状況
英語論文を書くとき、一番しんどいのは「文法的に正しいかどうか」より「これは学術英語として自然か」という判断だ。日本語から訳したような構文、冗長な説明、ヘッジングが抜けている断言口調、そういう箇所は自分ではなかなか気づけない。
以前は校正サービスに丸投げしていた。費用は1回あたり数万円。返ってきた原稿を見ると確かに整っているが、「なぜこの表現に変えたのか」は書いてなかったりする。修正内容を受け取るだけで、自分の英文力は上がらないまま次の原稿へ、という繰り返しだった。
Claudeを試し始めたのは、SRの準備でやり取りの量が増えてきた頃。どうせ読ませるなら校正にも使えるはずだと思い、段階的に試した。今は投稿前の最終確認以外、校正サービスを使わないケースが増えた。
やったこと
セクション単位(IntroductionやMethodsを1つずつ)で渡す。一度に全文を流すより精度が上がる。
ステップ1: 文法・スペルの基本校正
まず表層的なエラーを取る。
以下の医学論文のテキストを校正してください。
以下の観点で修正を行ってください:
1. 文法の誤り
2. スペルミス
3. 句読点の修正
4. 主語と動詞の一致
5. 冠詞(a/an/the)の適切な使用
6. 時制の一貫性
修正箇所は【修正前 → 修正後】の形式で示し、
修正理由を簡潔に説明してください。
テキスト:
[校正したいテキスト]
冠詞と時制は自分の弱点で、ここだけでも意外と直しが出る。
ステップ2: 学術的表現への改善
文法が通っていても、学術英語として読みやすいかは別問題だ。ここが一番使い出がある。
以下の医学論文のテキストを、学術的に洗練された表現に
改善してください。以下の観点で修正を行ってください:
1. 冗長な表現の簡潔化
2. 受動態と能動態の適切な使い分け
3. ヘッジング(may, might, could, suggests)の適切な使用
4. 学術英語として不自然な表現の修正
5. パラグラフ間の論理的なつながり(接続表現)
修正前の文と修正後の文を並べて示し、
なぜこの修正が学術的に適切かを説明してください。
テキスト:
[テキスト]
たとえばこういう修正が返ってくる:
| 修正前 | 修正後 | 理由 |
|---|---|---|
| We found that the drug is effective. | Our findings suggest that the drug may be effective. | ヘッジングの追加 |
| The patient got better. | The patient demonstrated clinical improvement. | 学術的表現 |
| We did a study to see if... | This study aimed to investigate whether... | 学術的導入表現 |
「なぜこの表現が適切か」の理由が毎回出てくるので、校正サービスと違って読むだけで少し学べる。
ステップ3: 専門用語の確認
ここは最も注意が要る。
以下の医学論文テキストについて、専門用語の使用を確認してください。
1. 医学用語が正確に使用されているか
2. 略語が初出で正式名称とともに定義されているか
3. 同じ概念に対して一貫した用語が使用されているか
4. MeSH用語との整合性
5. 数値の単位が正しいか(SI単位系の使用)
問題点とその修正案を提示してください。
テキスト:
[テキスト]
表記ゆれの指摘は精度が高い。ただし、小児科領域の慣習的な言い回し(例えばinfant vs. newbornの使い分け)をAIが別の表現に書き換えることがある。ここは提案を見てから自分で判断する。
効いたところ
- 校正サービスの利用回数が体感で半分以下になり、費用が減った
- 修正理由が毎回言語化されるので、「なぜそう直すのか」が蓄積されていく
- セクション単位でやるので、見落としが減った
- before/after形式で出るので、著者としての意図と照らしやすい
- ヘッジング不足の指摘が鋭く、査読で指摘される前に拾えるようになった
限界・気をつけていること
- 医学英語特有の言い回しはAIが誤る。小児科系の専門用語はカテゴリーごとに自分でチェックしている
- AIが自信ありげに返してきても、専門用語は原本の論文や学会ガイドラインと照合する
- 最終投稿前の確認(特にDiscussionとConclusion)はネイティブか校正サービスに依頼することもある
- Abstract単体でも定義し直す略語ルールはAIが見落とすことがある、手動確認が必要
- 医療的な数値・単位の確認(SI単位系)はAI任せにしない
横展開
同じパターンで、日本語から英語に訳した後の仕上げにも使える。発表抄録(abstract)の推敲、学会発表スライドの英語キャプション、グラント申請書の英語Summary、どれも「読める英語にする」という目的では同じ操作で通じる。校正の深さはその用途に合わせて調整すれば、ステップ1だけで十分なこともある。