Claude Codeの作者Boris Chernyは、AIエージェントの導入が進む過程を「Steps of AI Adoption」という5段階の表にまとめました。
この表の特徴は、導入度を「AIを何回使ったか」では測っていないことです。人の役割、同時に動くエージェント数、仕事の進め方、次に詰まる場所、安全に進むための仕組みを一枚に並べています。
まずは全体像を眺めてから、各ステップの原文と日本語の解説を順に見ていきましょう。

出典: Boris Cherny「Steps of AI Adoption」原投稿(2026年7月公開)
視点
最初に押さえたい読み方
エージェント数は目標ではなく、仕組みが整った結果です。先に体数を増やすのではなく、いまの段階で詰まっている場所を外し、安全網を一つずつ作る。この順序が原図の中心にあります。
5段階を先に眺める
- Gated(0体): 使える状態を整える
- Assisted(約1体): AIと並んで作業する
- Parallel(約10体): 複数の仕事を指揮する
- Supervised autonomy(約100体): 仕組みと例外を監督する
- AI-native(約1,000体以上): 意図を示し、例外に対応する

段階が進むほど、人は「一つずつ作る」ことから離れ、複数の仕事、仕組み、最後は意図と例外を扱うようになります。
ここでいう「エージェント」は、質問に答えるだけのチャットではありません。目標を受け取り、ファイルや道具を使い、複数の手順を進め、結果を確かめるところまで担当するAIを指します。
ステップ0: Gated

どんな状態か
AIを仕事で使いたくても、組織の承認や環境が整っていません。利用できるモデルが限られている、社内データへ安全に接続できない、作ったものを公開する承認経路がない、といった状態です。
この段階の問題は、個人の使い方ではありません。入口そのものが閉じています。
人の役割
まず「安全に試せる小さな入口」を作ります。誰が使えるか、何を入力してよいか、費用をどう管理するか、成果物をどこで確認するかを決めます。
何がボトルネックになるか
- 既存のセキュリティ審査や購買手続き
- 成果よりも利用量や単価だけで判断する議論
- 技術を理解する人が意思決定に参加していないこと
必要なガードレール
利用者の権限管理、組織単位の予算上限、データの取り扱いルール、既存の承認経路に沿った導入です。
次へ進む条件
全社導入を急ぐ必要はありません。承認された環境で、個人情報や機密情報を使わない小さな業務を一つ試せれば、ステップ1への入口になります。
ステップ1: Assisted

どんな状態か
人とAIが1対1で並んで働きます。AIが下書きやコードを作り、人がほぼすべてを確認します。午後いっぱいかかっていた作業が、会議と会議の間に終わるようになる段階です。
ただし、作業中はAIの画面を見続けがちです。出力を信頼できず、一行ずつ確認するため、人の注意力が上限になります。
人の役割
AIへ指示を出し、途中経過を見て、最後に成果物を確認します。感覚としては「速い助手」と一緒に働く状態です。
何がボトルネックになるか
- 出力をすべて自分で読まないと不安になること
- AIが作業している間、次の仕事へ移れないこと
- 正しさを確かめる方法が人の目視だけになっていること
必要なガードレール
実行前に方針を確認する、変更範囲を限定する、テストやチェックリストを用意する、費用の上限を決める、といった仕組みです。
次へ進む条件
「AIをもっと速くする」ことではありません。AIが自分の仕事を確かめられるようにします。コードならテスト、型チェック、lint、ビルド、実画面の確認です。文書なら出典確認、禁止事項、完成条件のチェックリストが相当します。
視点
最初の大きな転換点
ステップ1から2へ進む鍵は、見る量を増やすことではなく、確かめ方を渡すことです。人は作業の全過程ではなく、検証を通った結果を確認できるようになります。
ステップ2: Parallel

どんな状態か
一人が複数のエージェントへ別々の仕事を任せます。原図の目安は約10体です。それぞれが分離された作業場所で進み、テストやビルドを終えてから結果を返します。
人が確認する単位も変わります。AIが入力した一文字ずつではなく、「目的を満たした差分か」「検証を通ったか」を見ます。
人の役割
オーケストレーター、つまり指揮者です。仕事を分け、担当を決め、衝突しないようにし、完成した結果を統合します。
何がボトルネックになるか
- 複数の成果物を確認するレビュー時間
- 仕事の分け方が曖昧で、エージェント同士の変更が衝突すること
- 同時進行の状況を頭だけで管理すること
必要なガードレール
作業場所の分離、担当ファイルの明示、自動テスト、自動レビュー、変更前後の差分確認、最終的な人の承認です。人が書いたものとAIが書いたものに、同じ品質基準を適用します。
次へ進む条件
仕事を一回限りの指示ではなく、繰り返せる手順へ変えます。必要な文脈をAIが自分で取得でき、失敗したときの停止条件と報告先が決まっていることが必要です。
ステップ3: Supervised autonomy

