ここまでは、1回の依頼の中身を厚くする技法を見てきました。ここからは、依頼の中身ではなく、依頼そのものを分割する2つの技法、段階に分けると先に考えさせるを扱います。
手順を渡す価値が高い仕事
「分析して」と一言で頼むのと、見る順番を並べて渡すのとでは、返ってくる答えの質が変わります。とくに次のような仕事は、手順を言葉にする価値が高いといえます。逆に、答えがほぼ1通りに決まる単純な作業にまで手順を書き込むと、依頼文だけが長くなって割に合いません。
担当者によって進め方が違い、頼むたびに結果が揺れる仕事
熟練者の勘やコツで進んでいて、手順が言語化されていない仕事
複数の観点を同時に考えると、どれか1つを見落としがちな仕事
例として、研修の参加者アンケートから改善提案をまとめる場面を使います。
声を分類する
自由記述の回答を、内容ごとにいくつかのグループに分けてもらう
頻度で並べる
分類したグループを、件数の多い順に並べてもらう
改善案を作る
上位のグループごとに、具体的な改善案を考えてもらう
優先順位をつける
実施のしやすさと効果の見込みから、優先順位をつけてもらう
段階を分けるといっても、4回に分けてメッセージを送る必要はありません。1つの依頼文の中に、見る順番を書き込むだけで十分です。この4段階を、実際の依頼として前と後で比べてみます。
添付のアンケートの自由記述から、改善提案を作って。一括で頼むと、AIは分類・並べ替え・改善案づくり・優先順位づけを一度にまとめて処理しようとします。件数が多いと、頻度の低い意見に引っ張られた改善案が紛れ込んでいても、こちらには見分けがつきません。
添付のアンケートの自由記述をもとに、改善提案をまとめて。手順は次の通り。1. 回答を内容ごとにいくつかのグループに分ける。2. グループを件数の多い順に並べる。3. 上位のグループごとに具体的な改善案を考える。4. 実施のしやすさと効果の見込みから優先順位をつける。各段階の結果を見出しごとに示して。前の頼み方では見えなかった「途中経過」が、後の頼み方では見出しごとに残ります。3段階目で見当違いの改善案が出ても、原因が1段階目の分類にあったのか、2段階目の並べ方にあったのかがすぐに分かります。一度にまとめて頼むより、見る順番を書き込んだほうが、確認しながら進められるということです。
先に考えさせる、はあとから説明させると別物
「答える前に、要因や制約、選択肢を検討してください」と一言添えるのと、「なぜその答えにしたか、あとで説明してください」と頼むのとでは、似ているようで別のことが起きます。
結論の出し方を比べる
先に結論を出させ、あとから理由を聞きます。結論が先に固まっているため、説明はその結論を正当化する言葉選びになりやすく、弱い理由でも通ってしまうことがあります。
答える前に、考慮すべき要因や制約、比較すべき選択肢を検討させてから結論に進みます。検討の過程が先に出るので、途中でどこが弱いかが見えます。
副産物として、AIがどこで道を外れたかが見えるようになります。結論だけを見て違和感があっても原因を特定しにくいのに対し、検討の過程が先に出ていれば、次にどこを詳しく書けばよいかが分かります。
段階に分けることと先に考えさせることは、組み合わせて使うこともできます。先ほどのアンケート例で言えば、最後の「優先順位をつける」段階で、結論を出す前に判断基準(実施のしやすさ・効果の見込み・かかる予算)を先に挙げさせてから優先順位を付けさせれば、2つの技法を重ねた依頼になります。
会議の議題選定でも、先に考えさせるかどうかで返ってくるものが変わります。
来月の全体会議の議題を3つに絞りたい。候補は〔候補を列挙〕。どの3つが良いか教えてください。これだと、AIがどんな基準で3つを選んだのかが分からないまま、結論だけが返ってきます。納得できない選び方でも、どこに異議を唱えればよいか掴みにくくなります。
来月の全体会議の議題を3つに絞りたい。候補は〔候補を列挙〕。結論を出す前に、それぞれの候補について、緊急度・関係者の広さ・準備にかかる時間の3つの観点で考慮点を挙げてください。そのうえで、どの3つを選ぶか、理由つきで提案してください。前の頼み方では結論だけが手元に残るのに対し、後の頼み方では観点ごとの考慮点が先に並ぶため、どの観点を重く見て3つを選んだのかが見え、納得できない部分があればその観点だけを指摘して直せます。
どちらを使うか迷ったら、仕事の性質で選んでください。作業の順番そのものに価値がある仕事(集める→整理する→まとめる、のような流れ作業)には段階分けを、1つの判断に複数の観点が絡む仕事(何を選ぶか、どちらを優先するか)には先に考えさせるを使うと、狙いが当たりやすくなります。
やってみよう
演習1:手順を言葉にする
自分の仕事の中で、やり方に個人差が出やすい作業を1つ選び、見る順番を3〜4段階で書き出してみてください。
演習2:先に考えさせる一言を足す
最近AIに判断を頼んだ依頼を思い出し、「結論を出す前に、考慮すべき点を挙げてください」という一言を足すとしたら、どこに入れるか考えてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- やり方のばらつきが大きい仕事、専門家の経験に頼ってきた仕事ほど、手順を言葉にする価値が高い
- 「先に考えさせる」と「あとから説明させる」は別物で、前者は検討の過程が先に見える
- 検討の過程が見えると、どこで道を外れたかが分かり、次にどこを詳しく書けばよいか判断しやすい
次のレッスンでは、誰として話してほしいかを指定する、役割と語調の技法を見ていきます。
セルフチェック
1. 手順を言葉にして渡す価値が高い仕事として、本文が挙げていないものはどれですか。
2. 「先に考えさせる」と「あとから説明させる」の違いについて、本文の説明として正しいものはどれですか。
3. アンケートから改善提案をまとめる例で、本文が示した4段階の順番として正しいものはどれですか。