速いから、つい、うのみにする
一つ、白状する。私も、最初は失敗した。
AIが、一瞬で立派な答えを出してくる。あまりに速くて、もっともらしいから、つい、そのまま使ってしまう。あるとき、AIが挙げてきた参考文献を、確かめずに、資料へ載せた。後で気づいた。その論文は、存在しなかった。
AIは、嘘を、堂々とつく。しかも、本当のことと、同じ顔で。速さに引きずられて検証を飛ばすと、この嘘が、そのまま自分の成果物に、混じる。
だから、AIと組む仕事には、一つの「型」が要る。
まず結論:速いのは生成、慎重なのは検証
AIと組む仕事は、たった一つのループでできている。
生成 → 検証 → 決定 → 記録。
これを、高速で回す。ポイントは、四つを同じ速度でやらないことだ。生成は速く、検証はていねいに、決定はあなたが、記録は必ず。この非対称が、速さと安全を、両立させる。
多くの人がつまずくのは、生成の速さに引きずられて、検証まで速くしてしまうこと。AIが一瞬で出してくるから、つい、一瞬で受け入れてしまう。そこが、いちばん危ない。
ループの中身
四つの工程を、もう少し開く。
【表:四つの工程】
| 工程 | 誰が | やること |
|---|---|---|
| 生成 | AI | 方向を受けて、下書き・案・候補を出す |
| 検証 | AIと人間 | 事実か。根拠はあるか。基準を満たすか |
| 決定 | あなた | 採るか、直すか、捨てるか。署名する |
| 記録 | AI | 結果と、そこで下した判断を残す |
生成は、一案だけでなく、複数案を出させていい。むしろ、三案を比べたほうが、速く決まる。検証は、AI自身にもやらせる(「この出力の弱点を、自分で挙げて」)が、最後は人間の目を通す。決定は、絶対に渡さない。記録は、後で同じ判断を繰り返さないために、残す。
例:AIに、AIの仕事を疑わせる
私は、医療の文章を扱う。ここで検証を省くと、患者に害が及ぶ。だから、生成と検証を、別々のAIにやらせることがある。
一つのAIに文章を書かせ、別のAIに「この記述は、引用された論文と、本当に一致しているか」を照合させる。書き手と、校閲を、分ける。人間の編集部と、同じ構えだ。
なぜ分けるのか。同じAIに「あなたの書いたもの、合ってる?」と聞くと、自分の答えを、つい擁護しがちだからだ。別の役として立てると、遠慮なく、粗を探す。
それでも、最後に「これを世に出す」と決めるのは、私だ。AIが二重三重にチェックしても、署名はしない。署名は、責任を取る者がする。AIは、責任を取れない。
原則:検証は「速さの保険」である
検証をていねいにやると、遅くなる気がする。じつは、逆だ。
検証を飛ばして出した間違いは、後で必ず、もっと大きなコストで戻ってくる。間違った数字で会議をすれば、その会議ごと、やり直しになる。誤った情報を出せば、信頼ごと、失う。
検証は、生成で稼いだ速さを、無駄にしないための保険だ。速く作れるようになったぶん、検証に時間を回せる。これが、正しい配分になる。速さは、検証を削るためにあるのではない。検証に、時間を回すためにある。
鉄則:実行が不可逆なら、必ず止まる
ループの中で、一箇所だけ、全力でブレーキを踏む場所がある。取り返しのつかない操作だ。
ファイルを消す。本番に公開する。外部にメールを送る。お金を動かす。こういう一手は、どれだけAIが「やっていいですよ」と言っても、人間が確認してから、実行する。
私のシステムでは、ここを規律として固定し、AIが勝手に踏み込めないようにしてある(組み方は、第9章で見せる)。可逆な作業は、どんどん任せる。不可逆な操作は、必ず止まる。アクセルは広く、ブレーキは固く。
持ち帰り
【演習:一周、回してみる】
次にAIへ仕事を頼むとき、四工程を意識して、一周する。
- 生成:方向を渡して、案を出させる(できれば複数案)
- 検証:「この出力の弱点は?」と、AI自身にも疑わせる
- 決定:採る・直す・捨てる、を自分で決める
- 記録:なぜそう決めたかを、一言残す
そして、「消す・公開・送信・支払い」だけは、何があっても、自分の手で最終確認する。
次章では、ループを回す前の話をする。そもそも、いきなり作り始めないこと。「作る前に、調べる」だ。