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第14章 プレゼンは「内容」ではなく「体温」で決まる

2035年、ある医療スタートアップの株主総会。CEOはプレゼンを全てAIに任せた。完璧なデータ、完璧なスライド、完璧な論理構成。声もAIが生成した。聴衆には知らせなかった。プレゼンが終わった後、誰も拍手しなかった。

スライドの質と聴衆の反応は、ほぼ無関係だ

学会発表もするし、AIセミナーで登壇することもある。

何度かやってわかった。スライドの質と、聴衆の反応は、ほぼ無関係だ。

内容が薄くても、話し手が熱を持っていると、人は前のめりになる。逆に、どれだけ精緻なデータを並べても、話し手の目が死んでいると、誰も聞かなくなる。

これは再現性がある。

言葉の外側にある何かが、判断を動かす

「メラビアンの法則」という有名な話がある。コミュニケーションの印象は、言語情報7%、声のトーン38%、見た目・表情55%で決まる、というやつだ。

この法則の解釈は色々と議論があるが、一つの真実を指している。

言葉の外側にある何かが、判断を動かしている。

声の震え。間の取り方。演台を握る手の力加減。額の汗。笑顔の不自然さ。目線が泳ぐタイミング。

聴衆はそれを読んでいる。意識的にではなく、本能的に。

「この人はこのことを本当に信じているのか」「この人はここで何かを隠しているのか」

身体が情報を漏らす。

半信半疑の発表者

あるドクターのプレゼンを聞いた。

内容は完璧だった。エビデンスも揃っていた。スライドも見やすかった。でも、何かが届かなかった。聴衆の体がどこか固いままだった。

懇親会で本人に聞いた。「実はこの研究、思っていた結果が出なくて、自分でも半信半疑なんです」

そういうことか、と思った。

発表者が信じていないことは、伝わる。言語化されなくても、伝わる。

逆を言えば、話し手が本当に信じていることは、データが不完全でも伝わる。

AIは「信じている」状態を持たない

AIはここで完全に詰まる。

AIにプレゼンをさせることができる。テキストを読み上げさせることもできる。声のトーンも制御できる。表情を持つアバターも作れる。

でも、「このことを信じている」という身体的な確信をAIは持てない。

もう少し正確に言う。

AIは「信じている」という状態にない。信じるとか疑うとかいう内的状態そのものがない。だから、それを身体から滲み出させることができない。

聴衆は、そこを感知する。

本気を感知する感覚は、退化するか

だとすると、プレゼンにおける人間の優位性は「内容の質」ではない。

「この人が本気で言っている」という確信を、聴衆に与えられるかどうか。

それは、話し手自身が本気かどうかに依存する。

怖いのはここから先だ。

テクノロジーが進化して、AIが「本気に見える」プレゼンを完璧に再現できるようになったとき。聴衆は騙されるのか。

そして、騙されることに気づかなくなったとき、「本気かどうかを感知する能力」は、退化していくのか。

使われない感覚は鈍くなる。

声の震え、間の取り方、汗。それは情報だ。最も誠実な情報だ。

この章のポイント

  • スライドや内容の質と、聴衆の反応はほぼ無関係。決め手は話し手の体温
  • 身体は「信じているか」を漏らす。聴衆はそれを本能的に感知する
  • AIは「信じている」内的状態を持たないので、滲み出させることもできない
  • 本気を感知する感覚は、使わなければ鈍る。それが最も恐ろしい退化