顧客の購買データやアンケートの回答を分析させたい場面は多くあります。ただ、顧客名・連絡先・契約金額がそのまま入ったファイルを渡すのは、便利さと引き換えに小さくないリスクを背負います。
会話に入れないほうがいい情報については、個人情報・機密情報・パスワードやAPIキーの3種類として前のコースの最終回で扱いました。このレッスンでは、それを踏まえて、顧客データを扱うときの手順を伏せる・確かめる・引き受けるの3段階に分けて見ていきます。
小さな会社ほど、顧客との距離が近いという強みがあります。裏を返せば、情報の扱いを一度誤ると、その近さがそのまま信用を落とす速さになります。手間を惜しまず3段階を踏む価値は、この距離の近さにあります。
伏せる:何を消してから渡すか
顧客データをそのまま渡す前に、次のようなものは消すか置き換えます。
顧客名・住所・電話番号・メールアドレスは、仮名や「顧客A」のような記号に置き換える
正確な金額が必要なければ、丸めた数字にするか、金額そのものは渡さず傾向だけ見る
「あの取引先の担当者」と分かってしまうような固有の事情は、一般化した表現に直す
すべての分析でここまで厳密にする必要はありません。社内向けの傾向を見るだけなら、名前を記号に置き換えるだけで十分なことも多いです。ただ、どこまで伏せるかを毎回考え直すのではなく、先にルールとして決めておくと迷いが減ります。
置き換えの手間を惜しんで、氏名の入ったファイルをそのまま渡してしまう場面はよくあります。急いでいるときほど起きやすい失敗なので、置き換え作業自体を先に決めたテンプレートで済ませられるようにしておくと、手間と安全のどちらも守れます。
確かめる:自分の実態と照らす
伏せたデータを渡して分析させたら、結果をそのまま信じず、自分が知っている実態と照らし合わせます。
分析結果への向き合い方
出てきた傾向や数字を、そのまま資料に貼って使う。自分の肌感覚と合っているかどうかを確認しない。
自分がよく知っている顧客が2〜3人、分析結果の中でどう扱われているかを確認する。実際の印象とずれていれば、材料の渡し方や質問の仕方を見直す。
知っている顧客で答え合わせをするのは、時間にして数分の作業です。この一手間があるかないかで、思い込みに近い結論をそのまま使ってしまう事故をかなり防げます。たとえば「解約が増えている理由は価格にある」という分析が出てきても、よく知っている顧客の解約理由を思い返すと、実際は対応の遅さが原因だった、ということもあります。自分の記憶と照らす一手間は、こうしたずれに気づく最後の砦です。
引き受ける:結果は自分の判断として使う
分析結果を使った提案や判断が外れたとき、「AIがそう言ったから」は理由になりません。使うと決めたのは自分であり、結果を使うかどうかの判断も自分に残ります。
補足
AIのせいにしないという線引き
AIは材料を整理し、傾向を見つける手伝いをします。ただし、その結果を使って何をするかを決めるのは、常に人間の側です。この線引きを最初に持っておくと、結果が期待と違ったときも、次にどう直せばいいかを自分の頭で考えられます。
これは特別に難しい考え方ではありません。誰かに調べ物を頼んで、その報告をもとに自分で決めるのと同じです。AIが相手でも、最終的に引き受ける人が変わるわけではありません。
やってみよう
演習1:伏せるものリストを作る
自分がよく扱う顧客データを1つ思い浮かべてください。そこに含まれる情報のうち、渡す前に必ず伏せるものを3つ、書き出してください。伏せなくても問題ないと思うものがあれば、その理由も添えてください。
演習2:確かめ方を1つ決める
自分がよく知っている顧客を2〜3人思い浮かべ、次に分析結果を見るとき、その顧客がどう扱われているかを確認する、という手順を実際に試してみてください。ずれがあれば、何が原因だったかをメモしておきます。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 顧客データを渡す前に、氏名・連絡先・契約金額の細部・特定できる事情を伏せる
- 分析結果は、知っている顧客で答え合わせをしてから使う
- 結果を使うかどうかの判断は、最後まで自分の責任として引き受ける
次のレッスンでは、お客さんに向けてAIを使うときに起きやすい失敗と、その防ぎ方を見ていきます。
セルフチェック
1. 顧客データをAIに渡す前に伏せるものとして、本文が挙げていないものはどれですか。
2. 分析結果を確かめる方法として、本文が勧めているのはどれですか。
3. 「結果を引き受ける」という考え方について、本文の説明として正しいのはどれですか。