前のレッスンまでで、AIが何を知っているか、一度にどれだけ扱えるかを見てきました。今回は4つ目の性質、こちらの指示がどれだけ効くかを扱います。
同じ「簡潔にして」という一言でも、狙いどおりに削られることもあれば、必要な情報まで消えてしまうこともあります。この差がどこから生まれるのかを見ていきます。指示の効き方は、これまでの3つの性質とは少し毛色が違い、AI側の限界というより、こちらの伝え方との相性の問題です。
どれだけコントロールできるか、という性質
AIは指示された言葉のパターンに従って答えを組み立てています。人間同士なら、多少あいまいな頼み方でも、相手が状況を察して意図を補ってくれることがあります。AIに対しても同じ期待をすると、思ったとおりに動いてくれないことがあります。
指示がうまく効くかどうかは、指示そのものの短さ・具体性・あとから確認できるかどうかに左右されます。逆に言えば、指示を出す側がこの3つを意識するだけで、AIとのやり取りの精度はかなり変わります。
効きやすい指示、ぶれやすい指示
指示の効きやすさを分けるもの
「この文章を200字以内にまとめて、専門用語は使わずに」
長さの上限も、避けてほしい表現も、あとから見て守れているか確認できます。短く具体的で、検証可能な指示ほど、狙いどおりの結果になりやすくなります。
「もっといい感じにして」
何をもって「いい感じ」とするかが、こちらの頭の中にしかありません。抽象的な指示や、答えにたどり着くまでに長い判断の連鎖が必要な指示ほど、狙いから外れやすくなります。
指示が抽象的であるほど、AIは自分なりの解釈で埋め合わせをします。その埋め合わせが、こちらの思っていた意図と一致するとは限らない、というのがこの性質の核心です。埋め合わせの結果がたまたま合っていることもありますが、それは運がよかっただけで、毎回再現できるとは限りません。
文字通りに実行して、意図を見落とすことがある
指示に従っていないわけではないのに、求めていたものと違う結果になる。よくあるのが、指示の文字面には忠実に従っているのに、その指示を出した本当の狙いを見落としているケースです。
文字通り実行して、狙いを外した例
頼んだこと
社内向けの報告メールを「もっと簡潔にして」と頼んだ
文字通りの実行
文の数を減らすことを優先し、判断に必要な数字や条件まで削ってしまった
見落とされた本当の狙い
こちらが求めていたのは、読む時間を短くすることであって、必要な情報を消すことではなかった
指示を出す側からすると、「簡潔に」の中に「ただし必要な情報は残して」が当然含まれているように感じます。ですが、その部分は言葉にしない限り、AI側には伝わっていない前提です。似たようなことは「もっとカジュアルに」「もっと丁寧に」といった、トーンに関わる指示でも起きやすくなります。何をどこまで変えるかの線引きが、こちらの頭の中にしかないためです。
これは人に仕事を頼むときの感覚と、少し違うところです。人であれば、報告書の性質や読み手の立場から「さすがにこの数字は削らないだろう」と汲み取ってくれることがあります。AIに対しても同じ察しのよさを期待すると、当てが外れることがある、と知っておくと肩透かしを防げます。
対処:目標を言葉にする、途中で確認する
指示のぶれを減らすには、指示を出す前と、答えを受け取ったあとの両方で手が打てます。
狙いそのものを言葉にする
「簡潔に」だけでなく、「読む時間を短くしたい。ただし判断に必要な数字は残す」まで伝える
答えの途中で確認する
長い仕事は一度に最後まで任せず、途中の方針や骨子の段階で一度見せてもらう
抽象的な指示ほど、狙いを言葉にする手間をかける価値があります。長い仕事ほど、最後まで待たずに途中で一度確認する価値があります。2つの対処は組み合わせて使うこともできます。骨子の段階で狙いを確認し合っておけば、そのあとの指示は多少短くても伝わりやすくなります。指示の出し方そのものをもっと体系的に練習したい方は、頼み方の技法で扱っています。
やってみよう
演習1:自分の曖昧な指示を言葉にし直す
普段AIに出している指示の中から、「いい感じに」「もっと良くして」のような抽象的な言い回しを1つ選んでください。そのとき自分が本当に求めていたことは何だったか、具体的で確かめられる言葉に置き換えてみてください。
演習2:途中で確認するタイミングを設計する
込み入った仕事をAIに任せるとき、最後まで待たずに一度確認したいタイミングはどこでしょうか。ある仕事を思い浮かべ、「ここまでできたら一度見せて」と言うべき区切りを、自分なりに1〜2か所決めてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 短く具体的で、あとから確認できる指示ほど効き、抽象的な指示ほどぶれやすい
- AIは指示に文字通り従いながら、その指示の本当の狙いを見落とすことがある
- 狙いそのものを言葉にすることと、途中で一度確認することの2つで、ぶれを減らせる
次のレッスンでは、ここまで見てきた4つの性質が同時にぶつかったときに何が起きるかを扱います。
セルフチェック
1. 指示の効きやすさを左右するものとして、本文の説明に合うものはどれですか。
2. 「文字通りに実行して、意図を見落とす」とはどのような状況ですか。
3. 指示のぶれを減らす対処として、本文で紹介されていないものはどれですか。