どこでも続けられる。 でも、まだ伸びが見えない。
前回で、記録がネット上に貯まりました。 端末を閉じても消えない。 スマホでも、自宅のPCでも、同じ続きから開ける。 あなたが育てている物の中に、データが少しずつ溜まっていく状態です。
ドリルなら、挑戦した日付、正解数、分野が貯まります。 家計簿なら、日々の支出が貯まります。 ゲームなら、プレイ履歴やスコアが貯まります。
ここまで来ると、次に湧く欲求はだいたい同じです。 自分は伸びているのか。 最近どうなっているのか。 どこがずっと弱いままなのか。 それを一目で見たい。
それに、もうひとつあります。 何度も自分で開くうちに、見た目も気になってきませんでしたか。 数字が縦に並んでいるだけの画面。 正直、味気ない。
今日は、この2つの欲求に応えます。 貯めたデータを見える形にして、ついでに見た目も整えます。 ここで初めて、UI/UXに触れます。
「貯まっている」と「見える」は、別の話
前回までで、データは貯まるようになりました。 でも、貯まっているだけです。
一覧をスクロールしても、自分が上向きなのか下向きなのか、すぐには分かりません。 数字が縦に並んでいるだけだと、向きが読めないんです。
知りたいのは、値そのものだけではありません。 先月より上がっているのか。 ずっと低いままの所はどこか。 つまり、変化の向きです。
これは、私たちの本業と同じ構造をしています。 バイタルを1点だけ見ても、あまり意味はありません。 体温が37.8度。 これだけでは、判断しにくい。 でも、推移で見ると話が変わります。 上がり続けているのか。 ピークを過ぎたのか。 1点の値より、変化の向きのほうが、判断を決めることがあります。
だから今日やるのは、貯めたデータの見える化です。 一覧で並べる。 グラフで向きを出す。 ひとつの画面にまとめる。
これがないと、せっかく貯めたデータが、ただの山のままです。
今日のゴールと、任せ方
今日身につける普遍スキルは、2つです。
- 貯めたデータを、一覧やグラフやダッシュボードで見える化する。
- 見やすさ、配色、余白、並び順を整えて、自分の目で使いやすいか確かめる。
具体例として、私はドリルで「分野別の正答率の推移」を作ります。 あなたが家計簿を育てているなら「費目別の支出の推移」です。 ゲームなら「日ごとのスコアの伸び」です。 メモなら「種類別の件数の推移」です。
題材は違っても、形は同じです。 貯めた記録を、軸を決めて、向きが見えるように出す。
そして今日は、少しミニボスです。 細かい頼み方は渡しません。 満たすべき条件だけを見て、あなたが自分の言葉でAIに頼みます。
前回までに、保存する項目を決めること、鍵を隠すこと、別端末で同じ履歴を見ることまでやりました。 今日はその続きです。 自分のデータを見て、自分が何を知りたいのかを決める。 実装はAIに任せます。 でも、見る軸と、正しさの検算は自分が握ります。
ステップ1。見たい軸を一文で決める
見える化をAIに頼む前に、まず自分が何を見たいのかを決めます。
ここを飛ばすと、AIが出してきたグラフを、なんとなく眺めて終わります。 それでは何も見えません。
私のドリルで言うと、見たい軸はこうです。
分野ごとに、月単位で、正答率がどう動いたか。
分野別、というのが肝です。 全体の正答率が上がっていても、特定の分野だけ低いままなら、そこが弱点だからです。
あなたが育てている物なら、何を、どの軸で見ますか。 全体をひとまとめにするのか。 何かで分けるのか。 日ごとか、週ごとか、月ごとか。
今日は、まず1本に絞ります。 見たい軸を増やしすぎると、最初の画面がすぐ散らかります。
手を動かす
自分が育てている物で、これから見たい推移を1文だけ書いてください。
ドリルなら、分野別に、週ごとの正答率の推移。 家計簿なら、費目別に、月ごとの支出。 ゲームなら、日ごとの最高スコア。
できたらの目印は、「何を」「何で分けるか」「日か週か月か」が1文に入っていることです。
これが、このあとAIに渡す注文書の芯になります。
ステップ2。条件だけを見て、見える化を頼む
ここからがミニボスです。
今回、私から完成したプロンプトは渡しません。 代わりに、満たすべき条件だけを渡します。 この条件を見て、自分の言葉でAIに頼んでください。
条件は4つです。
- 貯まっているデータを使う。新しいダミーデータを勝手に作らない。
- 見たい軸で集計する。ドリルなら分野ごとの正答率を出す。
