状況
小児科外来で、発熱の子どもを診るのは日常だ。しかし3歳未満、とくに生後3か月未満の発熱は話が変わる。重症細菌感染症(SBI)のリスクが年齢で急変するし、外見が「元気そう」でも侮れない月齢がある。
自分がずっと感じてきた問題は、忙しい外来の午後に「今日5人目の発熱児」になったとき、評価の質が落ちることだ。Rochester基準を頭に入れているつもりでも、接種歴を聞き忘れた、General Appearanceの記録が曖昧だった、という穴が出る。
チェックリストを紙で用意する手もあるが、月齢によって評価軸が変わるため一枚では収まらない。これをClaudeで解決できないか、と思って試し始めた。
やったこと
外来PCに常駐させているプロンプトはこれだ。診察後、患者情報を埋めてClaudeに貼る。
あなたは小児救急に精通した小児科専門医です。以下の発熱小児患者について、年齢に応じたリスク評価と推奨対応を提示してください。
# 患者情報
- 年齢: {{年齢}}(例: 生後2か月、3歳)
- 体温: {{体温}}°C(測定方法: {{腋窩/直腸/鼓膜}})
- 発熱期間: {{期間}}
- 随伴症状: {{症状}}(例: 咳嗽、嘔吐、不機嫌、哺乳不良)
- 外観(General Appearance): {{良好/ぐったり/不機嫌/傾眠}}
- バイタルサイン: 心拍数{{HR}}/分、呼吸数{{RR}}/分、SpO2{{SpO2}}%
- 既往歴: {{既往歴}}
- 予防接種歴: {{接種状況}}
- 周囲の感染状況: {{保育園での流行など}}
# 評価してほしいこと
1. 年齢別リスク分類: Rochester/Philadelphia/Boston基準等に基づく低リスク/高リスクの判定
2. 鑑別診断: 年齢・症状に応じた鑑別(Critical/Common/季節性)
3. 推奨検査: 血液検査、尿検査、髄液検査の必要性判断
4. 初期対応: 解熱薬の用量(体重ベース)、輸液の要否、入院/帰宅の判断基準
5. 保護者への説明: 再受診の目安(Red Flags)
# 出力形式
- 年齢別のバイタルサイン正常値との比較を含めてください
- 体重ベースの薬用量は必ず計算式を示してください
- 注意:出力は診断の補助であり、最終判断は必ず診察医が行ってください
年齢帯によって評価の肌感が変わるので、そこは自分で念頭に置いておく。
- 生後28日未満: 出力にかかわらず、フルセプシスワークアップが基本。ここでAIに何かを任せようとは思っていない
- 生後29日〜3か月: Rochester基準でリスク層別化。接種歴が判断を動かすので、入力に正確さが要る
- 3か月〜36か月: 予防接種歴(特にHib・肺炎球菌)が鑑別診断の重さを変える
- 36か月以上: 評価は成人に近づくが、バイタルの正常値は別
Claudeが返す内容を、自分がもう一度診察メモと突き合わせてから、保護者への説明に入る。「AIが判断した」のではなく、「自分が、構造化されたチェックリストを通して判断した」という順序だ。
効いたところ
- 月齢帯を横断して「今日の患者はどの基準で評価すべきか」が即座に整理される
- 自分が見落としていた視点(尿検査を取るべきか、保育園の流行状況を聞き忘れていた等)をAIの出力が引っ張り出してくれる
- 研修医への教育場面で、「なぜ生後2か月の発熱と3歳の発熱を同じように扱えないのか」を構造化して見せるのに使える
- 帰宅基準・再受診の目安(Red Flags)を保護者に伝える前の確認として機能する
限界・気をつけていること
医療判断はAIに委ねない。 これは原則として維持している。
- 月齢・接種歴の入力を誤ると評価がずれる。ゴミを入れればゴミが出る
- バイタル計算、薬剤量(アセトアミノフェンのmg/kg換算等)はAIの出力を参考にしても、必ず教科書・添付文書で原本確認する
- 入院/帰宅の最終判断はAIの推奨を受け取った後に医師が下す。Claudeが「帰宅可能」と言っても、診察室の子どもの顔色が引っかかれば入院を選ぶ
- 患者情報をそのままClaudeに貼る場合、個人識別情報(氏名・生年月日)は削除してから入力する
- AI出力の「推奨検査」は施設のリソースや状況によって変わる。地方の診療所と愛育病院では選択肢が違う
横展開
この型は「年齢によって評価軸が変わる」疾患に相性がいい。川崎病の診断基準チェック、熱性けいれんの初回/再発評価、RSVの重症化リスク判定あたりは同じ発想で使えると思っている。「繰り返す」かつ「月齢・背景で判断が変わる」場面に絞って使うのがコツだ。