状況
LLMによる患者教育介入のSRを書いていて、初稿を出すまでが一番しんどかった。文献レビューは終わっている、データも出ている、なのに「書き始められない」という状態が続く。
特に困るのがIntroductionだ。背景→ギャップ→目的の3段構成は頭では分かっているが、最初の1段落を書くのに30分かかることがある。Discussionも同じで、結果の解釈の順番が決まらないと手が止まる。
MARWの7段階ワークフローを知ってから、「書けない」の原因が「構造が固まっていないから」だと分かった。AIを使うのは「文章を生成させる」ためではなく、「構造を外に出す」ためだと捉えてから、使い方がはっきりした。
やったこと
MARWのステップ5(原稿執筆)を自分の研究に当てはめると、こういう順番になる。
MARW ステップ5: 推奨執筆順
1. Methods(方法)→ 再現性の観点で最も客観的に書きやすい
2. Results(結果)→ 事実を淡々と。解釈を入れない
3. Discussion(考察)→ ここが一番判断が要る
4. Introduction(序論)→ 最後に書くと論文全体と整合する
5. Abstract(抄録)→ 全部揃ってから
この順番通りに進めると、Discussionを書く時点でResults全体が見えており、Introductionを書く時点で「自分の研究が何を言っているか」が確定している。逆順に書くよりずっと迷いが少ない。
Introduction下書き
文献レビューの要約(テーマ別に整理したアトミック・ステートメントの束)をClaudeに渡して、こうプロンプトを投げた。
以下の「事実」のかたまりを使って、Introductionの草稿を作ってください。
[文献レビュー要約:LLMによる患者教育介入の現状、効果、限界]
4部構成で書いてください:
1. 現状のまとめ:今どこまで分かっているか
2. 未解決の問題点:研究間で結果が割れている点、議論が続いている点
3. リサーチギャップ:まだ誰も答えていない問い
4. 本研究の立ち位置:このSRがそのギャップにどう答えるか
先行研究への引用は [Author, year] 形式でプレースホルダーを残してください。
最終的な引用確認は自分でやります。
返ってきた草稿は「そのまま提出」できるものではない。ただ、「この流れで書けばいい」という骨格が出てくる。自分ならではの解釈や、文献から読み取った温度感は自分で書き直す。AIの下書きは「白紙を埋める」ためだと割り切っている。
Methods整理
研究プロトコルをそのままClaudeに貼り、PRISMA準拠の記述に変換させた。
以下の研究プロトコル(SRの概要)に基づいて、PRISMA 2020声明に準拠した
Methodsセクションを執筆してください。
[プロトコル概要:PICO・検索戦略・スクリーニング基準・データ抽出・
リスクオブバイアス評価・統計的統合の方針]
再現可能性の確保を最優先にしてください。第三者がこの記述だけでSRを
再現できる詳細さで書いてください。
AI使用の開示セクションも含めてください(使用ツール・目的・人間による検証方法)。
ここでAIが一番役立つのは、「何を書かなければならないか」の網羅チェックだ。PRISMA checklist 27項目を自分で全部覚えて書くのは難しいが、AIに構成案を出させると「あ、検索日付を書き忘れた」「除外基準の理由が抜けている」というのが見えてくる。
Discussion論点出し
Resultsの要約と文献レビューの要点を渡して、議論の骨格を出させた。
以下の主要な発見と既存研究に基づいて、Discussionセクションの
論点リストを作ってください。
主要な発見:[Resultsの要約]
既存研究の要点:[文献レビューのまとめ]
以下の問いに答える形で構成してください:
1. 本研究の発見は既存研究と一致するか、相違するか
2. 一致・不一致の理由として考えられる機序は何か
3. 臨床・政策的な含意は何か
4. 本研究の限界(最低3つ)とそれが結論に与える影響
5. 今後の研究の方向性
「論点リスト」として出力してください。文章化は自分でやります。
ここでは「文章」でなく「論点リスト」を求めるのがポイントだ。AIが書いた文章をそのまま使うと、自分の解釈が薄まる。論点の箇条書きを見ながら、自分で書く方が結果的に速い。
効いたところ
- 初稿到達まで体感で3割速くなった(特に「書き始め」の停滞が減った)
- Introduction→Discussion→Methodsでセクション間の論理的なねじれが減る
- PRISMAチェックリストの網羅漏れを構成案の段階で気づける
- 引用文献のプレースホルダーを残す習慣がついて、後からのPubMed突合が楽になった
- 「白紙への恐怖」がなくなり、執筆を小単位のタスクに分解して進められるようになった
限界・気をつけていること
- 統計手法の適切性はAI判断を信用しない:メタ解析の手法(fixed vs random effects)や異質性の解釈は、自分と統計家で判断する。AIが提案した手法は必ず根拠を確認する
- データ解釈はAIに任せない:数値の方向性や臨床的意義の評価は自分で行う。AIの解釈は「視点の一つ」として参照するにとどめる
- reviewer対応は自分で書く:査読コメントへの回答は、研究の意図と文脈を最も理解している著者が書く。ここをAIに外注すると回答が的外れになりやすい
- 共著者の貢献を埋没させない:AI生成の草稿を共著者に「これどう思う?」と渡すと、共著者の視点が入りにくくなる。論点リストの段階で共著者に確認し、議論してから執筆に入るフローを作った
- 引用の実在確認は必須:AIが生成した文章中の引用は必ずPubMedで実在を確認する。著者名・年・タイトルのどれか一つでもずれていることがある
横展開
同じワークフローを、症例報告や原著論文のObservational studyにも使っている。SRほどPRISMAの縛りがない分、Methodsの構造を自由に設計できるが、「再現可能性のために何を書くか」という問いはどの研究デザインでも同じだ。
研究室の後輩医師に「Introductionが書けない」と相談された時は、「まず文献の要約をAIに渡して論点リストを出させてみて」と伝えるようになった。「書く」のではなく「構造を外に出す」という使い方が分かると、AIとの距離感がだいぶ変わる。