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第4章 作る前に、調べる

いきなり作らず、まず三つを問う。作る前の十分が、後の十時間の手戻りを防ぐ。

車輪を、二度発明した話

恥ずかしい話をする。

あるとき私は、ある機能を、ゼロから作り始めた。AIと一緒に、半日かけて組んだ。動いたときは、満足した。

その夜、たまたま気づいた。同じことをするための「定番のやり方」が、とっくに世の中にあった。しかも、私が半日かけたものより、ずっと堅牢で、ずっと短く書けるものが。私は、すでにある車輪を、わざわざ歪な形で、もう一度発明していた。

AIは、頼めば、すぐに作り始める。だからこそ、人間が、一歩手前で止まる必要がある。作る前に、調べる

まず結論:いきなり作らない。まず三つを問う

調べる、と言っても、難しくない。三つだけ、問えばいい。

【表:作る前の三つの問い】

問い何を見るか
既にある解は?この問題、もう誰かが解いていないか。定番のやり方・道具はないか
いま動いているのは?この分野で、今いちばん使われているものは何か
通説が崩れているのは?「普通こうする」とされている前提が、実は古くなっていないか

最初の二つで、車輪の再発明を避ける。三つ目で、人と差がつく場所を、見つける。この順番が、効く。

なぜ調べるか:コピー先を探すためではない

勘違いされやすいので、先に言っておく。調べるのは、真似するやり方を探すためではない

調べる本当の目的は、「みんなが当たり前だと思っていることが、実は通用しない場所」を、見つけることだ。そこに、あなたの専門性が活きる余白がある。

私が医療の文章を書くとき、必ず先に、論文を調べる。記憶で書かない。これは、正確さのためでもあるが、それ以上に、「世間で言われている通説と、最新のエビデンスが、ズレている場所」を探すためだ。そのズレこそが、書く価値のある一本になる。

調べないで作ると、平均的なものしか、できない。誰でも知っていることを、もう一度きれいにまとめただけのもの。それは、AIが最も得意で、最も価値の低い領域だ。あなたがそこで勝負しても、埋もれる。

例:定番を踏まえてから、外す

新しいものを作るとき、私はまず、AIに「この領域の定番は何か」を調べさせる。

いまの標準的な構成はこれ、よく使われる部品はこれ、という地図を、先に描く。その上で、「自分の用途では、この定番の、どこが合わないか」を考える。

定番を知らずに我流で作ると、たいてい、車輪の再発明になる(さっきの私だ)。逆に、定番をなぞるだけだと、ありふれたものになる。定番を踏まえてから、必要な一点だけ、外す。この順序だと、土台は堅く、しかも差は出る。

原則:調べるコストが、ゼロになった

昔は、調べることにも、コストがかかった。図書館に行き、人に聞き、時間を使った。だから「とりあえず作る」にも、合理性があった。

いまは、違う。AIに「この三つを調べて」と言えば、数分で、地図が返ってくる。調べるコストが、ほぼゼロになった。

ならば、調べないのは、損でしかない。作る前の十分間が、後の十時間の手戻りを、防ぐ。あの夜の私は、十分の調べ物をケチって、半日を失った。

鉄則:調べた結果も、うのみにしない

ただし、ここでも、前章のループは生きている。AIが「これが定番です」と言っても、それが本当か、出典はあるか、古くないかを、確かめる。

調べるのも、生成。確かめるのも、検証。順番が、一つ手前に来ただけだ。AIの「調査結果」は、便利な下書きであって、結論ではない。とくに「最新の」と言われたものほど、念入りに裏を取る。AIの知識には、時間の区切りがあるからだ。

持ち帰り

【演習:始める前に、三つ聞く】

次に何かを始める前、手を動かす前に、AIへ三つ聞く。

  1. 既にある解は? ── この問題の、定番のやり方を教えて
  2. いま主流は? ── この分野で、今いちばん使われているものは?
  3. 崩れている通説は? ── 「普通こうする」とされている前提で、最近変わったものは?

返ってきた「定番」を踏まえ、「自分の用途で、合わない一点」を探す。それが、あなたの作るものの、個性になる。そして、調査結果も、必ず裏を取る。出典のない「定番」は、定番ではない。

ここまでが第1部、考え方の土台だ。方向は人間、手はAI。生成して、検証して、決める。そして、作る前に、調べる。

次の第2部から、いよいよ中身に入る。この考え方を、実際に動く「自分のOS」として、どう組み立てるか。最初の部品は、司令塔と相棒だ。