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生成AIの基本:仕組みとハルシネーションの正体

なぜAIは堂々と嘘をつくのか。LLMの仕組みを理解すれば、医療で安全に使うための足場ができる。

  • レッスン 2 / 13
  • 11分

教育目的の教材です。生成AIの出力を診断・治療の判断にそのまま使わないでください。最終判断は医師が行います。

このレッスンで

終わる頃には、次ができるようになります

  • 文脈から次に来る確率が高い単語を選び続けて文章を生成するLLMの仕組みを説明できる
  • 確信が持てなくても答えを出すほうが報われやすい仕組みを理解し、危険な3パターンを見分けられる
  • 検証できない答えを採用せず根拠を追跡し重要場面でLLM単体を使わないという3原則を実践できる

はじめに:存在しない論文を引用された日

「川崎病の冠動脈病変リスクを最も正確に予測するスコアは?」と、ある研修医がChatGPTに聞いた。返ってきたのは、いかにもそれらしい論文の引用。著者名、ジャーナル名、年代まで付いている。だが念のためPubMedで検索すると、その論文はどこにも存在しなかった。全部、AIが作り上げた架空の書誌情報だった。

ハルシネーションと呼ばれる現象だ。架空の話に聞こえるかもしれないが、実際に起きている。

Case Study/ 米国/ 2023

架空判例を裁判所に提出した弁護士

ハルシネーション · 法的リスク

2023年の事件。米国の弁護士がChatGPTに判例調査を依頼し、AIが生成した6件の架空判例をそのまま裁判所に提出した。裁判所から制裁金5,000ドルを科され、世界的なニュースになった [1]。

法廷でこれなら、医療現場で起きたときの影響は想像に難くない。

この現象がなぜ起きるのか。仕組みから押さえておきたい。


生成AIとは何をしている技術か

文の続きを確率の高い候補から選び、出力を組み立てる図。
LLMは入力の文脈をもとに、次に来る単語の確率を計算して出力を生成します。

2022年11月にChatGPTが公開されると、UBS の推計では約2か月で月間の利用者が1億人に達した [2]。翌年、GPT-4は米国医師国家試験(USMLE)の公式の練習問題で86.7%の正答率を出し [3]、医療界も騒然とした。ただし、正答率が高いことと理解していることは、まったく別の話だ。

ChatGPTやClaudeの中核にあるのは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる仕組みで、やっていることは拍子抜けするほど単純。

いまここまでの文脈に対して、次に来る確率がいちばん高い単語を予測する

これを延々と繰り返して、文章が出来上がっている。

文字を読んで意味を理解しているわけではない。インターネット上の膨大な文章から単語同士の繋がり方のパターンを学び、確率的にもっともらしい続きを出しているだけ。流暢な日本語を生成できるのはそのおかげで、嘘をつくのもまた同じ理由による。いまの主なモデルは、答える前に考える工程を挟んだり、検索で資料を引いたりする仕組みを足している。それでも土台は確率による予測で、もっともらしい誤りは残る。

視点

LLMは答えではなく文章の確率を出している

医師が診断するとき、所見から鑑別を立て、検査で絞り、確定に至る。論理の階段を一段ずつ昇る。LLMにこの階段はない。「川崎病 冠動脈 リスクスコア 論文」と入力されれば、過去の学習データの中で「この単語の並びの後に来やすい単語」を確率順に並べるだけ。それがたまたま実在のKobayashiスコア(ただし、このスコアが予測するのは冠動脈病変ではなくIVIG不応 [4])かもしれないし、存在しない著者名かもしれない。

AIの出力に医学的根拠があるかどうかは、AI自身は判定していない。判定するのは、使う側の人間だ。


なぜハルシネーションが起きるのか

架空の引用、不確かな数値、古い情報という3つの誤りを示す図。
医療現場で特に危険なハルシネーションのパターンを3種類に整理したものです。

LLMも「分かりません」と答えること自体はできる。ただ、次の単語を確率で選び続ける仕組みに加えて、訓練や評価が「分からない」と認めるより、もっともらしく答えたほうが報われる形になりやすい [5]。だから確信度が低くても、黙らずに何かを出す。

