学びのインプットを整えたら、次はアウトプット。
はじめに:発表前夜のスライド地獄から抜け出す

学会発表、症例検討会、院内勉強会。若手医師の時間泥棒といえばスライド作成だろう。前夜に着手して朝まで終わらない。あの地獄の原因は作業量ではない。順番の間違いだ。
デザインから入ると、迷子になりやすい。フォントを選び、色に悩み、配置を調整しているうちに夜が明ける。AIの出番は、デザインの前段階、つまり内容の構造化を一気に片付けるところにある [2]。台本、構成、図解、デザイン。この順番で進める。
ステップ1:台本から始める
意外かもしれないが、スライドを開く前に台本を書く。しゃべる中身が決まっていれば、スライドはその補強装置にすぎない。何を伝えたいか分からないままPowerPointを開くから迷子になる。
台本の下書きはAIに投げればいい。症例を扱う発表なら、患者を特定できる情報(氏名・日付・施設名、画像の中の文字など)は、渡す前に外しておく。
私は研修医2年目です。来週、院内勉強会で15分の発表をします。
テーマは「川崎病の急性期治療の最新動向」です。
聴衆は他科の研修医と看護師で、医学的知識のレベルはまちまちです。
この条件で、15分の発表台本(約4000字)を書いてください。
【含めてほしい要素】
- 導入のフック(聴衆の興味を掴む話)
- 川崎病の基本(30秒で済むレベル)
- 急性期治療の標準(IVIG+アスピリン)
- 最新トピック(IVIG不応例への第二選択)
- 自分が日々の診療で感じる疑問
- 締めの一言
返ってくる台本はそのまま使えるレベルではない。だが発表の骨格が見える。ゼロから書くより、たたき台を直すほうが手早く進む(筆者の経験)。

ステップ2:台本をスライド構成に変換する
台本が固まったら、そのままAIに渡す。
スライド全体のフローが表で返ってくる。導入が長い、山場が弱い、そういった構造の問題がこの段階で見える。対話で調整すればいい。デザインに触るのは、構造が固まった後だ。
ステップ3:図解をAIで生成する

ここは図で見せたい、と感じた箇所はAIに任せてしまう。言葉だけより、言葉に合った図を添えたほうが学びやすいことは、学習の研究で繰り返し示されている [1]。
医療スライドで使う図解は、だいたい以下の4種類に収まる。
- フローチャート:診断・治療の流れ
- 比較表:薬剤の用法用量・副作用の比較
- タイムライン:疾患の経過、治療スケジュール
- 概念図:病態生理を矢印と箱で示す
ChatGPTの画像生成(ChatGPT Images)[3] や、Geminiの画像生成(Nano Banana)[4] で作れる。文字の崩れや医学的な誤りが混じることがあるので、出力は必ず目で確かめる。完璧な図を目指す必要はない。中身を確かめたうえでなら、手早く作った図でも、文字だけのスライドより伝わりやすいことが多い(筆者の経験)。

比較
図解にAIを使うときの2つのモード
モード1:ゼロから生成。医学的な概念を図にしてもらう(例:気管支喘息の病態を、気道狭窄・粘液・炎症の3要素で示すフローチャート)
モード2:ラフの清書。手書きのスケッチを写真で渡して、きれいに作り直してもらう
→ モード2のほうが意図通りに仕上がる。構図は自分で決め、清書だけAIに任せる。この分業が、いちばん手早く仕上がる(筆者の経験)。
ステップ4:デザインは最後、テンプレートで済ませる

デザインに凝る時間は、台本と構成に回したほうが報われる。
デザインは構造の質を上回らない。
構造の質を超えることはない。気に入ったテンプレートを1つ持っておけば、あとは流し込むだけでいい。
学会発表は白黒とフォント1種類、院内勉強会は少し色を使い、市民向け講演は写真やイラストを増やす。
PowerPoint、Keynote、Google Slidesどれにもテンプレートはある。一度決めたら使い回す。毎回選び直すのは時間の浪費だ。
スライドそのものをAIに作らせる道具も増えた。Gemini Notebook(旧 NotebookLM)は取り込んだ資料からスライドを作り、PPTXで書き出せる [5]。GensparkにもAIスライドの機能がある。使うときも、構成(ステップ2)を自分で確かめてから渡し、出てきたファイルは数字と用語を見直してから使う。
参考文献
- Mayer RE. Multimedia Learning. 2nd ed. Cambridge University Press; 2009.(マルチメディア学習の研究をまとめた教科書。言葉だけより、言葉に図を添えたほうが学びやすいこと〔マルチメディアの原則〕などを、実験にもとづいて示している)
- Doumont JL. Trees, Maps, and Theorems: Effective Communication for Rational Minds. Principiae; 2009.(科学者や技術者に向けて、伝わる文書・発表・図の作り方を説いた本。本章の「中身の構造が先、デザインは後」という順序は、この本の考え方を参考にした)
- OpenAI. Introducing ChatGPT Images 2.5. 2026年9月8日. https://openai.com/index/introducing-chatgpt-images-2-5/
- Google. Nano Banana 2: Combining Pro capabilities with lightning-fast speed. 2026年2月26日(Geminiアプリの標準の画像生成が Nano Banana 2 になった。Nano Banana Pro は有料プランで選べる). https://blog.google/innovation-and-ai/technology/ai/nano-banana-2/
- Google Workspace Updates. New ways to customize and interact with your content in NotebookLM. 2026年3月20日(生成したスライド資料を PDF に加えて PPTX で書き出せるようになった). https://workspaceupdates.googleblog.com/2026/03/new-ways-to-customize-and-interact-with-your-content-in-NotebookLM.html
セルフチェック
1. AIを使ったスライド作成の最適な順序として正しいものはどれか?
2. スライドのデザインに対する正しい考え方はどれか?
明日のアクション
次回の発表予定が決まっていたら、まず台本だけAIに書かせてみてほしい。スライドに着手する前に台本ができている、というだけで気持ちが軽くなる。発表の予定がなければ、過去にやった発表のテーマで練習してみるのもいい。