・気をつけていること
- 一次情報の確認は絶対に省かない。AI出力の数値は論文原文と照合する。1桁違いや「統計的有意」の誤解釈が実際に出た
- AI解釈が意図せず誇張されていることがある(特に「初の」「最大規模の」等の修飾語)。自分で記事を読んで判断する
- 自分の意見はAI出力を超えて入れる。「Claudeが言っていること」をそのまま連載に載せるのは著者としての仕事を放棄している
- 「一般向け」の平易な言葉が、正確性を犠牲にしていないか毎回チェックする。平易さと正確さのトレードオフを自分で決める
横展開
同じフローは、論文を直接読んで解説するケース(PubMed AbstarctをStep 1に渡す)でも使える。メルマガの週次ニュースダイジェストをまとめる場合は、複数記事を一度に渡してStep 1の要点抽出を束ねてからStep 2・3に進む形に変えている。学会発表前に「この演題の意義を非専門家向けに説明する文章」を作るときも同じ構造が効く。