前のレッスンでは、依頼に足す文脈を見ました。ここでは、言葉で説明しにくいものを伝える2つの道具、見本と条件を扱います。
まず見本なしで試す
見本というと、最初から添えるものだと思われがちですが、おすすめの順番は逆です。まず見本なしで頼んでみて、文体や構成が思うように定まらないときだけ、見本を足します。
理由は単純です。見本を先に渡すと、AIはその見本に寄りすぎたり、逆に見本の枝葉の部分まで律儀に真似したりすることがあります。見本なしでまず試し、直したい部分が言葉で説明しにくいときに初めて、見本の出番になります。
見本なしで試して返ってきた答えを直すとき、「ここを直して」と言葉で説明できるなら、見本は要りません。「なんとなく違う、でもどこがとは言えない」と感じたときだけ、見本の出番だと考えてください。
見本は幅を持たせる
授業の小テストを例に、見本の渡し方を比べます。
小テストの見本の渡し方
1問だけを見本として渡すと、AIはその1問の形式(選択肢の数、難易度、聞き方)に強く引っ張られます。結果として、他の問題もほぼ同じ型の繰り返しになりやすくなります。
難易度や形式が異なる2〜3問を見本として渡すと、AIはどこが揃えるべき型で、どこが変えてよい部分かを見分けやすくなります。「選択肢は4つ」のような共通点と、「難易度は問題ごとに変えてよい」という自由度の両方が伝わります。
見本は「これに従って」ではなく「この範囲で作って」という枠を渡すものだと考えると、1つに偏らせない意味が分かりやすくなります。手元に見本が1つしかないときは、「この見本の構成は保ちつつ、分量や具体例は状況に合わせて変えてよい」と一言添えるだけでも、幅を持たせたのと近い効果があります。
会議の議事録づくりでも同じ考え方が使えます。
今回の会議の議事録をまとめて。これだけだと、決定事項をどこまで詳しく書くか、宿題に担当者名を添えるかどうかは、AIの判断任せになります。社内の議事録らしい粒度に、必ずしも合うとは限りません。
以下は先週の会議議事録の例です。同じ構成・同じ粒度で、今回の〔会議名〕の議事録を作ってください。決定事項は必ず箇条書きにし、次回までの宿題は担当者名を添えてください。
【先週の例】
〔議事録の例を貼り付ける〕
【今回のメモ】
〔書き起こしや自分のメモを貼る〕見本を足すと、粒度や体裁を言葉で説明する手間が要らなくなります。前の頼み方では毎回書き手の頭の中にある「うちの議事録らしさ」を推測させるしかなかったのに対し、後の頼み方では先週の例がそのまま基準になるため、直しがほぼ要らない議事録が返ってきます。
出力の条件で絞る
形式・長さ・言語など、出力の条件を指定するのも、記述力の一部です。
表、箇条書き、スライド1枚分の構成など
字数、行数、発表の分数など
専門用語を避ける、逆に英語表記のままにする語を指定するなど
決めつけた言い回し、断定しすぎる表現など
条件を先に決めておくと、AIが「どこまで詳しく書くか」を毎回考え直さずに済み、直しの往復が減ります。とくに形式と長さは、指定しなければAIが独自に判断する部分なので、こだわりがあるときほど先に書いておく価値があります。
集計結果をメールで共有するとき
「今月の集計結果を、表でまとめて」とだけ頼むと、表の行数もコメントの分量もAIが日によって変えてしまい、同じ依頼のつもりでも毎回ボリュームがばらつきます。
「今月の集計結果を、表は5行以内、補足コメントは3行以内でまとめて」と数字で区切ると、毎回同じボリューム感の下書きが返ってきます。メールに貼るときの調整もほぼ要りません。
変わったのは長さの指定だけですが、効果は往復の回数に出ます。条件なしだと「もっと短く」「今度は長すぎ」と直しを繰り返しがちなところが、条件ありだと一度で狙った分量に収まります。
見本と条件は、組み合わせて使うこともできます。見本を1つ渡しつつ、「見本より2割短く」「見本にはない結論を最後に1文加えて」のように条件で差分を指定すると、見本をなぞるだけで終わらない依頼になります。
やってみよう
演習1:見本なしで試してから見本を足す
最近繰り返している仕事(週報、案内メール、集計表など)を1つ選び、まず見本なしで頼んでみてください。直したくなった箇所が、言葉で説明しにくいものだったら、見本を1つ足して比べてみてください。
演習2:条件を2つ決める
今取り組んでいる依頼について、形式・長さ・避けたい表現のうち、少なくとも2つを先に決めて書き添えてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 見本は最初から渡すのではなく、まず見本なしで試し、必要なときだけ足す
- 見本は1つに偏らせず、幅を持たせると型と自由度の境目が伝わる
- 形式・長さ・言語・避けたい表現などの条件を先に決めると、直しの往復が減る
次のレッスンでは、込み入った仕事を段階に分け、答える前に考える余地を渡す技法を見ていきます。
セルフチェック
1. 本文が勧めている、見本を使う順番として正しいものはどれですか。
2. 小テストの見本を1問だけ渡した場合に起きやすいこととして、本文が説明しているものはどれですか。
3. 出力の条件として、本文が例に挙げていないものはどれですか。