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アメリカの研修医は、もうAIと働いている

Glass Health、Abridge、OpenEvidence、Hippocratic AI。海の向こうの研修医が今日触っている4つの道具と、その規模と、僕らとの距離の話。

アメリカの研修医は、もうAIと働いている

最近、X(旧Twitter)でアメリカの研修医のポストを追うのが日課になっている。

「外来5時間、タイピングはゼロ。AIが全部聞いて書いてくれた」 「OpenEvidenceで論文10本、20秒。一晩かけて読んでた頃に戻れない」 「Hippocraticの音声看護AIがコールセンターを24時間回してる」

数年前なら未来の話だった。今はもう、ただの月曜日の朝の話だ。

このレッスンでは、アメリカの研修医が今日触っている4つの道具を見にいく。Glass Health、Abridge、OpenEvidence、Hippocratic AI。それぞれの規模を見ると、距離感が変わる。


1. 鑑別を整える ── Glass Health

最初の1本、Glass Health。

これは、医師の頭の中にある鑑別を整える道具だ。

「12歳女児、3日前からの咽頭痛、今朝から左頸部の腫脹と開口障害」── こういう自然言語の患者presentation を入れると、ランク付きの鑑別診断と、推奨される検査・治療の素案が返ってくる。鑑別の網羅性をAIで担保しつつ、最終判断は医師が下す、という分業が綺麗にデザインされている。

使っているのはハーバード医学校、スタンフォード、ジョンズ・ホプキンスといった上位医学センターの臨床医だ。アンビエント・スクライブ(音声記録)と鑑別診断を1つのワークフローに統合している唯一のツール、と業界レビューで評価されている(Clinical AI Report 2026)。

Liteは無料、Starter月$20、Pro月$90、Max月$200。研修医が自腹で月20ドル払って自分の道具にできる価格だ。

このlast pointが大事だ。米国の研修医は、自分の鑑別を整える道具を、自分のお金で導入し始めている。病院が遅いから自分で買う。これが今の温度だ。

Glass Health 公式

医師向け鑑別診断+Ambient Scribe。Lite無料、Starter $20/mo

Webglass.health

2. ペンをAIに置き換える ── Abridge

2本目、Abridge。

外来や病棟で患者と話している間、AIが自動で会話を聞いて、SOAP形式の診療記録を書き上げる道具だ。

医師は患者の顔を見て話せる。タイピングしない。会話の途中で患者から目を離してキーボードを叩く、という不自然な所作が消える。

導入規模が桁違いだ。米国250以上のヘルスシステムで稼働している(Abridge press)。Best in KLAS for Ambient AI を2025年と2026年、2年連続で受賞。エモリー、ジョンズ・ホプキンス、そしてシアトル小児病院(Seattle Children's)が18の小児専門領域全てで導入している(AHA market scan, 2026年4月)。

Abridgeが業界で抜けている理由のひとつは、Linked Evidence という機能だ。生成された記録のどの一文も、元の音声と書き起こしの該当箇所までトレースできる。「AIが勝手に書いた」じゃなく「医師がAIの根拠を確認して承認した」になる。これで責任の所在が崩れない。

EpicというEHR(電子カルテ)大手が2026年2月に自社のAI Charting機能を発表して、Abridgeを潰しに来ている。それでもAbridgeは生き残るだろう、というのが市場の見方だ。理由は、医師が声で「これだ」と選んでいる記憶が、もう積み重なっているからだ。

Abridge 公式

Generative AI for Clinical Conversations。米国250病院で稼働、KLAS Best 2年連続

Webabridge.com

3. PubMedの代わりに ── OpenEvidence

3本目が、たぶん一番衝撃が大きい。

OpenEvidence は「医師向けChatGPT」と呼ばれる検索AIだ。NEJM、JAMA、NCCN、Cochrane などのピアレビュー論文に grounded された回答を、自然言語で返す。

数字を並べる。

  • 米国の登録医師数 76万人(2025年12月時点)
  • 月間クエリ数 2000万件以上(2026年1月時点)
  • 米国実働医師の40%以上が日常利用
  • 2025年に米国で1億人がOpenEvidenceを使う医師から治療を受けた
  • 10,000以上の病院・医療機関で日常使用
  • 評価額 $12B(2026年1月時点)

OpenEvidence公式, Greater Bay Healthcare 2026年動向

「米国実働医師の40%が使う」というのは、そういう移行が起きてしまった、ということだ。研修医世代から指導医世代まで含めて、PubMed検索を1日に何回もかける日常が、もうOpenEvidenceに置き換わっている。

しかもverified HCP(医療従事者)には無料だ。研修医の財布事情を考えて設計されている。

日本の僕らがPubMedで「あの論文どこだっけ」と15分かけている時間に、米国の研修医はOpenEvidenceで20秒で同じ問いを片付けて、3歩先に進んでいる。

