最後に作るのは、ツールの買い物リストではありません。安全に試し、続けるかを判断する手順です。
この講座の試行では、実患者の情報を使いません。公開情報か架空データだけを使います。診療へ入れる判断は、個人では行いません。
先に、停止条件を書く
始める前に、止める条件を決めます。出典を確認できない。重要な事実を省く。同じ入力で結論が大きく揺れる。修正に元の作業より時間がかかる。データの保存先や二次利用を説明できない。このどれかが続けば止めます。
目的も一つに絞ります。「論文の要点を構造化する」「架空の退院説明を読みやすくする」のように、良し悪しを比較できる作業を選びます。診断や投薬の決定を任せる試行にはしません。
7日で、使えるかを確かめる
七日間で、便利さではなく差分を測る
公開・架空データだけで、同じ仕事を比較します。
- 1日目
目的、従来手順、停止条件を書く
- 2日目
代表例を5件つくる
- 3日目
欠測や曖昧さで壊れ方を探す
- 4日目
自分の回答とAIを比べる
- 5日目
入力と確認手順を一度直す
- 6日目
新しい例で再試行する
- 7日目
続けるかを決める
1日目に、目的、従来の手順、停止条件を一枚に書きます。2日目は、公開情報か架空データで代表例を5件作ります。3日目は、曖昧な指示、欠けた情報、似た用語を入れ、壊れ方を探します。
4日目は、先に作った自分の回答とAIの出力を比べます。5日目は、入力と確認手順を一度だけ直します。6日目は、新しい例で再試行します。7日目に、続けるかを決めます。
この7日間は、本講座が提案する運用プロトコルです。研究で有効性が確立した日数ではありません。
速さだけで採点しない
速さだけを測ると、誤りを見落とす
四つの数字と一つの停止記録を残します。
- 品質
重要な抜けと、修正後の正確さ
- 安全
危険な断定、停止条件、出典追跡
- 時間
準備、生成、確認、修正の合計
- 再現性
別の日や担当者でも同じ手順で測れるか
品質は、重要な情報の抜けと、修正後の正確さで見ます。安全は、停止条件への到達、危険な断定、出典の追跡可能性で見ます。時間は、準備、生成、確認、修正の合計です。再現性は、別の日や別の担当者でも同じ手順で評価できるかです。
点数を一つに合算しません。速いが危険、正確だが確認が重い、という違いを残します。何が悪かったかを残すことが、次の試行に効きます。
1枚の試行計画
次の枠をコピーし、試行を始める前に埋めます。空欄が残る場合は、まだ始めません。
目的:
従来の手順:
入力する資料:
AIに任せる範囲:
人が確認する範囲:
停止条件:
品質(抜け・誤り・修正後の正確さ):
安全(危険な断定・出典・停止条件):
時間(準備・生成・確認・修正):
再現性(別の日・別の担当者):
7日後の判断: 捨てる / 直して再試行する / 院内手続きへ渡す
判断の理由:
試行後は、三つから選ぶ
結果は、採用・調整・停止の三つに分ける
『便利だった』を、次の運用判断へ変えます。
- 捨てる
停止条件に触れた。運用を広げない
- 直して再試行
範囲、指示、確認方法を一度だけ変える
- 院内手続きへ渡す
価値が見えた。個人判断では診療に入れない
停止条件に触れたら捨てます。目的は合っているが手順に問題があれば、直してもう一度だけ試します。公開情報・架空データで安定し、診療に価値がありそうなら、院内の個人情報、セキュリティ、運用、倫理・研究、調達の担当へ渡します。
院内での次段階には、通常診療へ影響させず実環境で評価する「silent trial」という考え方があります。2026年のスコーピングレビューは75研究を整理し、技術指標に比べ、ワークフロー、ヒューマンファクター、臨床的な正解の検証が十分に報告されていないと指摘しました。silent trialは承認の代わりではなく、診療へ影響させない前向き評価です。
7日、30日、90日の区切りも、本講座独自の運用プロトコルです。7日で採否を決め、30日で新しい公開・架空例に再現できるかを確認し、90日で手順を残すか捨てます。診療へ進める場合は、この日数ではなく院内手続きと適切な研究・評価計画に従います。
STARD-AIは、AIを使う診断精度研究の報告指針です。講座内の試行は診断精度研究ではありません。ただし、意図した用途、対象データ、評価方法を先に明示する姿勢は借りられます。
明日触るべきものは、最も話題のAIではありません。自分の小さな作業を、安全に比較できる道具です。
参考・出典(5件)
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス、2026年4月一部改正
- 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版、厚生労働省、2026年6月
- AI事業者ガイドライン第1.2版、総務省・経済産業省、2026年3月31日
- A scoping review of silent trials for medical artificial intelligence, Nature Health, 2026
- The STARD-AI reporting guideline for diagnostic accuracy studies using artificial intelligence, Nature Medicine, 2025