

このレッスンで終わる頃には
- 生成AIが「もっともらしく間違える」瞬間を、自分の目で1つ見破れる
- AIの答えを一次情報で確かめる「1往復」が、体に入っている
このコースの最初の5分は、使い方の説明ではありません。AIとの正しい距離の取り方を、体で覚えてもらう時間です。
AIは、自信たっぷりに間違える
生成AIを使い始めた医師が最初に驚くのは、その便利さです。その次に驚くのが、平然と嘘をつくことです。
事実と違う内容を、AIがもっともらしい文章で生成してしまう現象を ハルシネーション と呼びます。厄介なのは、間違えるときも正しいときと同じ、落ち着いた自信のある口調で答えてくることです。口調は当てになりません。
だからこのコースは、便利さの話から始めません。まず「見破る側」に立ってもらいます。ここが揺らぐと、この先どれだけツールを覚えても、AIに振り回される側になります。
やってみる: 溶連菌の抗菌薬を聞く
手元のChatGPT、Claude、Geminiのどれか1つを開いてください。そして、こう聞いてみます。
5歳の小児のA群溶連菌性咽頭炎です。
第一選択の抗菌薬と、投与期間を教えてください。
多くの場合、AIは「アモキシシリン」または「ペニシリン」と、それらしい投与期間を返してきます。ここで答えをうのみにせず、いったん止まります。
大事なのは薬の名前が合っているかではありません。その答えを、あなたが自分で確かめられるかです。
答え合わせは、AIにではなく一次情報に
溶連菌性咽頭炎の標準治療は、ガイドラインで明確に決まっています。
米国感染症学会(IDSA)の2012年ガイドラインでは、ペニシリンまたはアモキシシリンが第一選択で、投与期間は10日間と示されています(According to PubMed, Shulman ST, et al. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI)。
ここでAIの答えと突き合わせます。見るべきは1点だけです。
- AIが投与期間を「10日間」と答えたか
- それとも「5日間」「7日間」など、別の数字をもっともらしく混ぜてきたか
もし違う数字が返ってきていたら、あなたはたった今、AIの嘘を1つ見破ったことになります。合っていた場合も、価値は同じです。あなたは口調ではなく一次情報で確かめた。その手順こそが、このコースで一番大事な習慣です。
いま起きたことが、この先すべての土台
たった今あなたがやったのは、次の1往復です。
AIに聞く → 答えを鵜呑みにしない → 一次情報(ガイドライン・論文)で確かめる。
この1往復ができる医師にとって、生成AIは強力な相棒になります。できない医師にとっては、事故のもとになります。同じツールでも、結果を分けるのはこの習慣です。
このコースでは、この「確かめる1往復」を、あらゆる場面で繰り返します。患者説明の下書きでも、論文の要約でも、調べ物でも、最後は必ず一次情報に戻ります。AIを速く使う技術より、AIを疑える力のほうを先に鍛えます。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 生成AIは、正しいときと同じ自信のある口調で間違える(ハルシネーション)
- AIの答えは、口調ではなく一次情報(ガイドライン・論文)で確かめる
- この「聞く→鵜呑みにしない→確かめる」1往復が、この先すべての土台になる
次のレッスンから、医療AIの全体像に入ります。ただし、いま体で覚えた「確かめる1往復」は、最後まで手放さないでください。
参考文献
- Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, et al. Clinical practice guideline for the diagnosis and management of group A streptococcal pharyngitis: 2012 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-102. DOI(According to PubMed, PMID 22965026)
