2030年、あなたは指導医になっている
2030年、と聞いて、遠いと感じるか、近いと感じるか。
5年だ。研修医2年目のあなたなら、後期研修を終えて、専門医を取って、そろそろ「指導医」「中堅」と呼ばれる立場に入っている年だ。
そのときの日本の医療現場が、どこに着地しているか。
未来予測は当たらない。だが、3つのシナリオを並べると、自分が今日何をすべきかが分かる。
『AKIRA』の鉄雄が暴走する前に、金田が選択肢を見ていた目線──あれを、自分の5年後に対して持つ、という練習だ。
このレッスンでは、楽観・中立・悲観の3つのシナリオを書く。賢さん個人の見立ても最後に置く。どれが現実になるかは分からない。だが、3つを心に描けると、今日の意思決定の質が上がる。
シナリオA:楽観 ── 「日本も追いついた」世界
2030年、日本の医療現場はこうなっている。
OpenEvidenceの日本語版が2027年にリリースされ、日本の医師の30%が日常使用している。Ubieは累計5000医療機関に拡大、月間100万セッション。Abridgeに似た国産ambient AI scribeが大学病院・大規模民間病院で標準装備になっている。
電子カルテベンダー数社が連携してAI統合APIを規格化、AIスタートアップが「電子カルテAに対応します」ではなく「日本のEHR共通APIに対応します」で複数病院に同時展開できるようになった。
診療報酬の改定で、AIを活用したアウトカム改善に対する加算が新設された。医師がAIで効率化した時間を、臨床と研究に再投資できる経済的動機が生まれた。
研修医のあなたは、AIネイティブで育った世代として、後輩研修医にAIの使い方を教える役回りになっている。働く時間は減ったのに、診る患者数とアウトカムは上がっている。
このとき、あなたが研修医時代にやっておくべきだったのは、AIの使い方を体に染み込ませることだ。
シナリオB:中立 ── 二極化が深まる世界
2030年、日本の医療現場はもうひとつの姿を見せている。
一部の大学病院、AIに積極的な民間病院、先進的なクリニックは米国並みの装備で動いている。Ubie、CureApp、海外プロダクトのローカライズ版を活用して、患者あたりの医師の時間が大きく増えている。
一方で、地方の中小病院、公立病院、保守的な大学医局は、まだ紙カルテに近い運用を続けている。Excelで管理表を作っている診療科がまだある。AI scribeを「導入したいけど予算と教育が」と言ったまま、5年が経っている。
患者の側にも二極化が起きている。都市部の若い患者は、ChatGPT Health で予習してから受診する。高齢者・地方の患者は、医師の言葉だけを頼りにしている。
研修医のあなたが2030年にどこに勤務しているかで、見える景色がまったく違う。先進病院に勤めている同期と、保守的な医局に残った同期で、5年後に「同じ医師」として話が通じない瞬間が出てくる。
このとき、あなたが研修医時代にやっておくべきだったのは、AIに触れる経験を、勤務先の都合で諦めないことだ。
シナリオC:悲観 ── 構造の壁が固まる世界
2030年、3つめの世界はこういう景色だ。
日本の構造の壁は動かなかった。OpenEvidenceの日本語版は出ない。Abridgeは日本に来ない。電子カルテの分散は変わらない。診療報酬は2024年改定の枠組みからほぼ動かない。
その間、米国はさらに先行した。AIエージェントが医師の業務の一部を自動で動かし、診療所の生産性が10年前の3倍になっている。米国の医師は患者の顔を見る時間が増え、燃え尽き症候群が減った。
日本では、AI誤診が話題になった訴訟が2027年に1件、2029年に1件起きた。医師会の指針は「AIは補助に留め、独立した判断を維持する」を強く打ち出し、AI使用に対する萎縮が広がった。
研修医のあなたが今、AIの使い方を覚えていなくても、日本の現場では大きな問題にならない。AIを使わない医師でも仕事は回る。ただし、海外で働く可能性、自分のプロダクトを立ち上げる可能性、研究の最前線にいる可能性は、確実に閉じる。
患者の側では、日本人患者がオンラインで米国の医療AIサービスを使い始める。「日本の医師に診てもらう前に、米国のAIに聞いてみる」という患者が増える。日本の医師の存在意義が、患者から見えにくくなる。
このとき、あなたが研修医時代にやっておくべきだったのは、日本の構造に依存しない経路を地図に持っておくことだ。
3つに共通して確実なこと
シナリオAでもBでもCでも、確実なことが3つある。
シナリオに関係なく、確実な3つの前提
AIは確実に強くなる
政策で止まらない技術の連続改善
人口減・医師偏在が深まる
2030年人口1億1,500万人
世界とのタイムラグは消えない
日本語化に2〜3年
これら3つを所与として、シナリオA/B/Cのどこに着地するかは、政策と医療業界全体の動きで決まる。研修医個人で動かすのは難しい。
ただし、研修医個人で「自分がどう動くか」は、シナリオに関係なく今決められる。
賢さんの見立て
僕個人の見立て ── B が7割、C が2割、A が1割
楽観シナリオAが起きるには、政策と業界の同時進化が必要で、過去の経緯から見て5年では難しい。悲観シナリオCに完全に落ちるには、Ubie・CureApp・医師起業家たちの動きが消える必要があるが、これも消えない。
つまり、ほとんどの研修医にとって、未来は中立シナリオBで、自分がどちらの極に立つか、を決める話になる。
先進側に立つ研修医と、保守側に流される研修医。
差を決めるのは、才能でも環境でもなく、たぶん、「触る回数」と「捨てる勇気」だ。
新しいツールを月に1つ触る習慣がある医師と、ない医師。 古い方法に固執しない、捨てる勇気がある医師と、ない医師。
これは、研修医の今、決められる。
5年後のあなたへ
最後に、5年後のあなた宛てに1行だけ。
2030年、このコースを開いて読んだことを、覚えていますか?
覚えていて、あのとき触り始めて良かった、と思えるなら、それで十分だ。
覚えていなくて、「そういえばそんなコースもあったな」程度なら、たぶんその5年で別の道具が当たり前になっていて、それでも問題ない。
問題なのは、覚えていて、「あのとき触っておけばよかった」と思っているケースだ。
それを避けるためだけに、このコースを書いている。
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ここまで7レッスンで、景色(L01-L02)、海の向こう(L03-L04)、影(L05)、自国(L06)、5年後(L07)を見てきた。
ラストレッスンでは、行動の地図を渡す。
明日から3ヶ月、何を触り、何を捨て、何を保つか。研修医の現実的な時間配分の中で、「これだけはやっておくと未来が開く」最低限を絞る。
第1層〜第5層の他コースへの接続も、ここで明示する。
最後の地図を取りにいこう。
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3ヶ月の行動地図、AMPL Learn 第1〜5層への接続、5つの落とし穴。最後の1枚を取りに行く