「資料を作って」「この数字をまとめて」とだけ頼んで、思ったより当たり障りのない答えが返ってきたことはないでしょうか。原因の多くは、AIの性能ではなく頼み方の側にあります。
このコースでは、頼み方を6つの技法に分けて、「前」と「後」の頼み方を並べながら見ていきます。題材は資料づくり、集計、会議の準備、授業の教材づくりなど、普段の仕事から選びます。特別な知識は要りません。
補足
このコースが土台にしている考え方
このコースで使う「記述力」という言葉は、Rick Dakan・Joseph Feller と Anthropic が開発した AI Fluency Framework(4D)に由来します。頼み方は、記述力という「AIにどう明確に伝えるか」という力の実践編にあたります。ここではその一部を、AMPLが独自に書き起こしています。
新しい同僚に頼むつもりで書く
AIへの頼み方を考えるとき、便利なたとえがあります。やる気はあるけれど、その職場に入ったばかりで、指示や期待をはっきり伝えないと動けない新しい同僚に頼む場面です。仕事はできる、でも「察してほしい」は通じない相手だと思うと、何を書き足せばいいかが見えてきます。
人に何かを頼むときの良い作法は、AI相手でもそのまま効きます。目的を伝える、締め切りを伝える、誰向けかを伝える。ここは変わりません。変わるのは、次の3つです。
人に頼むときと違う3つの点
察してほしいことを明示する
同僚なら表情や過去のやり取りから汲み取る文脈を、言葉にして渡す
作業記憶の上限を意識する
一度の会話で踏まえていられる量には上限がある。大事な情報は繰り返し渡す
機械が扱いやすい形式を使う
見出しや箇条書き、区切り記号を使うと、長い依頼でも読み違えが減る
この3つのうち、いちばん見落とされやすいのは1つ目です。人間の同僚なら、表情や過去の会話の積み重ねから「今回は急ぎらしい」「これは慎重に扱う話らしい」と察してくれます。AIにはその蓄積がないので、察してほしいことほど、あえて言葉にする必要があります。
たとえば会議の議事録づくりを頼むとき、「先週と同じ感じでまとめて」とだけ伝えても、AIには「先週と同じ感じ」がどんな感じか分かりません。人間の同僚なら先週の議事録を思い出せますが、AIにとっては会話に出てきていない情報です。先週の例を貼り付ける、決定事項は箇条書きにするといった形式を指定する、といった一手間が、察してほしいことを明示する具体的な行動になります。
このコースで扱う6つの技法
ここから6回に分けて、記述力を具体的な技法として使う方法を見ていきます。
依頼を3段階で育てる。なぜ聞くのか、自分は誰でどこまで知っているかを足す
言葉で説明しにくい形は見本で見せる。形式・長さなどの条件で答えの幅を絞る
手順を渡す、答える前に考える余地を渡す。2つは別の技法として扱う
誰として話してほしいかを指定する。批評役にする使い方もある
状況と目標だけ伝えて、頼み方自体を下書きさせる
よくある失敗と、足す・分ける・別の形式を試すなどの手
目的・読み手・形式・制約を一度に埋める短い型はよりよい結果を引き出す頼み方、明確な指示・文脈・例示・役割という基本形はプロンプトエンジニアリングとはで扱っています。このコースは、その中の「記述力」という1つの力の内側を、技法ごとにもう一段掘り下げる内容です。
6つの技法は独立しているようで、順番に効果が重なる作りにもなっています。1つ目の文脈をしっかり伝えられていれば、2つ目の見本や3つ目の段階分けは、その文脈の中でより効きやすくなります。反対に、文脈が曖昧なまま見本や役割だけを足しても、答えの芯はぶれたままです。
どれも単体の小技ではなく、記述力という1つの力を、場面に応じて使い分けているだけです。技法を丸暗記するより、「今回はどの技法が効きそうか」を考える練習だと思って読み進めてください。
次のレッスンからは、技法ごとに「前の頼み方」と「後の頼み方」を実際の文面で並べて見せます。説明を読むだけでなく、同じ依頼が技法を1つ足すことでどう変わるかを、文面のまま比べてみてください。
やってみよう
演習1:最近の頼み方を思い出す
直近でAIに何かを頼んだときのことを思い出してください。もし「新しい同僚に頼む」つもりで書き直すとしたら、どこを書き足しますか。3つ挙げてみてください。
演習2:省略しがちなものを見つける
「察してほしいことを明示する」「作業記憶の上限を意識する」「機械が扱いやすい形式を使う」の3つのうち、自分が普段いちばん省略しがちなのはどれか考えてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 頼み方は特別な技術ではなく、記述力という伝える力の実践
- 人に頼むときの作法はAI相手にも効くが、察してほしいことは言葉にする必要がある
- ここから6回で、文脈・見本・段階・役割・共作・立て直しの6技法を扱う
次のレッスンでは、1つの依頼を3段階で育てる「文脈と自分が誰か」を見ていきます。
セルフチェック
1. 本文で紹介した「新しい同僚」のたとえで、人に頼むときと比べてAI相手だからこそ意識する点として挙げられていないものはどれですか。
2. このコースで「記述力」という言葉を使う際、本文が示している出典として正しいものはどれですか。
3. 「察してほしいことを明示する」がいちばん見落とされやすい理由として、本文が説明しているものはどれですか。