Verified HCP(医療従事者)なら無料

日本の医師でも HCP verify を通せば登録できる。英語で論文クエリを投げる練習として、研修医の今から触っておく価値が高い。

OpenEvidence 公式

医師向けAI検索。米国76万医師、月間2000万クエリ、verified HCPは無料

Webopenevidence.com

4. 看護を増幅する ── Hippocratic AI

4本目が、看護AIだ。

Hippocratic AI は「医療従事者の絶対数不足」を技術で埋めようとしているスタートアップだ。看護師でなくAIが対応できる仕事を切り出し、看護師の時間をベッドサイドに戻す。

2026年4月、Nurse Co-Pilot を発表した(HIT Consultant 2026年4月17日)。これは入院患者向けの音声AIアシスタントで、入院時の説明、患者教育、家族の準備、服薬説明──こういう「看護師の1シフトあたり1〜4時間を持っていく仕事」を肩代わりする。

開発に協力しているのが、クリーブランド・クリニック、OhioHealth、シンシナティ小児病院(Cincinnati Children's)。世界の超一流病院が、自分たちの臨床知識をAIに移し替える側に回っている。

同時に発表された AI Front Door は、患者からの電話・テキスト・チャットで、予約、請求、検査結果説明、交通機関手配、フォローアップを24時間対応する。Wellspan と Cincinnati Children's で先行導入が始まっている(fiercehealthcare 2026)。

Hippocratic は Polaris という独自の安全アーキテクチャの上で動く。これまでに1億8000万件の患者対応を捌いて、7500人以上の臨床医がvalidationに参加している。

看護師が辞めていく理由のひとつが「ペーパーワークと電話対応で患者の顔を見る時間がない」だ。Hippocratic はそこを技術で削りに来ている。

Hippocratic AI 公式

医療従事者の絶対数不足を技術で埋めるAIエージェント。Polaris安全アーキテクチャ、1.8億件の患者対応実績

Webhippocraticai.com

5. 4つに共通する4つのこと

並べてみると、共通するパターンがある。

米国の医療AIプロダクトに共通する4つの設計

01

規模が桁違い

本番運用、実証実験じゃない

02

電子カルテ統合

最初から設計に組み込む

03

フリーミアム/無料

医師個人で試せる価格

04

医師主導の設計

現場の困りごとから始まる


6. 何が真似できて、何が真似できないのか

ここで、日本にいる僕らに引きつけて考えたい。

米国の医療AI、日本から見て真似できる/できない

真似できる ── 個人レベル

OpenEvidenceは日本からも登録できる(HCP verify必要)

ChatGPT・Claudeで近いことが可能

診療記録のAI化はNotta・CLINICS等で

研修医一人で、自分の仕事の半分は今夜から効率化できる

真似できない ── 構造

電子カルテのシステム統合(Epic相当の市場リーダー不在)

規模のVC資金(OpenEvidence $210M / 評価額 $12B)

日本のベンダー乱立は個人の努力では動かせない(L06で詳述)

ただし、個人が今夜触れるツールの差にはならない

個人で動ける範囲と、構造に縛られる範囲を切り分ける

7. 次のレッスンへ

このレッスンで見せたのは、組織の中で大規模に動いているAIだった。

次のレッスンでは、もっと違う話をする。

ひとりの医師が、AIだけを道具にして、病院に頼らず、診療所に頼らず、自分のクリニックや診療プロダクトを立ち上げている世界の話だ。

「組織に属する」以外の医師の生き方が、技術によって急に開かれた。それがどう開かれているのか。何ができて、何ができないのか。

ソロプレナー医師という選択肢を、地図に追加しに行こう。


Sources & Further Reading

Clinical AI Report 2026 ── Glass Health Review

医師15人による評価で3.8/5、業界5位ランク。Glass Healthの実機評価レビュー

記事Clinical AI Report
6 Health Systems Enhancing Care Delivery with Ambient AI Scribes

Abridge導入の代表的健康システム6つを紹介。Seattle Children's等の事例

ニュースAmerican Hospital Association
OpenEvidence Announces $210M Round at $3.5B Valuation

OpenEvidenceの$210M調達と評価額の公式発表。医師向けアプリで史上最速の成長

ニュースOpenEvidence Press
Hippocratic AI Launches Nurse Co-Pilot, Inpatient Voice Assistant

Cleveland Clinic、OhioHealth、Cincinnati Children's協業による新看護AI発表

ニュースHIT Consultant
次のレッスンへ ── ひとりで病院をつくった医師の話

DPC医師、ソロプレナー医師、Medviの$401M。AIで開いた『組織に属さない医師』という選択肢の地図

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