相談する側が何も用意せずに専門家の前に座ると、最初の時間は「そもそも何を作ったか」の説明に消えます。PMDAの相談窓口も、IRB事務局も、顧問弁護士も、「これ大丈夫ですか」という抽象的な問いには答えられません。答えられるのは、目の前に判断できる材料があるときだけです。
ここまでの3回で、医療機器に該当するかどうかの線、倫理審査が要るかどうかの線、利益相反をどう扱うかの線を見てきました。最後に、その判断を自分だけで下さず専門家に持ち込むときの型を扱います。
一番時間を無駄にする相談の仕方
次の聞き方は、相手を困らせます。
- 「このアプリ、法律的に大丈夫ですか」
- 「倫理審査、要りますか」
- 「利益相反、問題ないですよね」
いずれも、判断材料が「はい」「いいえ」で答えられる形になっていません。専門家はあなたの頭の中にある機能の詳細を知りません。持ち込むべきは質問ではなく、判断できる材料です。
三者に共通して持っていくもの
宛先がPMDAでもIRB事務局でも弁護士でも、共通して求められるものが3つあります。
| 持ち物 | 中身 |
|---|---|
| 機能の実体を書いた1枚 | 何を入力し、何を処理し、何を出力するか。画面の見た目ではなく処理の説明 |
| 使う人と使われ方 | 誰が、どんな場面で、何を判断するために使うか |
| 公開・利用時の文言案 | LP・アプリ内の説明文・同意文書など、実際に人の目に触れる文章の下書き |
3つとも「これから作る予定」ではなく「今ある形」で持っていきます。予定は相談の材料になりません。
PMDAへ相談するとき
PMDAの該当性ガイドラインは、判断の根拠を明確にしています。
特定のプログラムが、医薬品医療機器等法の医療機器に該当するか否かは、製造販売業者等による当該製品の表示、説明資料、広告等に基づき、当該プログラムの使用目的及びリスクの程度が医療機器の定義に該当するかにより判断される
つまりPMDAが見るのは、あなたが「診断ツールです」と自称しているかどうかではなく、実際の表示・説明資料・広告に何と書いてあるかです。持っていくものは次の3つです。
- 使用目的を1文で書いたもの(「症状から病気を判定する」と「一般的な情報を整理する」では扱いが変わる)
- 実際の出力画面、または出力の実例
- 想定しているLP・広告文言の下書き
[要確認: 相談区分の正式名称と費用体系は相談内容によって異なるため、最新の情報はPMDA公式サイトで確認する]
IRB事務局へ相談するとき
IRB事務局への相談で最初に聞かれるのは、たいてい「これは研究ですか、それとも業務改善ですか」です。倫理指針は「研究」を、傷病の成因・病態の理解、予防・診断・治療方法の改善やその有効性の検証などを通じて知識を得る活動と定義しています。一方でガイダンスは、以後の診療参考のための診療録参照、症例検討会での報告、自機関の医療評価のための診療実績の集計、医療の質確保のための院内データ集積などを、研究に該当しない業務改善の例として明示しています。
この線引きを自分なりに済ませたうえで持ち込むと、相談が速くなります。
- 研究の目的・方法・対象を3行で書いた骨子
- 「これは研究に該当すると考える、または該当しないと考える」という自己判定と、その根拠
- データをどう匿名化し、どこに保管し、誰がアクセスできるかを書いたメモ
自己判定が間違っていても構いません。根拠が書いてあれば、事務局はどこがずれているかを指摘できます。何も判定せず「分からないので教えてください」とだけ持ち込むと、事務局側が一から聞き取りを始めることになります。
弁護士へ相談するとき
弁護士に持ち込むものは、契約・利益相反・広告表現の3系統に分かれます。
- 相手から受け取った契約書、または自分が出そうとしているひな形
- 資金の出どころと、関係者の役職・兼業を書いたメモ(利益相反の心当たり)
- 公開予定のLP・プレスリリースの文言案
利益相反の開示で問われるのは、経済的な利益があること自体より、それを適切に開示し管理できているかどうかです。開示すべき関係を自分で洗い出したメモがあれば、弁護士は「何を開示すべきか」ではなく「どう開示すべきか」から話を始められます。
具体例(架空)
小児科医Aが、夜間の発熱トリアージを助ける院内向けメモアプリを作ったとします。
避けたい相談は、「このアプリ、そのまま使って大丈夫ですか」とだけ聞いて、画面も文言も見せないやり方です。
望ましい相談は、「入力は体温・年齢・随伴症状。出力は『受診の目安となる一般的な情報』であり『受診すべきかの診断』ではない、という文言にしている。このLPの下書きで薬機法上の問題はあるか」と、実物を見せて聞くやり方です。
後者であれば、相談相手は具体的な文言のどこが危ういかを、その場で指摘できます。
今日のまとめ
- 専門家に聞くのは「大丈夫ですか」ではなく、機能の実体・使われ方・文言案という具体的な材料
- PMDAは表示・説明資料・広告の実際の記述で判断する。自称や意図では判断されない
- IRB事務局には自己判定の根拠まで、弁護士には利益相反の心当たりまで、あらかじめ言語化して持っていく
これで「線を引く」コースは終わりです。作ったものを外に出す前に、自分で判断できない部分を見分け、正しい相手に、正しい材料で相談できるようになりました。
セルフチェック
1. PMDAがプログラムの医療機器該当性を判断する際に、最も重視される材料はどれか
2. 人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針のガイダンスで、業務改善(研究に該当しない)の例として明示されていないものはどれか
3. IRB事務局や弁護士への相談を速く進めるために避けるべき持ち込み方はどれか