状況
小児科の当直は、内科当直とは少し性格が違う。深夜に飛び込んでくるのは「熱性けいれん疑い」「喘息発作」「嘔吐下痢の脱水評価」あたりが多い。外来トリアージに近い時間外診療で、1件あたりの滞在時間は短いが、同時に複数件が重なることもある。
困るのは「夜中の2時」の判断だ。集中力が落ちた状態での鑑別、慣れない症例の処置手順の確認、そして当直明けに仮眠ゼロで書く申し送り文書。この3点がClaudeの補助によってある程度マシになった。
やったこと
当直前(出勤前30分)
その日の当直病棟と想定される頻出疾患を踏まえ、事前にプロトコルを生成してスマートフォンのメモアプリに保存しておく。
あなたは小児救急の指導医です。小児科夜間当直で遭遇しやすい以下の疾患について、
「初期評価」「必要な検査(なければ省略可)」「初期治療」「上級医コンサルト基準」
の4項目で箇条書きのプロトコルを作成してください。
対象:
1. 熱性けいれん(単純型・複雑型の区別)
2. クループ症候群
3. 喘息発作(GINA分類別対応)
4. 急性胃腸炎による脱水(Gorelick重症度スコア)
5. アナフィラキシー
各疾患について以下の形式で:
【疾患名】
- 初期評価:
- 必要な検査:
- 初期治療(薬剤は用量を添付文書で要確認):
- 上級医コンサルト基準:
生成されたプロトコルは「正解のコピー」ではなく「記憶の呼び水」として使う。実際の薬剤量は添付文書で必ず確認し直す。
当直中(診察の合間)
夜間に診た症例で「鑑別の漏れがないか確認したい」と思った時に使う。患者の個人情報は絶対に入力しない。年齢は年齢層で代替し、主訴・バイタル・現病歴の要点だけを匿名化して入力する。
あなたは小児科の指導医です。以下の症例の鑑別診断を整理してください。
【匿名化済み症例】
- 年齢層: 2歳台
- 性別: 男児
- 主訴: 夜間の犬吠様咳嗽・嗄声
- バイタル: 体温 38.2度、SpO2 97%(room air)、多少の吸気性喘鳴あり
- 現病歴: 夕方から発症。日中は元気だった
【出力形式】
1. 見逃せない疾患(支持する所見・否定に必要な確認事項)
2. 可能性の高い疾患
3. 推奨する評価・初期対応の手順
急変対応の最中にこれを開く余裕はない。SpO2が下がっている、呼吸努力が強い、意識がおかしい、そういう場面では脳が動く先に手が動かないといけない。AIを使うのは「一次評価が落ち着いて、自分の頭の中を確認したい時」に限っている。
当直明け(申し送り構造化)
翌朝の申し送りは、当直で疲れた状態で書く。ここがいちばんClaudeが助かる場面だ。当直中に箇条書きでメモした内容を整理して渡すと、構造化された申し送り文書の素材になる。
以下の当直中の診療メモをもとに、日勤担当医への申し送り文書を作成してください。
後医が引き継ぎやすい形で、各患者について「診断・処置内容・経過・要確認事項」を整理してください。
【診療メモ(匿名化済み、仮番号で管理)】
- 患者A(2歳台、男児): クループ疑い、ブデソニド吸入施行、SpO2 99%で帰宅
- 患者B(5歳台、女児): 急性中耳炎、外来処方で帰宅、3日後再診指示
- 患者C(10歳台、男児): 喘息中発作、短時間作用性β2吸入×3回、入院管理中
出力は「後医が読んで次の対応を判断できる」水準で。医師が確認・修正することを前提に。
出てきた文書はそのまま使わず、必ず自分で読んで修正する。「AI生成のドラフトを医師が確認・修正した」という事実をカルテのコメントに一行残している。
効いたところ
- 当直前に準備することで、夜中に焦って調べる時間が減った
- 鑑別のプロンプトを使うことで、疲労時に「思いつかなかった疾患」が浮き上がることがある
- 申し送り作成の時間が体感で半分以下になった
- 「ちゃんと考えた」という記録が残るので、後から振り返りやすい
限界・気をつけていること
- 急変対応はAIを開く前に動く: 心肺停止・アナフィラキシーのショック・急速進行する呼吸不全は、手と口が動く前に脳を止めてはいけない。急変フローはトレーニングで体に染み込ませるもので、AIに確認しながらやるものではない
- 薬剤量はAIに任せない: AIが出力した用量はあくまでメモ程度。小児は体重換算が必要で、誤差が直接患者に影響する。添付文書か施設の処方マニュアルで確認してからオーダーする
- 個人情報を一切入力しない: 氏名・生年月日・ID・施設名はもちろん、「本日○○病院のN先生が診た」という文脈も入れない。入力前に必ず匿名化する
- AI使用の事実を記録する: 申し送り文書にAIのドラフトを使った場合は、「AI補助あり・医師確認済み」と一行残す。後で同じ文書を誰かが参照する可能性がある
- AIは鑑別の「網」であって「答え」ではない: Claudeが出した鑑別リストを確認材料として使うが、最終診断は身体所見・検査・臨床経過の総合判断で自分が下す
横展開
同じ3フェーズのワークフローは、外科系当直や産婦人科当直にも応用できる。疾患リストとプロンプトの中身を当直科の頻出疾患に置き換えるだけで、準備の型はそのまま使える。申し送り構造化は診療科を問わず効く。当直以外でも、多忙な外来後の紹介状の素材整理など、「疲れた頭でまとまった文章を作る」場面なら同じパターンが使いやすい。