それに加えて、学習データにない情報を聞かれたときが厄介だ。最新のガイドライン、自施設の薬剤採用リスト、ローカルな診療フロー。こうした情報はモデルの中にそもそも存在しないのに、LLMは「それっぽい答え」を組み立ててしまう。嘘をつこうとしているのではなく、確率的にいちばん高いものを出すという仕組みの宿命だ。

医療で特に危ないのは3つのパターンになる。

  1. 存在しない論文・著者・ガイドラインの引用。書誌情報は形式が決まっているぶん、それっぽく生成されやすい
  2. 薬剤量・小児用量・腎機能補正の数値の捏造。数字は文脈から確率的に生成されるので、もっともらしい値が出てくる
  3. 古い情報の再利用。モデルの知識は、訓練データを集めた時点で止まっている(その時点は、各社がモデルごとに公表している)。それ以後に改訂されたガイドラインは知らないまま、改訂前の内容を平然と答える

医療で使うための3つの原則

根拠の確認・出典の追跡・人の最終確認がAIの下書きを支える図。
ハルシネーションを前提にして安全に使うための3つの基本原則です。

ハルシネーションをゼロにすることはできない。ただ、起きる前提で使えば、安全な運用は十分に可能だ。

まず、検証できない答えは採用しない。AIが「Aがいい」と言ったら、PubMedかUpToDateか公式ガイドラインで裏を取る。この習慣を例外なく守る。AIの出力は仮説であって、結論ではない。

次に、AIには必ず「根拠を出して」と追加で聞く。論文タイトルやURLが返ってきたら、実際にリンクを開く。URLが開かない、または開いても題や著者が合わないときは、PubMedなどで題と著者から文献そのものを探す。見つからなければ、存在しない文献として扱う。

そして、間違いが許されない場面ではLLM単体を使わない。薬剤量、禁忌、小児量、妊婦への投与。患者の安全に直結する情報は、Lexicompや今日の治療薬、添付文書と必ず併用する。


参考文献

  1. Mata v. Avianca, Inc., No. 22-cv-1461 (S.D.N.Y. 2023). 弁護士がChatGPT生成の架空判例を裁判所に提出し、制裁金5,000ドルを科された。
  2. Hu K. ChatGPT sets record for fastest-growing user base - analyst note. Reuters. 2023年2月2日.(UBS の推計。Similarweb のデータにもとづく)
  3. Nori H, King N, McKinney SM, et al. Capabilities of GPT-4 on Medical Challenge Problems. arXiv:2303.13375. 2023.
  4. Kobayashi T, Inoue Y, Takeuchi K, et al. Prediction of intravenous immunoglobulin unresponsiveness in patients with Kawasaki disease. Circulation. 2006;113(22):2606-12. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.105.592865(PMID 16735679)
  5. Kalai AT, Nachum O, Vempala SS, Zhang E. Why Language Models Hallucinate. arXiv:2509.04664. 2025.("the training and evaluation procedures reward guessing over acknowledging uncertainty")
SourceJOURNAL / PAPER
PubMed

AIが引用した論文の実在を確認するための一次情報源。ハルシネーション検証の基本ツール

WebNational Library of Medicine
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

セルフチェック

1. LLMがハルシネーションを起こす根本的な理由として最も適切なのはどれか?

2. 医療現場でLLMを安全に使うための原則として、最も適切でないものはどれか?

明日のアクション

自分の専門の領域を1つ決め、普段使っているAIに「この領域の最新のガイドラインと、その根拠になった論文を挙げて」と尋ねてほしい。返ってきた論文の題と著者で、PubMedに実在するかを確かめる。これを3回くり返し、何件見つかり、何件が架空だったかを数える。AIの答えをどこまで信じてよいかの、目盛り合わせになる。

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