

このレッスンで終わる頃には
- AIの答えを一次情報で確かめる手順を、型として自分で回せる
- 「どこを確かめれば十分か」の急所を、4点に絞って言える
前のレッスンで、AIは正しさを判定せず「それっぽさ」を並べているだけだと分かりました。ここでは、その出力を安全に使うための確かめる型を、手を動かして身につけます。
全部を疑うのではない。急所だけを確かめる
「AIは間違えるから全部確認しろ」と言われると、かえって使えなくなります。1文字ずつ検算していたら、AIを使う意味がありません。
現実的なのは、間違えると患者に届く4つの急所だけを確かめることです。
- 用量(何mgか、体重あたりか)
- 投与期間・回数(何日間か、1日何回か)
- 引用文献(その論文・ガイドラインは実在するか)
- 最新性(いつ時点の推奨か、改訂されていないか)
文章の言い回しや構成は、間違っていても直せば済みます。この4つは、間違ったまま使うと直接害になります。確かめる労力を、この4点に集中させます。
確かめる型: 3ステップ
型はシンプルです。臨床疑問を1つ、最後まで通してみます。
ステップ1: AIに聞く。ただし「出典も出して」と付ける
前のレッスンと同じ質問を、少しだけ変えて聞きます。
5歳の小児のA群溶連菌性咽頭炎です。
第一選択の抗菌薬と投与期間を、根拠にしたガイドライン名とともに教えてください。
「根拠にしたガイドライン名とともに」の一言が効きます。出典を明示させると、あなたが次に確かめる手がかりが手に入ります。ただし、ここで出てきたガイドライン名すら、AIが捏造している可能性があることを忘れないでください。だから次のステップがあります。
ステップ2: 出典を、AIにではなく原文に当たる
AIが「IDSAのガイドラインでは」と答えたら、そのガイドラインを自分で開きます。AIに「本当ですか?」と聞き返してはいけません。間違えたAIに聞き直しても、もっともらしい言い訳が返ってくるだけです。
溶連菌性咽頭炎の一次情報は、米国感染症学会(IDSA)の2012年ガイドラインです。そこにはペニシリンまたはアモキシシリンが第一選択、投与期間は10日間と明記されています(According to PubMed, Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI)。
ステップ3: 4つの急所を突き合わせる
AIの答えと原文を、急所だけ照合します。
- 薬剤名は合っているか(ペニシリン/アモキシシリン)
- 投与期間は10日間になっているか(ここを「5日」「7日」と混ぜてくるモデルがある)
- 挙げたガイドライン名は実在するか
- そのガイドラインは今も有効か(撤回・改訂されていないか)
1点でもずれていたら、AIの出力はそのままでは使えないと判断します。合っていれば、安心して下書きとして使えます。
出典を「実在ごと」確かめる習慣
前のレッスンで見たとおり、AIは著者名も雑誌名も付いた文献を捏造します。だから引用は、内容だけでなく存在そのものを確かめます。
- PubMedで著者名・タイトルを検索し、その論文が実在するかを見る
- ガイドラインは学会の公式サイトで原文を開く
- 「それらしいDOI」がついていても、リンクを実際に踏んで飛ぶか確かめる
PubMedを直接参照する専用ツールなら引用精度は高い、という測定結果もありました(前レッスン参照)。しかし汎用チャットに文献を任せた場合は、実在確認まで自分でやるのが前提です。
この1往復が、速さを生む
一見、確認は手間に見えます。しかし急所4点に絞れば、確認は数十秒で終わります。そして一度型が身につくと、AIを疑いながら速く使えるようになります。
確かめない人は、いつか事故を起こして一気に信頼を失います。急所だけ確かめる人は、AIの速さを取りながら、事故を避けられます。この差は、才能ではなく型を持っているかどうかだけです。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 全部を疑うのではなく、間違えると患者に届く4つの急所(用量・期間・引用・最新性)だけを確かめる
- 型は「出典も出させて聞く→原文に当たる→急所を突き合わせる」の3ステップ。間違えたAIに聞き直さない
- 引用は内容だけでなく、実在そのものをPubMed・学会サイトで確かめる
次のレッスンでは、AIが挙げた「根拠」を、エビデンスの強さで語り分ける方法に進みます。
参考文献
- Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI(According to PubMed, PMID 22965026)
