前のレッスンで、引用が実在するかを確かめる型を身につけました。ここでは一歩進んで、実在する研究でも、その強さはピンからキリまであるという当たり前を、AIの文脈で扱います。
「研究があります」は、何も言っていないのと同じ
AIはよく「〜という研究で示されています」と答えます。研究という言葉が無条件に信頼を連れてくるため、医師はこの一文に引っかかりやすい。
しかし研究の強さはまるで違います。数千人のランダム化比較試験と1例の症例報告では、臨床判断への重みがまったく異なります。AIはこの差を平らな「研究があります」に潰してしまいがちです。
だから確かめるのは実在だけでは足りません。その根拠がどの強さの研究かまで見ます。これは新しい技術ではなく、医師が普段やっている批判的吟味を、AIの出力に向けるだけです。
4段階で仕分ける
AIが挙げた根拠を、ざっくり4段階に置きます。
根拠の強さ4段階
診療ガイドライン・SR
学会が推奨としてまとめたもの。臨床判断の土台にできる
RCT
個別の強い研究。ただし対象集団・規模を見る
観察研究
コホート・症例対照。関連は言えるが因果は慎重に
症例報告・専門家意見
仮説の段階。「こういう例もある」どまり
たとえば溶連菌性咽頭炎の抗菌薬は、学会の診療ガイドラインという最上位の根拠で決まっています(According to PubMed, Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI)。ここに症例報告を持ってきて「別の薬でも効いた例がある」と言われても、標準治療は動きません。
AIが根拠を挙げてきたら、それがこの4段階のどこかを一言で言えるかどうか。それが、臨床に使えるかの分かれ目です。
強さに応じて、使い方を変える
仕分けたら、使い方を変えます。
強さに応じた使い方
ガイドライン・SR
一次情報で原文を確認したうえで、臨床判断の土台にしてよい
RCT
目の前の患者と研究の対象集団がどれだけ近いかを見てから使う
観察研究
「関連はありそう」まで。治療を変える根拠にはしない
症例報告・専門家意見
話のきっかけ・仮説どまり。患者に適用しない
AIが症例報告レベルの話を、ガイドライン級の断定口調で語ってくることがあります。口調の強さと、根拠の強さは、まったく別物です。前のレッスンで見た「文体は正しさの証拠にならない」が、ここでも効きます。
数字が出てきたら、鵜呑みにしない
AIは「有効率が高い」「有意差があった」といった数字も、それらしく出してきます。これも実在と強さの両方を確かめる対象です。
- 実在する研究の実際の結果か(捏造でないか)
- p値や信頼区間の解釈は妥当か
- 相対リスクだけを強調して、絶対リスクを隠していないか
統計の読み方はp値、ちゃんと読めてる?(研究リテラシー)で扱っています。AIが出した数字を論文本文と同じ批判的な目で読む姿勢が欠かせません。
参考文献
- Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI(According to PubMed, PMID 22965026)