前のレッスンまで、研修をどう設計し、どう1回回すかを扱ってきました。最後のレッスンでは、教える内容そのもの、つまり自分の専門分野でAIが何を変えているかを考えます。
研修を教える人は、たいてい自分の専門分野を持っています。経理、人事、営業、看護、教育、法務。AIの使い方を教えるとき、一般的な4Dフレームワークをそのまま説明するだけでなく、自分の分野に当てはめて具体化できると、研修の説得力が大きく変わります。
3つの問い
自分の分野を整理するには、3つの問いが手がかりになります。
自分の分野を整理する3つの問い
何が自動化されるか
これまで人が手を動かしていた作業のうち、AIに任せられる部分はどこか
人とAIのどこが組み合わさるか
AIが下書きを作り、人が判断する。人が方針を決め、AIが実行する。組み合わせ方はどうなるか
何に責任を持つか
AIの関与があっても、最終的に人が引き受けるべき判断や説明責任はどこにあるか
この3つは、専門分野の外にいる人には答えられません。その分野を実際に担っている人だけが、実感を持って答えられる問いです。だからこそ、研修を設計する側が、自分の言葉でこの3つを一度整理しておく価値があります。
分野ごとに、自動化の濃淡は違う
同じ「AIに任せる」でも、分野によって任せやすい部分と任せにくい部分の境目はまったく違います。
定型作業が多い分野と、人の判断が重い分野
経理の伝票入力や、議事録の要約のように、手順が決まっている作業は自動化の余地が大きい。一方で、数字の異常に気づく、慣習を踏まえた判断をするといった部分は人に残る。
看護や教育のように、相手の状態を見て対応を変える仕事は、下書きや情報整理はAIに任せられても、最終的な判断と関わりそのものは人に残る比重が大きい。
自分の分野がどちらに近いかを見極めておくと、研修で「これはAIに任せてよい」「これは人が最後まで持つべき」という線引きを、具体例とともに説明できるようになります。
この線引きは、研修のたびに更新する
3つの問いへの答えは、一度書いたら終わりではありません。AIの使い方や、自分の分野での実践は変わり続けます。研修を1回開くたびに、参加者から出てきた実例や疑問をもとに、3つの問いへの答えを見直す機会にできます。
補足
研修そのものが情報収集の場になる
研修中に参加者から出てくる「これはAIに任せていいのか迷う」という質問は、その分野の線引きがまだ固まっていない場所を教えてくれます。次の研修の準備は、こうした質問を集めるところから始まります。
具体例:経理を教える講師の場合
経理部門でAI活用の研修を担当する講師を例に考えてみます。
何が自動化されるかでは、伝票の仕訳入力や、定型的な月次レポートの下書き作成が挙げられます。人とAIのどこが組み合わさるかでは、AIが仕訳案や数字の異常な候補を提示し、人がそれを最終確認して承認する、という分担が現実的です。何に責任を持つかでは、AIが提示した仕訳や数字をそのまま承認せず、最終的な数字の正しさを本人が説明できる状態にしておく責任が残ります。
この3つの答えを研修のスライド1枚に差し込むだけで、参加者は自分の仕事のどこに当てはめればいいかを具体的にイメージできるようになります。抽象的な4Dの説明だけで終わる研修と、この1枚があるかないかとでは、研修後に実際に試してもらえる確率が変わります。
やってみよう
演習1:自分の分野で3つの問いに答える
自分の専門分野について、何が自動化されるか・人とAIのどこが組み合わさるか・何に責任を持つかの3つに、それぞれ具体的な業務名を挙げて答えてみてください。
演習2:研修の1枚にする
演習1で書いた内容を、研修で見せる1枚のスライドや配布資料の形にまとめてみてください。専門用語を使わず、参加者が自分の仕事に置き換えて読める言葉を選ぶのがこつです。
このコースのまとめ
7回を通じて、教え方の入り口の選び方、教える相手の説明書づくり、演習の設計、評価の組み立て、研修の進行、そして自分の分野への応用まで扱いました。どの回も、一度作った教材や説明書を使い回せる設計にしてあります。最初の研修を実際に企画するときは、レッスン2の説明書づくりから、もう一度手を動かしてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 自分の分野を、何が自動化されるか・人とAIのどこが組み合わさるか・何に責任を持つかの3つの問いで整理する
- 分野によって自動化の余地の大きさは違い、その分野を担っている人にしか答えられない
- 研修のたびに参加者の実例や疑問を集め、3つの問いへの答えを更新し続ける
セルフチェック
1. 自分の分野を整理する3つの問いとして、本文が挙げていないものはどれですか。
2. 分野によって自動化の余地に違いがあることについて、本文が述べているものはどれですか。
3. 3つの問いへの答えをどう扱うべきだと、本文は述べていますか。