どんな状態か
定型的な保守や点検が、頼まれる前からバックグラウンドで動きます。原図では約100体が目安です。人が一体ずつ起動するのではなく、エージェントが必要に応じて別のエージェントへ仕事を分けます。
ここで問いが変わります。「すべてのコードを読んだか」ではなく、「AIが判断するために足りなかった文脈は何か」「次は同じ失敗を防げるか」を考えます。
人の役割
管理職を管理する立場です。一つひとつの作業ではなく、仕事を回すループ、品質基準、例外処理を監督します。
何がボトルネックになるか
- ループ全体を信頼できるか
- エージェントの判断待ちではなく、人の承認待ちが増えること
- 規模が大きくなったときの費用と品質の管理
必要なガードレール
エージェントの隔離、基準を記した指示書、自動コードレビューとセキュリティレビュー、費用の監視、失敗時の停止、例外だけを人へ上げる仕組みです。
次へ進む条件
対象領域ごとに、繰り返し可能な自動化を設計します。たとえば依存関係の更新、定期点検、大規模な移行、フィードバックの分類などです。何でも自動化するのではなく、品質を測れて、失敗時に戻せる仕事から広げます。
注意
この段階で起きやすい失敗
ループへの信頼ができる前に、エージェント数だけを増やすことです。検証できない仕事を100体へ配れば、速くなるのは完成ではなく混乱です。
ステップ4: AI-native

どんな状態か
仕事のループが閉じ、エージェントの多くをAIが起動します。原図の目安は約1,000体以上です。人はすべての作業を追いかけず、目標と制約を示し、例外が起きたときに判断します。
四半期単位だった大規模な移行が、起動して経過を監視するワークフローへ変わる。原図では、そのような変化が例として示されています。
人の役割
意図で舵を取ります。「どのような状態を実現したいか」「何をしてはいけないか」「どの条件で人へ戻すか」を定めます。
何がボトルネックになるか
- 大規模に自動化する価値がある仕事を見つけること
- 仕事の種類に合った安全策を設定すること
- 例外を見落とさず、通常時の通知を増やしすぎないこと
必要なガードレール
仕事ごとの費用上限、モデルの使い分け、監査ログ、例外時の人への引き継ぎ、公開や本番反映など不可逆な操作の承認です。
この段階の本質
1,000体を動かすこと自体に価値があるわけではありません。人が逐一操作しなくても、意図と制約に沿って仕事が進み、異常だけを人が扱えることが本質です。
自分の現在地を見つける
使っている製品名ではなく、いま一番時間を奪っているものを見ます。
- 承認されず業務で使えないなら、現在地はステップ0です。安全に試せる入口を整えます。
- AIの出力をすべて読んでいるなら、現在地はステップ1です。自己検証の方法を整えます。
- 複数の結果のレビューが追いつかないなら、現在地はステップ2です。分業、統合、レビューの仕組みを整えます。
- 自律ループをまだ信頼できないなら、現在地はステップ3です。停止条件、監視、例外処理を整えます。
- 自動化する仕事の選定が難しいなら、現在地はステップ4です。価値とリスクによる優先順位を整えます。
同じ組織でも、仕事によって段階は変わります。文書作成はステップ2でも、本番デプロイはステップ1に留める、といった設計は自然です。危険度が高い仕事ほど、人の承認を残します。
原図から持ち帰りたい3つのこと
- エージェント数は成熟度の原因ではなく結果である
- 次の段階へ進むには、いまのボトルネックとガードレールをセットで扱う
- 人の役割は作業者から、指揮者、監督者、意図を示す人へ移る
最初にやることは、自分が何体を動かせるか数えることではありません。いま最も時間を奪っている詰まりを一つ選び、それを安全に外す仕組みを作ることです。
次に読む
参考資料
- Boris Cherny「Steps of AI Adoption」原投稿
- Boris Cherny「Steps of AI Adoption」公開アーティファクト
- explainX.aiによる原図の項目別解説
原図の内容と、この記事で加えた日本語の例や読み方は区別しています。原図の表現を確認したい場合は、参考資料の原投稿をご覧ください。
