プロンプトエンジニアリングとは

外来で「AIに診断書のドラフトを書かせたら全然使えなかった」と聞くことが、最近よくある。 聞き返すと、「診断書を書いて」と一行投げただけだったりする。
これは、AIの問題ではない。 依頼の仕方の問題だ。
同じ Claude / ChatGPT に、同じ患者情報を渡しても、依頼文(プロンプト)の作り方ひとつで、返ってくるドラフトの質はまったく変わる。 この差は、技術的な能力の差ではなく、指示書の作法の差だ。
プロンプトを設計する技術——プロンプトエンジニアリング——を、医療現場の言葉でほぐしていく。
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このレッスンで学ぶこと
このレッスンを完了すると、プロンプトエンジニアリングの定義と重要性を理解し、良いプロンプトと悪いプロンプトの違いを把握できるようになる。さらに、医療現場での実践的な意義として、診断書・症例報告・患者説明資料のドラフト作成にどう活かすかを学ぶ。
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1. プロンプトエンジニアリングの定義

プロンプトエンジニアリングは、AIからより良い回答を得るために、プロンプトを設計・最適化する技術だ。
目的は3つにまとめられる。
- 回答の質の向上: より正確で有用な回答を得る
- 出力の制御: 意図した形式・内容にする
- 効率の向上: より少ない試行で目的を達成する
ここで「設計する」と言っているのが大事だ。 頭に浮かんだ言葉をそのまま投げるのではなく、何を、どう、どこまで をあらかじめ考えてから書く。 その分の数十秒の手間が、AIの返答の質を桁で変える。
医療現場での重要性
医療現場では、プロンプトの質が回答の質を左右する局面が、特に多い。
- 正確性: 用量・年齢区分・ガイドライン名が誤っていれば、そのまま危険になる
- 効率性: 診断書・症例・患者説明資料は、毎回ゼロから書くより質の高いドラフトから手直しする方が速い
- 安全性: AIに渡す情報の範囲(個人情報を含めない、構造だけにする)を、プロンプト側で制御する
「AIが正しい答えを返すかどうか」を、AI任せにせず、こちらの書き方で制御する習慣をつくる。
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2. 良いプロンプトと悪いプロンプト

悪いプロンプトの例
抽象的・情報不足・制約条件なし。
- 「診断書について教えて」
- 「症例報告書を作成して」
- 「説明資料を作成して」
これらの問題点ははっきりしている。 AIが何を求められているか分からない。期待と異なる回答が返ってくる。複数回の試行が必要になる。 結果として、AIに頼んだ方が早かったはずの作業が、人手で書くより遅くなる。
良いプロンプトの例
具体的・情報十分・制約条件あり。
- 「急性気管支炎の診断書の書き方を、具体的な例を含めて教えてください」
- 「以下の症例情報に基づいて、症例報告書のIntroductionセクションを作成してください:[症例情報]」
- 「急性心筋梗塞について、一般の患者が理解しやすい言葉で説明資料を作成してください。専門用語は最小限にし、300文字以内、箇条書き形式で」
並べてみると、悪いプロンプトと良いプロンプトの違いは語数ではない。構造の有無だ。 何を、誰の立場で、どんな条件で、どの形式で——これらが揃っているかどうかが、すべてを決める。
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3. プロンプトの5つの要素

効果的なプロンプトには、5つの基本要素が含まれる。
1. 役割の設定
AIにどの立場で答えてほしいかを最初に渡す。
あなたは経験豊富な内科医です。
何の専門家として答えるかが決まれば、用語選択・語り方・前提知識の置き方が揃う。
2. タスクの明確化
何をしてほしいかを具体的に示す。
診断書の主訴セクションを作成してください。
「教えて」ではなく「作成してください」「比較してください」「箇条書きにしてください」のように、動詞で指示する。
3. コンテキストの提供
判断に必要な背景情報を渡す。
患者は65歳男性で、3時間前から胸痛と発汗を訴えています。心電図でST上昇、トロポニン陽性。
情報を渡さないと、AIはありがちな一般論で埋める。具体性がなくなる。
4. 制約条件の指定
出力に対する制限を明示する。
医療用語を使用し、50文字以内で記述してください。
文字数・言葉遣い・含めてほしい項目・避けてほしい項目。書かなければ、AIは無制限に書こうとする。
5. 出力形式の指定
希望する形式を指定する。
箇条書き形式で、見出しを太字で、各項目に番号を振ってください。
テキストか表か、Markdown か HTML か。後でコピペする先が決まっているなら、その形式に揃えておく方が手戻りがない。
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4. 医療現場での実践例

診断書作成のプロンプト
あなたは経験豊富な内科医です。
以下の患者情報に基づいて、診断書のドラフトを作成してください。
患者情報:
- 年齢:65歳、男性
- 主訴:胸痛、発汗、呼吸困難
- 現病歴:3時間前から症状出現
- 検査結果:心電図でST上昇、トロポニン陽性
- 診断名:急性心筋梗塞
診断書には、主訴、現病歴、診断名を含めてください。
医療用語を適切に使用し、簡潔に記述してください。
5つの要素(役割・タスク・コンテキスト・制約・形式)が全部入っている。 このまま貼って使える。
症例報告書 Introduction セクションのプロンプト
あなたは経験豊富な内科医です。
以下の症例情報に基づいて、症例報告書のIntroductionセクションを作成してください。
症例情報:
- 年齢:45歳、女性
- 主訴:急性腹痛
- 診断:虫垂炎
- 新規性:非典型的な症状パターン
Introductionセクションでは、
症例の新規性と教育的意義を強調してください。
300文字以内で、専門用語を適切に使用してください。
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5. プロンプトの反復改善

プロンプトは、一度で完璧に書く必要はない。 回答を見て、必要に応じて改善できる。むしろ反復前提で書く方が早い。
改善のプロセス:
- 最初のプロンプトで質問する
- 回答を確認し、不足している情報や改善点を特定する
- プロンプトを改善して再質問する
- 必要なら、もう一巡
この4ステップを2〜3回まわすと、自分の業務に合った定型プロンプトが手元に育つ。 そこから先は、テンプレートを少し変えるだけで毎回使える。
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今日のまとめ

3行で振り返ります。
- プロンプトエンジニアリングは、AIへの指示書の作法。問題はAIの能力ではなく、依頼の仕方にある
- 良いプロンプトには 5要素(役割・タスク・コンテキスト・制約・出力形式)が揃う。語数ではなく構造で決まる
- プロンプトは一発で完成させなくていい。返答を見ながら改善する反復前提が、結局いちばん早い
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L02「基本的なプロンプトテクニック」では、明確な指示・コンテキストの提供・例示など、医療現場ですぐに使える基本テクニックを掘り下げる。
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明日のアクション
明日の業務で、AIに質問する際に「役割の設定」「タスクの明確化」「コンテキストの提供」「制約条件」「出力形式」の5つの要素を意識してプロンプトを1つ作成してみる。診断書、症例要約、患者説明資料など、自分の日常業務の1つをテーマにする。
書き終えたプロンプトを Claude か ChatGPT に投げて、返ってきた回答の使い勝手を、「いきなり書いた一行プロンプト」と比較してみる。差が見えれば、それで今日の演習は成功だ。