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利益相反 開示と設計で管理する

自分が作った道具を、自分の研究で評価するときに生まれる利益相反をどう扱うか。日本医学会のCOI管理ガイドラインをもとに、開示に何を書くかと、設計でその影響を薄める方法を具体的に見る。

  • レッスン 3 / 4
  • 9分

教育目的の教材です。生成AIの出力を診断・治療の判断にそのまま使わないでください。最終判断は医師が行います。

このレッスンで

終わる頃には、次ができるようになります

  • 自分の道具を自分で評価する場面でCOIが生じる理由を説明できる
  • COI開示に何を書くべきかを、ある場合とない場合で判断できる
  • 設計でCOIの影響を薄める方法を複数挙げられる

倫理審査が要る線を引いて研究だと分かった瞬間、もうひとつ線が出てくる。利益相反、COIだ。自分で作った道具を自分の研究で評価するとき、この線は自動的に発生する。

道具を作った人と、評価する人が同じという構造

道具を作った人と、効果を確かめる人が同じであること自体は珍しくない。当直運用シートを自分で作り、自分の病棟で使い、自分で効果を測る。業務改善として閉じている間は問題にならない。

しかし研究として外に出す段になると、構造そのものが利益相反になる。

どちらに転んでも中立性が問われる

良い結果が出れば
自分の道具の評価が上がる
悪い結果が出れば
自分が作ったものの欠点を自分で認めることになる
良い結果も悪い結果も、評価者としての中立性を問われる立場に変わりはない。

金銭のやり取りがないから利益相反ではない、とは言えない。日本医学会のCOI管理ガイドライン2025は、COIを次のように定義している。

医学系研究を実施する研究機関及び研究者は、営利を目的とするかどうかに関係なく組織・団体から当該研究者に提供される経済的な利益(金銭など)やその他の関連する利益(物品、役務、地位や利権など)に関するCOI情報を適切に開示することが第一歩である

「地位や利権」まで含む点が要になる。自分の道具の評価が実績になる、次の予算や採用につながるといった立場上の利益も射程に入る。研究資金がなくても、開発者兼評価者という立場自体がCOIの対象になりうる。

COIがあること自体は問題ではない

ここは誤解しやすい。同ガイドラインが求めるのは、COIをゼロにすることではなく、それを適切に管理し、結果をゆがめていないと第三者が確認できる形で透明性を担保することだ。開示せずに進めることのほうが問題になる。

開示に何を書くか

開示文は、COIの有無で書き方が変わる。ない場合は短く済む。「特定の企業や団体からの資金提供を受けておらず、研究者全員が本研究に関連する利益相反を有しない」という一文で足りる。

自分の道具を自分で評価する場合、この一文だけでは足りないことが多い。開発者と評価者が同一人物である事実を書く必要がある。次は、その架空の記述例だ。

本研究で評価する◯◯(自作のAIツール)は、研究責任者が個人で開発したものである。
研究資金の提供は受けていないが、研究責任者は本ツールの開発者と評価者を兼ねており、
評価結果が本ツールの今後の活用方針に影響しうる。この点を利益相反として開示し、
後述の設計上の措置によってその影響を管理する。

日本医学会は、ICMJEのCOI開示拡大(2019年)を受け、ICMJE DISCLOSURE FORM 2021を全面採用する形でガイドラインを見直している。学会発表や論文投稿では、この様式の項目に沿って開示を埋める場面が増えている。

設計で薄める、という選択肢

開示だけでは、バイアスそのものは消えない。開示は誠実さの表明であって、結果の歪みを直接防ぐものではない。歪みを減らすのは研究の設計側の工夫だ。

設計でCOIの影響を薄める4つの方法

1

評価者を分離する

データ解析を第三者に依頼する、評価だけ別の研究者に任せるなど、役割を分ける

2

評価項目を先に決める

データを見る前に決めておく。研究計画書を先に固める習慣がここでも効く

3

開発データと評価データを分ける

自分の道具に最適化されたデータで評価しない

4

第三者にも評価してもらう

開発に関与していない第三者に同じデータで評価してもらい、結果を比較する

倫理審査の申請実務でも、この考え方に沿った記述が使われる。「データ解析を開発者と利害関係のない第三者が独立して実施する」は、役割分離の宣言そのものだ。4つのうち1つでも実行すれば、開示文に書ける材料になる。

SaMDなら、もう一段重くなる場合がある

それは医療機器かの判定で自分の道具がSaMDに該当すると分かった場合、COIの重みはもう一段増す可能性がある。臨床研究法は、医薬品等製造販売業者又はその特殊関係者から研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究を「特定臨床研究」と定義し、基準の遵守義務を課している。自分の会社の医療機器の効果を自分の会社の資金で確かめる研究は、この定義に近づく構造を持つ。

[要確認: 臨床研究法上の「医薬品等」の範囲に医療機器プログラム(SaMD)が具体的にどこまで含まれるかは、条文の別条項での確認が必要]

該当するかどうかの判断は、自分では下さない。ここは、専門家に相談すべき瞬間のひとつになる。

今日のまとめ

3行で振り返ります。

  • 自分の道具を自分で評価する構造は、金銭のやり取りがなくてもCOIになりうる
  • COIは隠すことが問題であって、開示して設計で影響を薄めれば研究として成立する
  • SaMDに該当する道具の評価は臨床研究法上の重みが増す可能性があり、判断は専門家に委ねる

次のレッスンでは、PMDA相談・IRB事務局・弁護士に、何を持っていけば話が早いかを見ていく。

セルフチェック

1. 日本医学会COI管理ガイドライン2025の定義によれば、COIに該当するのはどれか

2. 自分が開発したAIツールを自分の研究で評価する場合、COIを開示せず進めることの何が問題か

3. 研究の設計でCOIの影響を薄める方法として、このレッスンで挙げていないものはどれか

参考文献

  • 日本医学会利益相反委員会「日本医学会 COI管理ガイドライン2025」(2025年6月) PDF
  • 臨床研究法(平成29年法律第16号、直近改正: 令和7年法律第37号、2026年5月1日施行)第2条 e-Gov法令検索

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