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レッスン 10 / 14|34分で読めます

自分の積み上げを、見える形にする

データが貯まったら、次に欲しくなるのは「自分の伸び」です。貯めた記録を一覧やグラフで見える化し、ついでに見た目も整える。ここで初めてUI/UXに触れます。題材は自由で、具体例としてドリルの正答率の推移を一緒に進めます。

どこでも続けられる。 でも、まだ伸びが見えない。

前回で、記録がネット上に貯まりました。 端末を閉じても消えない。 スマホでも、自宅のPCでも、同じ続きから開ける。 あなたが育てている物の中に、データが少しずつ溜まっていく状態です。

ドリルなら、挑戦した日付、正解数、分野が貯まります。 家計簿なら、日々の支出が貯まります。 ゲームなら、プレイ履歴やスコアが貯まります。

ここまで来ると、次に湧く欲求はだいたい同じです。 自分は伸びているのか。 最近どうなっているのか。 どこがずっと弱いままなのか。 それを一目で見たい。

それに、もうひとつあります。 何度も自分で開くうちに、見た目も気になってきませんでしたか。 数字が縦に並んでいるだけの画面。 正直、味気ない。

今日は、この2つの欲求に応えます。 貯めたデータを見える形にして、ついでに見た目も整えます。 ここで初めて、UI/UXに触れます。

「貯まっている」と「見える」は、別の話

前回までで、データは貯まるようになりました。 でも、貯まっているだけです。

一覧をスクロールしても、自分が上向きなのか下向きなのか、すぐには分かりません。 数字が縦に並んでいるだけだと、向きが読めないんです。

知りたいのは、値そのものだけではありません。 先月より上がっているのか。 ずっと低いままの所はどこか。 つまり、変化の向きです。

これは、私たちの本業と同じ構造をしています。 バイタルを1点だけ見ても、あまり意味はありません。 体温が37.8度。 これだけでは、判断しにくい。 でも、推移で見ると話が変わります。 上がり続けているのか。 ピークを過ぎたのか。 1点の値より、変化の向きのほうが、判断を決めることがあります。

だから今日やるのは、貯めたデータの見える化です。 一覧で並べる。 グラフで向きを出す。 ひとつの画面にまとめる。

これがないと、せっかく貯めたデータが、ただの山のままです。

今日のゴールと、任せ方

今日身につける普遍スキルは、2つです。

  1. 貯めたデータを、一覧やグラフやダッシュボードで見える化する。
  2. 見やすさ、配色、余白、並び順を整えて、自分の目で使いやすいか確かめる。

具体例として、私はドリルで「分野別の正答率の推移」を作ります。 あなたが家計簿を育てているなら「費目別の支出の推移」です。 ゲームなら「日ごとのスコアの伸び」です。 メモなら「種類別の件数の推移」です。

題材は違っても、形は同じです。 貯めた記録を、軸を決めて、向きが見えるように出す。

そして今日は、少しミニボスです。 細かい頼み方は渡しません。 満たすべき条件だけを見て、あなたが自分の言葉でAIに頼みます。

前回までに、保存する項目を決めること、鍵を隠すこと、別端末で同じ履歴を見ることまでやりました。 今日はその続きです。 自分のデータを見て、自分が何を知りたいのかを決める。 実装はAIに任せます。 でも、見る軸と、正しさの検算は自分が握ります。

ステップ1。見たい軸を一文で決める

見える化をAIに頼む前に、まず自分が何を見たいのかを決めます。

ここを飛ばすと、AIが出してきたグラフを、なんとなく眺めて終わります。 それでは何も見えません。

私のドリルで言うと、見たい軸はこうです。

分野ごとに、月単位で、正答率がどう動いたか。

分野別、というのが肝です。 全体の正答率が上がっていても、特定の分野だけ低いままなら、そこが弱点だからです。

あなたが育てている物なら、何を、どの軸で見ますか。 全体をひとまとめにするのか。 何かで分けるのか。 日ごとか、週ごとか、月ごとか。

今日は、まず1本に絞ります。 見たい軸を増やしすぎると、最初の画面がすぐ散らかります。

手を動かす

自分が育てている物で、これから見たい推移を1文だけ書いてください。

ドリルなら、分野別に、週ごとの正答率の推移。 家計簿なら、費目別に、月ごとの支出。 ゲームなら、日ごとの最高スコア。

できたらの目印は、「何を」「何で分けるか」「日か週か月か」が1文に入っていることです。

これが、このあとAIに渡す注文書の芯になります。

ステップ2。条件だけを見て、見える化を頼む

ここからがミニボスです。

今回、私から完成したプロンプトは渡しません。 代わりに、満たすべき条件だけを渡します。 この条件を見て、自分の言葉でAIに頼んでください。

条件は4つです。

  1. 貯まっているデータを使う。新しいダミーデータを勝手に作らない。
  2. 見たい軸で集計する。ドリルなら分野ごとの正答率を出す。
  3. 日付、週、月のどれかの順に並べて、向きが見えるようにする。
  4. アプリの中に表示用の画面を作り、一覧とグラフで出す。

