前のレッスンで、道具のログはQIか観察研究か症例報告かの器になると分かりました。次にやることは一つ、データを集め始める前に計画書を書きます。
順番はここでは絶対です。先にログを集めてから「これで何が言えるか」を考えると、差が出た変数だけを拾い、出なかった変数は「今回は評価しなかった」ことにしてしまいます。計画書を先に書くのは、この誘惑から自分を守る仕組みです。
なぜ先に固定するのか
研究計画書は、データを見る前の自分と、見た後の自分を切り離すための文書です。
問い
何を明らかにしたいか
デザイン
QI・観察研究・症例報告のどれで見るか
アウトカム
何をもって結果とするか
解析計画
その結果をどう扱うか
この順で埋め、埋め終わったら日付を入れて動かしません。あとから都合よく書き換えた計画書は、計画書としての役目を果たしません。
書く量は多くなくて構いません。自分の道具を使った小さな研究なら、A4で1〜2枚のメモで十分です。
問いを一文にする
まず、明らかにしたいことを一文にします。「このツールは役に立っているか」では、問いとして緩すぎます。何を、誰に対して、いつ測るかまで入れて初めて、検証できる問いになります。
たとえば、外来の問診下書きをAIで作るツールを3か月使ったとします(架空の例です)。緩い問いは「このツールで診療が楽になったか」。検証できる問いにすると「このツールを使った外来と使わなかった外来で、問診票の記載完了までの時間に差があるか」になります。
デザインを選ぶ
前のレッスンで見た3つの型は、それぞれ集めるべきデータが違います。
デザインごとに集めるデータ
QI
指標1〜2つ、導入前後の推移
観察研究
比較する2群を先に決める
症例報告
比較・統計解析は基本的に不要
デザインを取り違えると、後で挽回できません。比較群のデータを記録しないままQIのつもりで進め、あとから観察研究として発表しようとしても、比較対象がない以上どうにもなりません。デザインは問いを決めた直後に確定させます。
アウトカムを先に決める
主要アウトカム(primary outcome)を1つ決めます。副次アウトカム(secondary outcome)は、あっても2〜3個までに絞ります。測定するタイミング(例: 導入から4週後)と、測る方法(例: 電子カルテのタイムスタンプ差)も、この段階で言葉にしておきます。
やってはいけないのは、データを見てから「この変数も測っておけばよかった」と気づき、それを主要アウトカムに格上げすることです。これをやると、その研究は「差が出た指標を後から主要アウトカムと呼んだ」研究になります。副次的な発見として書くのは構いません。しかし主要アウトカムとして扱うなら、次の研究として計画をもう一度書き直します。
解析計画を先に書く
集めたデータをどう扱うかも、データを見る前に決めます。
デザインごとの解析計画
QI
ラン・チャートの読み方
観察研究
2群の比較に使う統計手法
症例報告
解析計画は基本的に不要
どの手法を使うかの判断は、推測統計の基礎で扱った、データの型に応じた検定の選び方がそのまま使えます。
小規模な研究では、検出力計算(必要な症例数の見積もり)まで厳密にやる必要はありません。ただし「何例集めたら区切りをつけるか」だけは先に決めます。決めずに始めると、望む結果が出るまで集め続けてしまいます。
AIに書かせてよい部分、自分で決める部分
ここまでの4つを埋める作業は、AIに手伝わせて構いません。ただし線引きが要ります。
| AIに任せてよい | 自分で決めて動かさない |
|---|---|
| 問いの言い回しの整理、選択肢の提示 | 最終的にどの問いを選ぶか |
| デザインの一般的な長所短所の説明 | 自分の道具・自分のデータに合うデザインの決定 |
| アウトカムの候補出し、測定方法の文献的な相場観 | 主要アウトカムを1つに絞る決定 |
| 解析手法の候補出しと、その根拠の説明 | 決めた解析計画を後から変えないという決定 |
| 計画書の文章としての下書き、表現の整理 | 計画書を「これで確定」とする日付の決定 |
AIは、候補を広げ、専門用語を整理し、下書きを速くする役に立ちます。しかし「これに決める」「これで固定する」という決定そのものは、AIに預けられません。AIには、あなたのデータの臨床的な文脈も、この研究にかけられる厳密さも分かりません。決めるのは、道具を作った本人です。
セルフチェック
1. 研究計画書をデータ収集の前に固定しておく、最大の理由は何ですか
2. QIとして進めるつもりだった取り組みを、後から観察研究として発表したい場合に起きる典型的な問題は何ですか
3. AIに任せてよい作業と、自分で決めて動かさない事柄の関係として正しいものはどれですか