AIは、自信たっぷりに間違える
生成AIを使い始めた医師が驚くのは、便利さの次に平然と嘘をつくことです。
事実と違う内容をもっともらしい文章で生成してしまう現象を ハルシネーション と呼びます。厄介なのは、正しいときと同じ、落ち着いた自信のある口調で間違えることです。口調は当てになりません。
だからこのコースは、まず「見破る側」に立ってもらうところから始めます。ここが揺らぐと、AIに振り回される側になります。
やってみる: 溶連菌の抗菌薬を聞く
手元のChatGPT、Claude、Geminiのどれか1つを開いて、こう聞いてみます。
多くの場合、AIは「アモキシシリン」または「ペニシリン」と、それらしい投与期間を返してきます。ここで答えをうのみにせず、いったん止まります。
答え合わせは、AIにではなく一次情報に
溶連菌性咽頭炎の標準治療は、ガイドラインで明確に決まっています。
米国感染症学会(IDSA)の2012年ガイドラインでは、ペニシリンまたはアモキシシリンが第一選択で、投与期間は10日間と示されています [1]。
なお、IDSAは2025年にこの指針の改訂を始めましたが、公表されたのは臨床スコアの使い方の部分だけで、治療と投与期間は2012年版のままです(2026年10月時点)[2]。日本の「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」(2023年)も、アモキシシリン10日間を基本としています [3]。
ここでAIの答えと突き合わせます。
AIの答えを、ここで見る
ペニシリンやアモキシシリンを挙げながら「5日間」「7日間」など、IDSAの10日間と違う数字を返してくる
その時点で、ガイドラインとの食い違いを1つ見つけたことになる。根拠をたずね、一次情報で確かめる
AIも「10日間」と答えている
合っていても価値は同じ。口調でなく一次情報で確かめたことに意味がある
もう1往復: 根拠を出させる
続けて、同じチャットでこう聞きます。
挙がった文献の題と著者で、PubMed(医学論文の検索サイト)を検索します。見つからない文献は、AIが作った架空の文献かもしれません。見つかったときも、その文献に答えと同じことが書いてあるかまで確かめます。
いま起きたことが、この先すべての土台
AIに聞く
臨床質問を投げる
鵜呑みにしない
いったん立ち止まる
一次情報で確かめる
ガイドライン・論文と照合する
この1往復ができる医師にとって、生成AIは相棒になります。できない医師には、事故のもとになります。
このコースでは、この「確かめる1往復」を、あらゆる場面で繰り返します。患者説明でも論文要約でも、最後は必ず一次情報に戻ります。AIを速く使う技術より、AIを疑える力のほうを先に鍛えます。
参考文献
- Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. doi:10.1093/cid/cis629(PMID 22965026)
- Linder JA, Watson ME, Wessels MR, et al. 2025 Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Group A Streptococcal Pharyngitis: Risk Assessment Using Clinical Scoring Systems in Children and Adults. Clin Infect Dis. 2026;82(Suppl 3):i97-i104. doi:10.1093/cid/ciaf668(PMID 41343363。改訂の第1部で、扱うのは臨床スコアの是非。治療と投与期間は2012年版のまま〔2026年10月時点〕)
- 厚生労働省. 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版. 2023年(5歳の小児は「一般外来における乳幼児編」の急性咽頭炎 p.71-76。GAS が検出された場合の推奨はアモキシシリン10日間経口投与。学童期以降は p.29-31) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001168459.pdf
セルフチェック
1. 生成AIの答えを確かめるとき、最初に見るべきなのはどれか?
2. AIが根拠として挙げた論文を確かめる方法として、最も適切なのはどれか?
明日のアクション
今日中に、手元のAIへ溶連菌の抗菌薬を1回聞いて、IDSAの投与期間(10日間)と突き合わせてください。合っていても間違っていても、確かめたことが今日の成果です。患者さんの情報は入れず、教科書的な質問だけで試します。病院の端末やネットワークで使ってよいかは施設のルールによるので、迷うときは自分の端末で試し、ルールはこのあとの「医療で使う法的・倫理的注意点」で確かめてください。