読めるようになったら、書く。順番としては自然だ。
はじめに:書けない理由は4つに絞れる

最初の1行が出てこない。英語で詰まる。構成が見えない。査読への返答が怖い。若手が論文を書けない理由を分解すると、ほぼこの4つに収束する。AIはそれぞれに手を貸せる。
誤解してはいけないのは、AIに論文を書かせるわけではない点だ。自分の書く速度を引き上げる道具として使う。著者責任は自分にある。AIは編集者であって、代筆者ではない。症例報告を題材に、執筆の各段階でどう組み込むかを見ていく。
なお、症例報告は書き始める前に、患者の同意と院内の手続き(倫理審査など)を確かめておく。ICMJEは、患者を特定できる情報を載せるときは本人(または保護者)の書面の同意を求め、匿名性を保てるか疑わしいときも同意を取るよう求めている [1]。
ステップ1:アイデアと骨格を対話で固める
いきなり書き始めない。まずAIと3〜5往復やりとりして、骨格を固める。この症例のどこが新しいのか。自分の頭の中にあるぼんやりした直感を、言葉に落とす作業だ。
私は研修医2年目です。次の症例の症例報告を書きたいと考えています。
この症例の臨床的な新規性・教育的価値はどこにあると思いますか?
日本国内・国外で類似の報告がどれくらいあるか、検索する切り口も教えてください。
【症例の概要(匿名化済み)】
- 年齢層:思春期男性
- 主訴:発熱と関節痛
- 経過:◯◯
- 最終診断:△△
- 治療:□□
- 転帰:◯◯
珍しさの根拠、先行報告の切り口、投稿先候補。AIはこのあたりまで整理してくれる。白紙の画面を前に手が止まる時間が減る。

ステップ2:IMRADの各セクションをAIで下書き

IMRAD(Introduction, Methods, Results, And Discussion)はセクションごとに独立しているから、AIに下書きを任せやすい。ただし、先に自分が中身を箇条書きで渡す。ここを省くと、出力の質が大きく落ちる。
以下の箇条書きをもとに、Introductionを300語の英語で書いてください。
構成は「背景の重要性 → 既存研究の限界 → 本症例報告の意義」の順で。
【箇条書き】
- 思春期男性のまれな自己免疫疾患
- 過去5年で英語論文10本未満
- 診断遅延が予後を悪化させる
- 本症例は早期診断の手がかりを示す
返ってくる英文が、そのまま投稿に耐えることはまずない。ただ、手を入れる土台にはなる。筆者の体感では、ゼロから書くよりかなり早く仕上がる。
注意
AIに書かせる前に「中身を決める」
AIに論文の中身ごと考えさせると、ハルシネーションのリスクが高くなる。先行研究の引用を捏造したり、存在しない方法論を書いたりする。
→ 必ず「中身は自分が決める、書き起こしと整形をAIに任せる」という役割分担を守る。AIは代筆者ではなく、編集者として使う。
ステップ3:英文校正に使う
英語の壁は根深い。GrammarlyやDeepLでも相当カバーできるが、LLMはもう一段踏み込める。文法だけでなく、医学論文特有の語彙選択や論理展開の自然さまで直してくれる。
ポイントは変更理由を書かせること。そのまま取り込むだけでは身につかない。なぜその前置詞なのか、なぜ受動態に変えたのか。理由を読んで納得してから取り込む。この一手間で、論文を書くたびに英語力が伸びやすくなる。
ステップ4:リバイス対応への支援

初執筆で最も精神をすり減らすのは、査読コメントへの返信だ。赤字だらけのPDFを開いた瞬間の絶望感。AIを間に挟むと、この感情の負荷を下げられる。
査読者から以下のコメントをもらいました。
このコメントの意図を冷静に解釈し、
- 受け入れて修正すべき点
- 反論すべき点
- 補足情報の追加で対応できる点
に分類してください。
それぞれへの返信案も提案してください。
【査読者コメント】
(コメントを貼る)
厳しく見えるコメントも、分解すると建設的な提案であることが多い。AIに分類させると、感情を挟まずに読める。受け入れるもの、反論するもの、補足で対応できるもの。ここまで整理できれば、返信の見通しはほぼ立つ。返信案はそのまま使わず、自分の言葉で書き直す。
守るべき著者責任とAI利用の透明性

ICMJE(国際医学雑誌編集者委員会)は2023年、AIは著者としての要件を満たさないと明言し、2026年1月の改訂ではAIの利用についての節を新たに設けた [1]。著者とは研究に対して知的責任を負える存在であり、AIにはその能力がない。Nature [2] もScience [3] も同じ立場で、主要な出版社や編集者の団体も、AIを著者として認めていない。
ただし、使うなという話ではない。求められるのは、何に使ったかの開示だ。ICMJEは、雑誌が投稿時にAIの利用を著者に申告させ、カバーレターと原稿の該当する箇所に使い方を書かせるよう求めている [1]。Lancetを出しているElsevierは、執筆の補助に使ったときは参考文献の直前に専用の申告欄を置き、研究の過程で使ったときはMethodsに書くよう定めている [4]。書く場所は雑誌ごとに違う。執筆補助、校正、図表の作成など、何に使ったかを正直に開示する。
一方、開示すれば何に使ってもよいわけではない。Elsevierは、顕微鏡写真や放射線画像、患者の写真のように、研究で得た観察データを表す画像を、AIで作ったり加工したりすることを認めていない。グラフィカルアブストラクトに汎用の画像生成AIを使うことも認めていない [4]。症例報告は患者の画像を載せることが多いので、特に気をつける。
投稿前に、投稿規定(Author Guidelines)のAIの方針を必ず確かめる。決まりの範囲で使い、使ったことは隠さない。
参考文献
- International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE). Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals (Updated January 2026). II.E. Protection of Research Participants、V. Use of Artificial Intelligence in Publishing. https://www.icmje.org/recommendations/
- Nature. Tools such as ChatGPT threaten transparent science; here are our ground rules for their use. Nature. 2023;613:612.
- Thorp HH. ChatGPT is fun, but not an author. Science. 2023;379(6630):313. doi:10.1126/science.adg7879
- Elsevier. Generative AI policies for journals(申告欄 "Declaration of generative AI and AI-assisted technologies in the manuscript preparation process" と、図・画像での AI の扱い). https://www.elsevier.com/about/policies-and-standards/generative-ai-policies-for-journals
セルフチェック
1. 論文執筆にAIを使う際の役割分担として最も適切なものはどれか?
2. 近年の主要な学術ジャーナルにおけるAI利用に関する方針として最も正しいものはどれか?
明日のアクション
過去に経験した症例や、いま気になっている症例を1つ思い出してほしい。匿名化したうえで、AIに「この症例の新規性と書き出しの切り口」を相談してみてほしい。書く前に対話するだけで、論文への距離が縮まる。