この4つを満たすように、Claude Codeに頼む文章を自分で組み立てます。

ドリルなら「分野ごとの正答率」です。 正答率は、正解数を挑戦数で割ったものです。 別の物を育てている人は、2つ目だけを自分の軸に置き換えます。

大事なのは、最初の条件です。 新しいダミーデータを勝手に作らない。 前回までに貯めた記録を使う。 ここを言わないと、AIは見栄えのよいサンプルで画面を作ってしまうことがあります。 それでは、自分の積み上げを見たことになりません。

手を動かす

上の4条件を、自分の題材に置き換えてAIへ渡してください。

頼んだあとは、すぐに完成扱いにしません。 表示された画面が、実際に自分の記録を使っているかを見ます。 ドリルなら、直近の履歴にある分野が画面に出ているか。 家計簿なら、自分で入れた費目が出ているか。

できたらの目印は、推移を見る画面がアプリ内に出ることです。

ステップ3。ダッシュボードで、弱点が見えるか確認する

出てきた画面は、ただのグラフでは足りません。 次に何をすればよいかが、一目で分かる必要があります。

私のドリルなら、こういう画面を目指します。 分野別の正答率が月ごとに並び、低いままの分野が一目で分かる画面です。

分野別正答率を見る前の弱点ドリル実画面。履歴から推移を見る準備をしている
まず、履歴の分野と正答数が見える状態にします。ここから推移を見て、低いまま残る分野を探します。
分野別の正答率から低いまま残っている分野を強調し、次の復習先を決める実画面です。
感染症、循環器、呼吸器、内分泌の正答率バーが並び、内分泌45%が赤く強調されて次に復習する分野として表示されている実画面
全体平均ではなく、低いまま残る分野を見ます。画像内の分野と数値はPHIを含まないダミーです。

ここで見たいのは、2つです。

  1. 全体として上がっているのか、下がっているのか。
  2. 低いまま残っている分野はどこか。

ドリルなら、弱点が見えると次の復習が決まります。 感染症は伸びている。 循環器も上向き。 でも内分泌は低いまま。 では次は内分泌を復習する。

家計簿なら、支出が増えている費目が見えます。 ゲームなら、伸びていないステージが見えます。 自分の物でも、次の行動が決まる画面になっているかを見てください。

手を動かす

出てきた画面を見て、次の一文を言えるか確認してください。

私の次の行動は、ここを見ることです。

ドリルなら「内分泌を復習する」です。 家計簿なら「交際費を見直す」です。 ゲームなら「ステージ3を練習する」です。

画面を見ても次の行動が決まらないなら、まだダッシュボードではありません。 ただの飾りです。

ステップ4。ここで初めて、UI/UXを整える

ここで、今日のもうひとつの主役が出てきます。 UI/UXです。

難しく考えなくて大丈夫です。 ここで言うUI/UXは、自分が見て、ぱっと分かるかどうかです。

たぶん最初に出てくるグラフや一覧は、機能はします。 でも、どこか野暮ったいはずです。 色が多い。 文字が詰まっている。 どこを見ればいいか分からない。 低い分野が目立っていない。

そこで、見た目を整える注文を出します。

たとえば、次のように頼みます(右上のボタンでコピーできます)。

色を3色までに抑えてください。
低い分野が一目で分かるようにしてください。
余白を増やして、直近の値と弱点が先に目に入るようにしてください。
項目の並びを、悪い順にしてください。

やっていることは、飾りではありません。 判断しやすくすることです。

UI/UXを整える前後の図解。左は数字が詰まった見にくい一覧、右は低い分野を先に見せる整理された画面になっている
同じデータでも、配色、余白、並び順を整えると、次に見るべき場所が分かりやすくなります。

AIは「きれいにしました」と言ってきます。 でも、使いやすいかを決めるのは自分です。

医者がモニターのレイアウトを見て、「この並びだと見落とす」と直すのと同じです。 使う本人の感覚が、最終判断です。

手を動かす

自分の画面に、UIを整える注文を2回だけ出してください。

1回目は、色を絞る注文です。 2回目は、並び順か余白を整える注文です。

できたらの目印は、画面を開いた瞬間に、どこを見るか迷わないことです。

ステップ5。見やすい嘘を、検算で捕まえる

ここが今日いちばん大事なところです。

画面が整うと、数字が急に本当っぽく見えます。 きれいな折れ線。 見やすいカード。 低い分野の強調。 それだけで、信じたくなります。

でも、見やすいことと、正しいことは別です。

集計のコードは、しれっと間違えます。 数を取り違える。 別の項目を混ぜる。 日付の範囲を間違える。 それだけで、嘘のグラフが出ます。

だから、表示されたら必ず検算します。 やり方は簡単です。 1つの項目を選んで、その項目の記録を数件だけ手で数える。

ドリルなら、感染症が正答率60%と出ているなら、感染症の直近の数件を自分で見て、本当に6割くらいなのかを確かめます。 家計簿なら、食費の今月分を数件足します。 ゲームなら、最近のスコアの行を数件見ます。