- 日付、週、月のどれかの順に並べて、向きが見えるようにする。
- アプリの中に表示用の画面を作り、一覧とグラフで出す。
この4つを満たすように、Claude Codeに頼む文章を自分で組み立てます。
ドリルなら「分野ごとの正答率」です。 正答率は、正解数を挑戦数で割ったものです。 別の物を育てている人は、2つ目だけを自分の軸に置き換えます。
大事なのは、最初の条件です。 新しいダミーデータを勝手に作らない。 前回までに貯めた記録を使う。 ここを言わないと、AIは見栄えのよいサンプルで画面を作ってしまうことがあります。 それでは、自分の積み上げを見たことになりません。
手を動かす
上の4条件を、自分の題材に置き換えてAIへ渡してください。
頼んだあとは、すぐに完成扱いにしません。 表示された画面が、実際に自分の記録を使っているかを見ます。 ドリルなら、直近の履歴にある分野が画面に出ているか。 家計簿なら、自分で入れた費目が出ているか。
できたらの目印は、推移を見る画面がアプリ内に出ることです。
ステップ3。ダッシュボードで、弱点が見えるか確認する
出てきた画面は、ただのグラフでは足りません。 次に何をすればよいかが、一目で分かる必要があります。
私のドリルなら、こういう画面を目指します。 分野別の正答率が月ごとに並び、低いままの分野が一目で分かる画面です。


ここで見たいのは、2つです。
- 全体として上がっているのか、下がっているのか。
- 低いまま残っている分野はどこか。
ドリルなら、弱点が見えると次の復習が決まります。 感染症は伸びている。 循環器も上向き。 でも内分泌は低いまま。 では次は内分泌を復習する。
家計簿なら、支出が増えている費目が見えます。 ゲームなら、伸びていないステージが見えます。 自分の物でも、次の行動が決まる画面になっているかを見てください。
手を動かす
出てきた画面を見て、次の一文を言えるか確認してください。
私の次の行動は、ここを見ることです。
ドリルなら「内分泌を復習する」です。 家計簿なら「交際費を見直す」です。 ゲームなら「ステージ3を練習する」です。
画面を見ても次の行動が決まらないなら、まだダッシュボードではありません。 ただの飾りです。
ステップ4。ここで初めて、UI/UXを整える
ここで、今日のもうひとつの主役が出てきます。 UI/UXです。
難しく考えなくて大丈夫です。 ここで言うUI/UXは、自分が見て、ぱっと分かるかどうかです。
たぶん最初に出てくるグラフや一覧は、機能はします。 でも、どこか野暮ったいはずです。 色が多い。 文字が詰まっている。 どこを見ればいいか分からない。 低い分野が目立っていない。
そこで、見た目を整える注文を出します。
たとえば、次のように頼みます(右上のボタンでコピーできます)。
色を3色までに抑えてください。
低い分野が一目で分かるようにしてください。
余白を増やして、直近の値と弱点が先に目に入るようにしてください。
項目の並びを、悪い順にしてください。
やっていることは、飾りではありません。 判断しやすくすることです。

AIは「きれいにしました」と言ってきます。 でも、使いやすいかを決めるのは自分です。
医者がモニターのレイアウトを見て、「この並びだと見落とす」と直すのと同じです。 使う本人の感覚が、最終判断です。
手を動かす
自分の画面に、UIを整える注文を2回だけ出してください。
1回目は、色を絞る注文です。 2回目は、並び順か余白を整える注文です。
できたらの目印は、画面を開いた瞬間に、どこを見るか迷わないことです。
ステップ5。見やすい嘘を、検算で捕まえる
ここが今日いちばん大事なところです。
画面が整うと、数字が急に本当っぽく見えます。 きれいな折れ線。 見やすいカード。 低い分野の強調。 それだけで、信じたくなります。
でも、見やすいことと、正しいことは別です。
集計のコードは、しれっと間違えます。 数を取り違える。 別の項目を混ぜる。 日付の範囲を間違える。 それだけで、嘘のグラフが出ます。
だから、表示されたら必ず検算します。 やり方は簡単です。 1つの項目を選んで、その項目の記録を数件だけ手で数える。
ドリルなら、感染症が正答率60%と出ているなら、感染症の直近の数件を自分で見て、本当に6割くらいなのかを確かめます。 家計簿なら、食費の今月分を数件足します。 ゲームなら、最近のスコアの行を数件見ます。
