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レッスン 6 / 8|13分で読めます

日本だけ、なぜこんなに遅いのか

OpenEvidenceに日本語版がない。Abridgeは未進出。日本の電子カルテは閉じている。これは『日本人医師がサボっているから』ではない。4つの構造を見ると、何が動かしにくいかが分かる。

日本だけ、なぜこんなに遅いのか

ここまで5レッスン読んで、こう思った人は多いと思う。

「アメリカの話、すごいのは分かった。で、日本は?」

『ガンダム』のシャアの有名なセリフに、こういうのがある。

「認めたくないものだな、自身の若さゆえの過ちというものは」

日本の医療AIの遅さを「日本人医師がサボっているから」と説明するのは、シャアでいうところの「若さゆえの過ち」だ。サボっているから遅いんじゃない。構造で遅いことになっている。

このレッスンでは、日本の医療AIが米国に対してなぜ周回遅れなのかを、4つの構造で見にいく。そのうえで、研修医が個人で乗り越えられる範囲を確認する。

絶望するための章じゃない。構造を理解して、自分の動きしろを取り戻すための章だ。


1. 数字で見るタイムラグ

まず、ありのままの距離を見る。

L03で見た4つのプロダクトを、日本にどれくらい使えているかで並べてみる。

PMDA承認のAI医療機器は、2026年時点でおおむね数十件レベル。EndoBRAIN(大腸内視鏡AI、PMDA承認 23000BZX00372000)、EIRL aneurysm(脳動脈瘤AI、30100BZX00142000)、nodoca(咽頭画像インフルエンザAI、30400BZX00101000)など、それぞれ一級品ではあるが、米国FDAが累計1000件以上のAI/ML医療機器を承認しているのに対して、桁が違う。

「日本も頑張っている」と「米国に追いついている」は別の話

日本のプレイヤーが努力していないわけではない。ただし、絶対量・速度・規模で米国とは桁が違うのが2026年の現状だ。事実を直視するところから始めないと、対処は始まらない。


2. 日本にも動きはある

ただ、日本がゼロというのも違う。

ここ2年で、日本でも明らかに加速している。

Ubie生成AIは、2026年1月時点で全国100病院以上(うち大学病院10以上)に導入され、累計1,800医療機関に展開されている。月間10万セッションを超える利用がある。Keiju総合病院では退院サマリ作成時間が42.5%短縮、看護師の心理的負担が27.2%減ったという報告がある(Ubie プレスリリース 2026)。

CureApp SC(禁煙アプリ)は2020年に日本初のデジタル治療として保険適用、CureApp HT(高血圧)は2022年9月に保険適用された。日本の保険診療の中にデジタル治療が入った、という意味で歴史的だ。

兵庫医科大学病院は2025年、医療向け音声認識+生成AIツール「medimo」を、国内大学病院として初めて導入した(兵庫医大 2025)。藤田医科大学病院はFIXERと共同で、音声入力で電子カルテに記録できるシステムを開発している。JCHO北海道病院は2026年1月、厚労省事業として AIカルテ下書きの実証を開始した。

これらは「動いていない」ではない。

ただ、米国の絶対量と速度に比べると、まだフィールドの一角を耕している段階だ、というのが率直なところだ。


3. なぜ遅いのか ── 4つの構造

次に、構造を見にいく。

なぜ、日本だけがこんなに遅いのか。理由は4つある。

日本の医療AIが遅い、4つの構造

01

言語の壁

LLMは英語医療コーパスで育っている

02

規制の慎重さ

PMDA審査は世界水準で丁寧

03

電子カルテの分散

一番効いている構造の壁

04

診療報酬の不在

医師に使う経済的動機がない


4. 4つの構造の重なり

この4つを並べると、なぜ日本だけ遅いのかが分かる。

言語の壁は、AIスタートアップの参入を遅らせる。 規制の慎重さは、参入したスタートアップの普及を遅らせる。 電子カルテの分散は、普及できたスタートアップの統合を遅らせる。 診療報酬の不在は、医師に使う動機を与えない。

4つが連鎖して、結果的に日本は周回遅れになる。

これはどれも個人の医師には動かしにくい構造だ。


5. それでも、研修医が個人でできること

絶望して終わるのは違う。構造は重いが、個人が動ける範囲も意外と広い。

日本にいる研修医が、明日からできる4つ

01

英語で読む覚悟を持つ

OpenEvidenceは医師なら登録できる

02

日本のAIプロダクトを早めに触る

Ubie生成AI / 個人で触るChatGPT/Claude

03

自分の業務を解像度高く言語化

削れる場所が見える

04

海外で働く可能性を地図に入れる

ECFMG・USMLE等の準備


6. 日本の遅さは、悪いことばかりじゃない

最後に、日本の遅さの良い側面も書いておく。

米国の速さは、副作用も大きい。AI誤診による訴訟が増えている。AI scribeの記録ミスで揉めるケースが報告されている。Hippocratic AIが対応する患者の中には、AIが共感しきれない事例も出ているはずだ。

日本の慎重さが、これらの副作用を抑える側面もある。

ただ、慎重さに「アリバイ的な慎重さ」が混じり始めると、ただの言い訳になる。研修医のあなたが10年後、「あのとき動かなかった理由」を言葉にできないなら、それは構造のせいではなく、個人の選択だ。

構造は、個人が動かない言い訳には使える。 だが、個人が動く動機にもできる。

どちらに使うかは、自分で決められる。


7. 次のレッスンへ

ここまで、世界の景色(L01-L02)、海の向こうの現場(L03-L04)、影(L05)、自国の現在地(L06)を見てきた。

次のレッスンでは、5年後を見にいく。

2030年、研修医のあなたが指導医になっているころ、診療所、大学病院、在宅医療は、それぞれどう変わっているか。

3つのシナリオ──楽観、中立、悲観──を並べる。どれが現実になるかは分からないが、それぞれが起きたとき、自分が何をしているかを想像できるかどうかで、今日の動き方が変わる。

5年後の地図を描きにいこう。


Sources & Further Reading

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ニュースUbie プレスリリース
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