全部を手で計算する必要はありません。 数件でいいです。 でも、その数件が合っていないなら、集計は信用できません。

視点

見やすいことと、正しいことは別

グラフになって見やすくなったことと、数字が正しくなったことは、まったく別の話です。きれいな折れ線は、それだけで説得力を持ってしまいます。正しさを保証するのは、毎回の検算だけ。集計が返ってきたら集計を疑う。検査値を疑うのと同じ、医者の目です。

手を動かす

画面に出ている項目を1つ選び、直近の記録を数件だけ手で確認してください。

ドリルなら、分野を1つ選びます。 その分野の直近の挑戦を5件ほど見ます。 正解が何件かを数えます。 画面の割合と大きくズレていないかを見ます。

できたらの目印は、手で数えた結果と、画面の集計が合っていることです。 合わなければ、それは今日の収穫です。

偽の傾向を、信じてしまう前に捕まえたということだからです。

ステップ6。私の画面で、偽の傾向を捕まえる

今の検算を、私の手元でもやってみます。 わざと、ひとつ間違えた集計を出させてみます。

こう出ました。 呼吸器が90%。 急に伸びている。

一見、いい話です。 しかもグラフがきれいに整ったあとだと、よけいに本当っぽく見えます。

でも、私の手元の感覚と合いません。 私は呼吸器、そんなに得意ではありません。 最近は当直明けにこのドリルを開く日が多くて、呼吸器の問題はつい後回しにしていました。 それで急に9割は、さすがにおかしい。

この身体感覚とのズレが、最初のセンサーです。

ここで止めて、数えます。 呼吸器の直近の挑戦を、履歴から数件、手で拾います。 数えてみると、6割くらいしか合っていません。 9割は嘘です。

AIに聞くと、別の分野の正解を呼吸器に混ぜて数えていました。 これが偽の傾向です。

直し方は、一言で十分です。 ズレに気づいたら、何がどう混ざっているかを伝えて、計算し直してもらいます(右上のボタンでコピーできます)。

呼吸器の集計に、別の分野の正解が混ざっています。
分野名が呼吸器の履歴だけを対象にして、正答率を計算し直してください。

AIが言ったから正しい、ではありません。 医者の目で見ます。 検査値が返ってきたら数字を疑うのと同じで、集計が返ってきたら集計を疑う。 これは、臨床で毎日やっていることと同じ動作です。

ステップ7。3つの観点で合格にする

最後に、今日の画面を3つの観点で見ます。

一つ、集計のロジックが妥当か。 計算式、項目の振り分け、期間の切り方が正しいか。

二つ、使い方に合っているか。 自分が見たかった軸で、見やすく出ているか。 次の行動が決まる画面になっているか。

三つ、安全か。 集計しているのは自分の学習データだけか。 患者情報、院内情報、鍵が混ざっていないか。

この3つにうなずけたら、今日の見える化は合格です。

手を動かす

自分の画面に、この3つを当ててください。

  1. 計算は、手で数えた数件と合っている。
  2. 画面を見ると、次に何をするかが分かる。
  3. PHIゼロで、鍵も表示されていない。

どれか一つでも欠けていたら、そこで止まって直します。 今日は、見える化して終わりではありません。 検算して、整えて、安全を見て、合格にします。

問い

つまずいたら

このレッスンの作業で起きがちな詰まりと、その抜け方です。

  • グラフに自分の記録が出ず、見栄えのいいサンプルが並んでいる → 注文の1つ目「新しいダミーデータを勝手に作らない」が伝わっていません。直近の履歴にある分野や費目の名前を挙げて、その実データを使っているかをAIに確かめます。
  • 整えても画面がごちゃごちゃで、どこを見ればいいか分からない → 一度に全部を頼まず、色を絞る注文と並び順を整える注文を分けて出します。「悪い順に並べて」「直近の値と弱点を先に」のように、見たい1点だけを言葉にして渡します。
  • 手で数えた割合と画面の集計が合わない → 何がどう食い違っているか(別の項目が混ざっている、期間がずれている等)を状況のまま貼って、計算し直してもらいます。鍵や患者情報は貼らず、ズレた数字と項目名だけを伝えます。