全部を手で計算する必要はありません。 数件でいいです。 でも、その数件が合っていないなら、集計は信用できません。
視点
見やすいことと、正しいことは別
グラフになって見やすくなったことと、数字が正しくなったことは、まったく別の話です。きれいな折れ線は、それだけで説得力を持ってしまいます。正しさを保証するのは、毎回の検算だけ。集計が返ってきたら集計を疑う。検査値を疑うのと同じ、医者の目です。
手を動かす
画面に出ている項目を1つ選び、直近の記録を数件だけ手で確認してください。
ドリルなら、分野を1つ選びます。 その分野の直近の挑戦を5件ほど見ます。 正解が何件かを数えます。 画面の割合と大きくズレていないかを見ます。
できたらの目印は、手で数えた結果と、画面の集計が合っていることです。 合わなければ、それは今日の収穫です。
偽の傾向を、信じてしまう前に捕まえたということだからです。
ステップ6。私の画面で、偽の傾向を捕まえる
今の検算を、私の手元でもやってみます。 わざと、ひとつ間違えた集計を出させてみます。
こう出ました。 呼吸器が90%。 急に伸びている。
一見、いい話です。 しかもグラフがきれいに整ったあとだと、よけいに本当っぽく見えます。
でも、私の手元の感覚と合いません。 私は呼吸器、そんなに得意ではありません。 最近は当直明けにこのドリルを開く日が多くて、呼吸器の問題はつい後回しにしていました。 それで急に9割は、さすがにおかしい。
この身体感覚とのズレが、最初のセンサーです。
ここで止めて、数えます。 呼吸器の直近の挑戦を、履歴から数件、手で拾います。 数えてみると、6割くらいしか合っていません。 9割は嘘です。
AIに聞くと、別の分野の正解を呼吸器に混ぜて数えていました。 これが偽の傾向です。
直し方は、一言で十分です。 ズレに気づいたら、何がどう混ざっているかを伝えて、計算し直してもらいます(右上のボタンでコピーできます)。
呼吸器の集計に、別の分野の正解が混ざっています。
分野名が呼吸器の履歴だけを対象にして、正答率を計算し直してください。
AIが言ったから正しい、ではありません。 医者の目で見ます。 検査値が返ってきたら数字を疑うのと同じで、集計が返ってきたら集計を疑う。 これは、臨床で毎日やっていることと同じ動作です。
ステップ7。3つの観点で合格にする
最後に、今日の画面を3つの観点で見ます。
一つ、集計のロジックが妥当か。 計算式、項目の振り分け、期間の切り方が正しいか。
二つ、使い方に合っているか。 自分が見たかった軸で、見やすく出ているか。 次の行動が決まる画面になっているか。
三つ、安全か。 集計しているのは自分の学習データだけか。 患者情報、院内情報、鍵が混ざっていないか。
この3つにうなずけたら、今日の見える化は合格です。
手を動かす
自分の画面に、この3つを当ててください。
- 計算は、手で数えた数件と合っている。
- 画面を見ると、次に何をするかが分かる。
- PHIゼロで、鍵も表示されていない。
どれか一つでも欠けていたら、そこで止まって直します。 今日は、見える化して終わりではありません。 検算して、整えて、安全を見て、合格にします。
問い
つまずいたら
このレッスンの作業で起きがちな詰まりと、その抜け方です。
- グラフに自分の記録が出ず、見栄えのいいサンプルが並んでいる → 注文の1つ目「新しいダミーデータを勝手に作らない」が伝わっていません。直近の履歴にある分野や費目の名前を挙げて、その実データを使っているかをAIに確かめます。
- 整えても画面がごちゃごちゃで、どこを見ればいいか分からない → 一度に全部を頼まず、色を絞る注文と並び順を整える注文を分けて出します。「悪い順に並べて」「直近の値と弱点を先に」のように、見たい1点だけを言葉にして渡します。
- 手で数えた割合と画面の集計が合わない → 何がどう食い違っているか(別の項目が混ざっている、期間がずれている等)を状況のまま貼って、計算し直してもらいます。鍵や患者情報は貼らず、ズレた数字と項目名だけを伝えます。
その数字を、何割信用していますか
ここで、いったん手を止めて考えます。
問いです。 今あなたの画面に出ている推移グラフ。 その数字を、あなたは何割くらい信用していますか。
信用する根拠は、ひとつしかありません。 さっき自分で検算したかどうか、です。
検算していない数字は、たまたま合っているかもしれないし、嘘かもしれない。 区別がつきません。
