医療現場で生成AIを使うとき、最初に確認すべきなのはプロンプトの書き方ではありません。「その情報を、そのサービスへ入力してよいか」です。
診療録、調剤情報、看護記録、検査情報、受診した事実などは、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当します。職種にかかわらず、業務で扱う人には慎重な取扱いが求められます。
まず守る基本線
施設が承認していない生成AIには、実患者の情報を入力しません。
氏名、患者ID、住所を消しても、それだけで安全とは限りません。年齢、日付、診療科、希少な病名、詳しい経過、地域などの組み合わせから、本人が推測されることがあります。法律上の「匿名加工情報」は、単に名前を削除したデータと同じではありません。

名前の札を外しても、年齢、日付、場所、経過などが組み合わさると、同じ人物像へ戻ることがあります。
入力前の6項目
1. 利用目的
- 何のためにAIを使うのか
- AIを使わず、テンプレートや既存機能で解決できないか
- 出力を誰が確認するのか
2. 施設の承認
- 施設の利用規程や生成AIポリシーで認められているか
- 個人アカウントではなく、施設が契約・管理する環境か
- 情報管理、個人情報保護、医療安全の担当部署が把握しているか
3. 入力する情報
- 実患者の情報が含まれるか
- 他の情報と組み合わせると本人を推測できないか
- 必要以上の情報を入力していないか
4. サービス側の取扱い
- 入力内容が保存されるか
- モデル改善や学習に利用されるか
- データを扱う事業者と委託先は誰か
- データの保存場所や国外移転はどうなっているか
- 保存期間、削除方法、監査ログはあるか
5. 出力後の管理
- 出力をどこへ保存するか
- 誰が閲覧できるか
- 電子カルテなどへ転記する前に誰が確認するか
- 誤情報や過剰な情報が残っていないか
6. 問題発生時の対応
- 誤入力や漏えいが疑われるときの報告先
- サービス上のデータ削除手順
- 患者や関係者への対応を誰が判断するか
よくある誤解
「名前を消せば入力してよい」
名前を消すことは一つの対策ですが、それだけで十分とは限りません。個人を推測できる情報の組み合わせ、利用目的、サービスの契約条件、施設規程を含めて判断します。
「有料版なら患者情報を入力してよい」
料金プランだけでは判断できません。学習利用の有無、保存、委託先、国外移転、アクセス管理、削除、監査といった条件を施設として確認する必要があります。
「院内だけで使うなら自由に使える」
院内利用でも、取得目的、安全管理、アクセス権限、委託、研究利用などの確認が必要です。研究、診療、業務改善では適用される手続きが異なる場合があります。
安全に練習する
個人で生成AIを試す段階では、次の題材を使います。
- 自分で作った架空事例
- 個人情報を含まない院内案内の下書き
- 公開されている行政資料や論文
- ダミーの会議メモや申し送り
実患者情報を扱う必要が出たら、個人判断で範囲を広げず、施設の承認された環境と手順を確認します。
参考資料
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 個人情報保護委員会「診療又は調剤に関する情報は、全て要配慮個人情報に該当しますか」
- 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
- 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」
本記事は一般的な情報提供であり、個別の法的判断を示すものではありません。具体的な運用は、施設の個人情報保護・情報管理・法務担当者へ確認してください。