その数字を、何割信用していますか

ここで、いったん手を止めて考えます。

問いです。 今あなたの画面に出ている推移グラフ。 その数字を、あなたは何割くらい信用していますか。

信用する根拠は、ひとつしかありません。 さっき自分で検算したかどうか、です。

検算していない数字は、たまたま合っているかもしれないし、嘘かもしれない。 区別がつきません。

ここで、医師として一度きちんと疑っておきます。 グラフになって見やすくなったことと、正しくなったことは、まったく別の話です。

見やすい嘘ほど、たちが悪い。 きれいな折れ線は、それだけで説得力を持ってしまいます。 でも、向きが見えること自体には、正しさの保証はありません。 保証するのは、毎回の検算だけです。

もうひとつ、先々に向けて積んでおきます。 この検算、毎回やれますか。 集計を出すたびに数件手で数える。 地味です。

でも、これをサボった瞬間に、自分の見ている地図が、嘘の地図に変わります。 続けられる運用にしておくこと。 これは、先まで効いてくる話です。

Before / After

今日でどう育ったか、見てみます。

Before。 前回終わりの状態です。 データは貯まっている。 でも、自分が伸びているのかは分からない。 画面も、数字が並んでいるだけで味気ない。

After。 推移が、グラフで表示されます。 色も並びも整っていて、ぱっと向きが分かります。 しかもその数字は、自分で検算して確かめてあります。

ドリルなら、自信を持ってこう言えます。 自分は内分泌が弱い。 先月から横ばいだ。 だから次は内分泌を復習する。

状態を、感覚ではなく、自分の言葉で言えるようになりました。

この差分に名前をつけます。 これで、自分の積み上げを、自分の目で見られるようになりました。

作る人でありながら、それを使う本人でもある。 自分の物を、自分の目で整え、自分の目で確かめる。 この当事者性が、今日の一段です。

補足

今日持って帰るもの

見える化は、貯めたデータを軸を決めて向きが見える形にすること。そして見やすくなった数字こそ、出すたびに数件だけ手で検算する。きれいな画面を作ったことではなく、きれいな画面を疑えるようになったことが、今日の成果です。

卒業ゲート

今日の卒業条件は、三つです。

  1. 見たい軸を1文で決め、条件だけを見て見える化を頼めた。
  2. 推移が画面に出て、UIを整え、次の行動が分かる状態にできた。
  3. 表示された数字を数件だけ手で検算し、合わない場合は偽の傾向として直せた。

この三つができていれば、今日の山場は越えています。

きれいな画面を作ったことが成果ではありません。 きれいな画面を疑えるようになったことが成果です。

安全ライン

今日の安全ラインを、一点だけはっきり言います。

集計するのは、自分の学習データだけです。 ドリルなら、自分の正解率、日付、分野。 それだけをグラフにします。

この「推移を見る」仕組みを、患者データの傾向分析には使わないでください。 集計は便利です。 便利だからこそ、同じ要領で患者さんの傾向も出せると思ってしまう。 でも、それをやった瞬間に、ここまで守ってきた境界を越えます。

キーはサーバ側に隠す。 患者情報は入れない。 AIは、これが患者情報なのか公開情報なのか、判断できません。 入れないのは、人間の責務です。

医療を題材にしている人は、これは学習用です。 患者情報は入れません。 本番導入は、必ず施設のルールを確認してください。

注意

便利だからこそ、境界を越えやすい

この「推移を見る」仕組みを、患者データの傾向分析に流用しないでください。集計が便利なほど、同じ要領で患者さんの傾向も出せそうに見えます。でも、それをやった瞬間に境界を越えます。集計するのは自分の学習データだけ。鍵はサーバ側に隠し、患者情報は入れない。本番導入は必ず施設のルールを確認してください。

理解度チェック

セルフチェック

1. 整ったきれいなグラフが出たとき、その数字を信用してよい根拠はどれですか。

2. 見える化の仕組みについて、今日の安全ラインに合うのはどれですか。

次回へ

今日できたことは、自分の積み上げが見えるようになって、見た目も整ってきた、です。

ここまで来ると、たぶん、ある欲求が湧いてきます。 これ、そろそろ人に見せたい。 同じ研修医に「これ、よかったら使ってみて」と渡したい。 家計簿でもゲームでも、整った画面ができると、誰かに見せたくなるものです。

でも、ここで一瞬、立ち止まる気持ちも湧きませんか。 人に渡すなら、変なものや、危ないものは出したくない。 自分だけで使うのと、人の目に触れるのとでは、重みが違う。

次回からは、その「人に見せる」へ進みます。 自分のPCの中で育ててきた物を、人に渡せる形にする。

ただ、その前に。 人に渡すというのは、これまでで一番、安全の重みが増す瞬間でもあります。 だから次は、まず「安全に出す」から始めます。