ここで、医師として一度きちんと疑っておきます。 グラフになって見やすくなったことと、正しくなったことは、まったく別の話です。
見やすい嘘ほど、たちが悪い。 きれいな折れ線は、それだけで説得力を持ってしまいます。 でも、向きが見えること自体には、正しさの保証はありません。 保証するのは、毎回の検算だけです。
もうひとつ、先々に向けて積んでおきます。 この検算、毎回やれますか。 集計を出すたびに数件手で数える。 地味です。
でも、これをサボった瞬間に、自分の見ている地図が、嘘の地図に変わります。 続けられる運用にしておくこと。 これは、先まで効いてくる話です。
Before / After
今日でどう育ったか、見てみます。
Before。 前回終わりの状態です。 データは貯まっている。 でも、自分が伸びているのかは分からない。 画面も、数字が並んでいるだけで味気ない。
After。 推移が、グラフで表示されます。 色も並びも整っていて、ぱっと向きが分かります。 しかもその数字は、自分で検算して確かめてあります。
ドリルなら、自信を持ってこう言えます。 自分は内分泌が弱い。 先月から横ばいだ。 だから次は内分泌を復習する。
状態を、感覚ではなく、自分の言葉で言えるようになりました。
この差分に名前をつけます。 これで、自分の積み上げを、自分の目で見られるようになりました。
作る人でありながら、それを使う本人でもある。 自分の物を、自分の目で整え、自分の目で確かめる。 この当事者性が、今日の一段です。
補足
今日持って帰るもの
見える化は、貯めたデータを軸を決めて向きが見える形にすること。そして見やすくなった数字こそ、出すたびに数件だけ手で検算する。きれいな画面を作ったことではなく、きれいな画面を疑えるようになったことが、今日の成果です。
卒業ゲート
今日の卒業条件は、三つです。
- 見たい軸を1文で決め、条件だけを見て見える化を頼めた。
- 推移が画面に出て、UIを整え、次の行動が分かる状態にできた。
- 表示された数字を数件だけ手で検算し、合わない場合は偽の傾向として直せた。
この三つができていれば、今日の山場は越えています。
きれいな画面を作ったことが成果ではありません。 きれいな画面を疑えるようになったことが成果です。
安全ライン
今日の安全ラインを、一点だけはっきり言います。
集計するのは、自分の学習データだけです。 ドリルなら、自分の正解率、日付、分野。 それだけをグラフにします。
この「推移を見る」仕組みを、患者データの傾向分析には使わないでください。 集計は便利です。 便利だからこそ、同じ要領で患者さんの傾向も出せると思ってしまう。 でも、それをやった瞬間に、ここまで守ってきた境界を越えます。
キーはサーバ側に隠す。 患者情報は入れない。 AIは、これが患者情報なのか公開情報なのか、判断できません。 入れないのは、人間の責務です。
医療を題材にしている人は、これは学習用です。 患者情報は入れません。 本番導入は、必ず施設のルールを確認してください。
注意
便利だからこそ、境界を越えやすい
この「推移を見る」仕組みを、患者データの傾向分析に流用しないでください。集計が便利なほど、同じ要領で患者さんの傾向も出せそうに見えます。でも、それをやった瞬間に境界を越えます。集計するのは自分の学習データだけ。鍵はサーバ側に隠し、患者情報は入れない。本番導入は必ず施設のルールを確認してください。
理解度チェック
セルフチェック
1. 整ったきれいなグラフが出たとき、その数字を信用してよい根拠はどれですか。
2. 見える化の仕組みについて、今日の安全ラインに合うのはどれですか。
次回へ
今日できたことは、自分の積み上げが見えるようになって、見た目も整ってきた、です。
ここまで来ると、たぶん、ある欲求が湧いてきます。 これ、そろそろ人に見せたい。 同じ研修医に「これ、よかったら使ってみて」と渡したい。 家計簿でもゲームでも、整った画面ができると、誰かに見せたくなるものです。
でも、ここで一瞬、立ち止まる気持ちも湧きませんか。 人に渡すなら、変なものや、危ないものは出したくない。 自分だけで使うのと、人の目に触れるのとでは、重みが違う。
次回からは、その「人に見せる」へ進みます。 自分のPCの中で育ててきた物を、人に渡せる形にする。
ただ、その前に。 人に渡すというのは、これまでで一番、安全の重みが増す瞬間でもあります。 だから次は、まず「安全に出す」から始めます。