このレッスンで終わる頃には
- ChatGPTが医療でどのくらい使えるかが、査読論文の数字で分かる
- 任せきりにしてはいけない弱点が、頭に入っている
「可能性がある」から「実力が測られた」段階へ
ChatGPTの医療での実力は、すでに査読論文で検証が進んでいます。まず数字で全体像をつかみましょう。
医師国家試験などの成績
| 試験 | モデル | 正答率 |
|---|---|---|
| USMLE Step 1-3 | GPT-4 | 86.7% [1] |
| 日本医師国試 | GPT-4 | 81.5% [2] |
| 日本GM-ITE(研修医テスト) | GPT-4 | 70.1%(研修医平均55.8%を上回る)[3] |
| スペインMIR(リウマチ) | GPT-4 | 93.7% [4] |
| メタ分析(45研究) | GPT-4全体 | 81% [5] |
GPT-4は各国の医師国試で合格ラインを超え、日本の研修医平均も上回りました。
視点
数字を読むときの前提
これらは執筆時点でGPT-4世代を検証した結果です。モデルは世代を重ねており、新しい世代ではさらに高い数字が出る可能性があります。ただし、後半で挙げる弱点は世代が変わっても残るため、点数の高さと「任せてよいか」は分けて考えてください。
医師が実際に使っている場面
最も多いのは文書作成です。医師の業務時間のうち相当部分が書類仕事に充てられており、ここがChatGPTの価値の出やすい領域です。
- 退院サマリー
- 紹介状
- 保険の事前承認レター
- 患者説明文
英国の研究では、GPT-4が書いた退院サマリーの100%が「許容可能」と判定され、ジュニアドクターが書いたものは92%でした。一般医(GP)の60%は、AIが書いたものと気づかなかったと報告されています [6]。日本の恵寿総合病院では、ChatGPT活用で退院サマリーの要約時間を67%削減し、年間540時間の節約につながったと報告されています [7]。
すでに先進事例というより、実務で使われ始めている段階です。
鑑別診断の壁打ちとしても有用
獨協医科大学の廣澤先生の研究 [8] では、52の複雑症例でGPT-4の鑑別診断精度を検証しています。
- 上位10候補に正解が含まれる確率は83%
- 医師(75%)と統計的に有意差なし
ただし、トップ1の正答率は60%(医師50%)にとどまります。壁打ち相手としては有用でも、診断を任せる段階ではありません。この距離感が大切です。
押さえておくべき弱点、3つ
実力はあります。それでも、任せきりにしてよい道具ではありません。次の3つを押さえれば、事故は防げます。



1. ハルシネーション
眼科ボード試験での検証で、GPT-4のハルシネーション率は18%でした(GPT-3.5は42.4%)[9]。およそ5回に1回は、もっともらしい誤りが混ざるということです。確認せずに信じてはいけません。
2. 患者説明文は読みやすくなるが、安全確認が要る
JAMA Network Openの研究 [10] では、GPT-4で退院サマリーを患者向けに書き換えたところ、読解レベルがGrade 11からGrade 6.2に下がりました(理解しやすくなった)。一方で、18%のレビューで安全上の懸念が指摘されています。読みやすくなることと、正確であることは別です。
3. 患者情報は入力しない
これが最も重要です。ChatGPTは、患者データを安全に処理する設計にはなっていません。症例を相談したい場合は、次を守ってください。
- 氏名・生年月日・患者ID は除去する
- 「40代男性、高血圧、胸痛」程度の一般化した情報にとどめる
- 家族構成・職業・住所など、特定につながる情報は避ける
これを守れないと、守秘義務にも関わるリスクがあります。
注意
出力は必ず自分の目で
ChatGPTは確率的にもっともらしい文章を生成する道具で、医学的事実を検証する能力は持っていません。出力は下書きとして扱い、最終確認は医師自身の責任で行ってください。この使い分けを守れば、事故は防げます。
まとめ
- GPT-4は医師国試の合格ラインを超え、日本の国試で81.5%、研修医平均も上回った
- 実用価値が高いのは文書作成(退院サマリー、紹介状、患者説明文)
- 鑑別診断は壁打ち相手として有用だが、診断を任せる段階ではない
- ハルシネーションがあるため、必ず自分の目で確認する
- 患者の個人情報は入力しない(匿名化して一般化する)
次は、ChatGPTの出力を安定して良くするプロンプトの書き方を扱います。この差で使いこなしが大きく変わります。
参考文献
- Nori H, et al. arXiv:2303.13375. 2023.
- Yanagita Y, et al. JMIR Formative Research. 2023.
- Watari T, et al. JMIR Medical Education. 2023.
- Madrid-Garcia A, et al. Scientific Reports. 2023.
- Liu M, et al. J Med Internet Res. 2024.
- Clough RAJ, et al. BJGP Open. 2024.
- 恵寿総合病院 × Ubie. note.com/ai_komon, 2024.
- Hirosawa T, et al. JMIR Medical Informatics. 2023.
- Cai LZ, et al. Am J Ophthalmol. 2023.
- Zaretsky J, et al. JAMA Network Open. 2024.
