

このレッスンで終わる頃には
- AIの回答から、危ない箇所を自分で指摘できる
- 「答えを見る前に自分で考える」「別の日に解き直す」という定着のさせ方が分かる
ここまで3つのレッスンで、AIの仕組み・確かめる型・エビデンスの強さを学びました。知識は、使って初めて身につきます。ここでは5つのAI回答を、あなた自身の目で点検します。
各ドリルは、答えを開く前に必ず自分で考えてください。読んで納得するだけでは、現場で見破る力になりません。頭の中で「どこが危ないか」を一度言葉にしてから、答えを開きます。
ドリルの使い方
各ドリルは、AIが返してきた回答です。あなたの仕事は「この回答をそのまま使っていいか、危ないならどこか」を指摘することです。
見るべきは、前のレッスンで身につけた急所です。
- 用量・投与期間はおかしくないか
- 引用文献は実在を確かめる必要があるか
- 根拠の強さと、言い切りの強さは釣り合っているか
- 別の集団(成人と小児など)の話を取り違えていないか
ドリル1: 溶連菌の抗菌薬
質問: 5歳、A群溶連菌性咽頭炎。第一選択の抗菌薬と投与期間は? AIの回答: 第一選択はアモキシシリンです。5日間の投与で十分です。
問い
どこが危ないか、まず自分で言葉にしてください
薬剤名だけでなく、投与期間に注目。急所は「期間」です。
視点
答え
投与期間が誤り。IDSAの2012年ガイドラインでは、第一選択はペニシリンまたはアモキシシリンで、投与期間は10日間です(According to PubMed, Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI)。薬剤名は正しくても、「5日間」を鵜呑みにすると再燃・合併症のリスクにつながります。用量・期間は、口調がどれだけ自然でも必ず原文で確認する急所です。
ドリル2: 自信たっぷりの引用付き回答
質問: この治療の有効性の根拠は? AIの回答: 田中ら(2019年、有名医学誌)の大規模研究で有効性が証明されています。
問い
この回答を、そのまま抄読会や患者説明に使えますか
引用が「付いている」ことと、引用が「実在する」ことは別です。
視点
答え
実在を確かめるまで使えない。著者名・年・雑誌名が揃っていても、AIはこうした文献をまるごと捏造します。前のレッスンで見たとおり、汎用モデルの引用捏造は実測でも珍しくありません(Geminiで26.2%: DOI)。やることは1つ、PubMedで著者名とタイトルを検索し、その論文が本当に存在するかを確かめる。存在しなければ、この回答は根拠ごと崩れます。
ドリル3: 成人の話を小児に
質問: 3歳の子どもの用量は? AIの回答: 成人と同じく1回500mgを1日3回で問題ありません。
問い
小児の処方で、まず引っかかるべき点は
成人の数字が、そのまま小児に流れ込んでいないか。
視点
答え
文脈の取り違えの典型。多くの小児薬用量は体重あたり(mg/kg)で決まり、成人量をそのまま当てるのは危険です。ここで確かめるのは具体的な数字そのものより、「成人データが小児に無警戒に転用されていないか」という型です。小児・妊婦・高齢者・腎機能低下例など、集団が変われば用量の前提が変わる。AIはこの切り替えをよく飛ばします。実際の用量は、小児用量の一次情報(添付文書・小児の標準的な参照)で確認します。
ドリル4: 弱い根拠を、強い口調で
質問: この新しい使い方は勧められますか? AIの回答: はい、確立された標準治療です。ある症例で著効した報告があります。
問い
「確立された標準治療」と「症例報告」は両立しますか
言い切りの強さと、挙げている根拠の強さを比べてください。
視点
答え
根拠の強さと口調が釣り合っていない。「確立された標準治療」という最上位の断定に対し、挙げている根拠は症例報告という最下位です。前のレッスンの4段階でいえば、これは「こういう例もある」どまりで、標準治療とは呼べません。口調の強さは、根拠の強さの証拠にならない。断定が強いときほど、その根拠がどの段階かを冷静に見ます。
ドリル5: 正しいこともある
質問: 溶連菌性咽頭炎で、ペニシリンアレルギーがある場合の選択肢は? AIの回答: セファレキシンやクリンダマイシンなどが代替として挙げられます。IDSAガイドラインを確認してください。
問い
この回答は疑うべきですか、使えますか
すべてを疑う練習ではありません。確かめて、正しければ使う。
視点
答え
確かめれば使える回答。ペニシリンアレルギー時の代替はIDSAガイドラインで扱われており、方向性として妥当です(原文で該当集団と用量を必ず確認: DOI)。さらにこの回答は、自分から「ガイドラインを確認してください」と一次情報に戻るよう促しています。検証は「AIを疑うこと」ではなく「一次情報で確かめること」です。合っていれば、安心して下書きに使えます。全部が嘘ではない。だから、確かめる型が要るのです。
定着は「別の日」に決まる
5問解いた直後は、誰でも解けます。本当に身についたかは、別の日に、冷えた頭で解き直したときに分かります。
答えを覚えてしまった直後の再挑戦は、記憶の確認にすぎません。数日あけて、同じ型の新しい問題を解けて初めて、「見破る目」が定着したといえます。これは能動想起と間隔反復という、学習science でも裏づけられた考え方です。このコースの後半(拡充版)では、この間隔をあけた出題を仕組みにしていきます。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 危ない箇所は、急所(用量・期間・引用の実在・根拠の強さ・集団の取り違え)を順に当てれば見つかる
- 全部が嘘ではない。だから「疑う」のではなく「一次情報で確かめる」。合っていれば使う
- 定着は解いた直後でなく、別の日に冷えた頭で解き直せたときに決まる
このレッスンで、検証入門の初版は終わりです。ここで身につけた「確かめる1往復」を、これから使うすべてのAIツールに持ち込んでください。それが、AIに振り回されない医師と、AIを相棒にできる医師を分けます。
参考文献
- Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI(According to PubMed, PMID 22965026)
- McLaughlin ND, Srinivas AN, Lowe ZF, et al. Large Language Model Hallucinations in Spine Surgery. Neurosurg Pract. 2026;7(3):e000244. DOI(According to PubMed, PMID 42232526)
