状況
手術や侵襲的検査の前に保護者へIC説明文書を渡す場面がある。愛育病院では書き方の雛形はあるが、個々の患児の年齢・診断・既往に合わせて文章を調整するのは毎回手作業だった。
小児ICの難しさは成人と少し違う。患者本人ではなく保護者が意思決定の主体になるため、医学的な正確さと「小学生でも分かる平易さ」を同時に要求される。特に「リスクは何%か」「手術をしないとどうなるか」という問いに、書面で答えておく必要がある。それをゼロから書くと、慣れた処置でも15〜20分はかかる。外来の隙間でそれをやるのは正直きつかった。
やったこと
Claudeに以下のテンプレートを渡す。処置ごとに {{}} の中を書き換えるだけで、10分かからず下書きが出てくる。
あなたは患者コミュニケーションに長けた経験豊富な外科医です。以下の手術/検査/治療について、患者に分かりやすいインフォームドコンセント説明文書を作成してください。
# 基本情報
- 処置名: {{処置名}}(例: 腹腔鏡下胆嚢摘出術)
- 対象患者: {{年齢}}歳、{{性別}}
- 診断名: {{診断名}}
- 緊急度: {{予定/準緊急/緊急}}
# 説明文書に含めてほしい内容
1. 病状の説明: なぜこの処置が必要か(医学用語を使わず平易に)
2. 処置の内容: 具体的に何をするか(麻酔方法、所要時間含む)
3. 期待される効果: 処置によって何が改善するか
4. リスクと合併症:
- 一般的なリスク(頻度:%で記載)
- 稀だが重大なリスク
- この患者に特有のリスク(既往歴に基づく)
5. 代替治療法: 処置を行わない場合の経過、他の治療選択肢
6. 術後の経過: 入院期間、日常生活への復帰時期、フォローアップ
7. 費用: 概算(保険適用/自費)
# 文書のトーン
- 中学生が理解できるレベルの日本語
- 恐怖を煽りすぎず、かつリスクを過小評価しない
- 「〜かもしれません」「〜の可能性があります」など適切な表現
- 患者が質問しやすい雰囲気を作る文末
# 注意事項
- 生成された文書は担当医が必ず確認・修正してください
- 施設の同意書フォーマットに合わせて調整してください
実際に使ったのは、鼠径ヘルニア手術(1歳男児)の保護者説明だった。既往歴に早産歴があったので「この患者に特有のリスク」の欄に「修正34週での早産歴あり、麻酔覚醒に注意が必要な可能性」と足して渡した。
出てきた下書きを読んで、麻酔科から言われていた点(覚醒遅延のリスク)が薄かったので1段落加筆し、施設フォーマットに整形して保護者に渡した。全部で7〜8分だった。
効いたところ
- 文書作成の所要時間が体感で約15分から5分に短縮された
- 保護者が署名前に確認する項目が網羅されているため、「これは何ですか?」という基本的な質問が減った
- 平易な表現にAIが翻訳してくれるため、専門用語をどこまで噛み砕くかで悩む時間が消える
- 代替治療の記載が自動で入るため、「手術しない選択肢」を保護者が比較検討しやすくなった
限界・気をつけていること
AIが出した下書きをそのまま使えない理由はいくつかある。
- 小児特有のリスクを漏らす: 体重あたり薬剤量・解剖学的特性・代謝速度など、成人との差をAIは意識しにくい。「小児の特有リスクも含めて」と一言添えても、出力の精度は安定しない。必ず医師が全文を見る
- 頻度の数字は出典不明: 「合併症リスクは約1〜2%」のような数字が出てくるが、根拠文献は示されない。自施設データや診療ガイドラインの数字と突合して使う
- 署名押印用には使わない: 法的文書としての有効性は医師と患者・保護者間の実際のコミュニケーションに基づく。AI出力はあくまで「下書き素材」であり、最終版は医師が責任を持って仕上げる
- 個人情報の入力に注意: 患者氏名・生年月日・診察番号など特定できる情報はプロンプトに入れない。処置名・年齢・診断名・既往の医学的事実のみを渡している
「AIが書いたIC文書を保護者に渡した」ではなく、「医師がAIで素材を整えてから作成したIC文書を渡した」という線引きは大事だと思っている。
横展開
この使い方は内視鏡・造影検査・腰椎穿刺など侵襲的処置全般に使える。小児科以外でも、産婦人科・外科・整形外科のような「IC文書を量産する科」との相性はいい。また、同じ処置でも「3歳の保護者向け」と「15歳の本人向け」で説明レベルを変えるよう一文添えると、年齢に応じた文書が出てくる。minatonに「手術前に保護者が知っておくこと」のような汎用記事を置いておき、IC文書と合わせて渡す導線も今後試したいと思っている。