状況
当直が終わると、次の担当医への申し送りが待っている。担当5〜10人分を口頭でひとりずつ報告するのだが、疲弊した状態で「どこまで話したか」「この人の If-Then 条件を伝えたか」を管理するのが意外と難しい。
自分が研修医のころは、申し送りの基準が人によってバらばらで、「熱があります」で終わる申し送りも珍しくなかった。受け手も「で、何をしたらいいの?」と思いながら聞いていた記憶がある。
当直中に書き留めたメモは断片的な箇条書きで残っている。これを I-PASS フレームワーク(Illness severity / Patient summary / Action list / Situation awareness / Synthesis) の型に整形する作業だけをAIに渡せばいい、というのがこの使い方の出発点。
やったこと
Step 1: 患者ごとの申し送り書を生成する
当直中のメモを以下のプロンプトに当てはめて Claude に渡す。患者氏名・IDは伏字化してから送信する。
以下の患者情報から、当直交代用のI-PASS申し送りを作成してください。
# 患者情報
- 匿名化ID: [ID]
- 年齢/性別: [年齢/性別]
- 入院日: [入院日](入院[X]日目)
- 主病名: [診断名]
- 本日の経過: [今日の主要イベント、検査結果、治療変更]
- 現在のバイタル: [直近のバイタル]
- 現在の治療: [投薬内容、酸素投与量、ドレーンなど]
- 今後の方針: [明日以降の予定]
# I-PASS形式で出力
## I(Illness severity)
「安定」「要注意」「不安定」のいずれかを選び、根拠を1文で。
## P(Patient summary)
One-liner(1文)+ 入院からの経過要約(3文以内)
## A(Action list)
当直中に必要なアクションを時間順に。各項目に:
- いつ(時刻または条件)
- 何を(具体的な行動)
- 判断基準(正常/異常の閾値)
## S(Situation awareness)
「もし○○が起きたら△△する」の条件分岐を2-3個。
具体的な数値基準を含める。
## 連絡先
問題があった場合の連絡先と連絡のタイミング
返ってきた出力を眺めながら、I(重症度)の判定だけは自分で上書きする。AIはメモの文言から推定するが、「今日の午前中に比べてこの子は明らかに顔色が悪くなった」という感覚はメモに書き切れていない。重症度は医師の判断で確定させる。
Step 2: 複数患者の優先順位を並べ替える
担当患者が多い当直では、要注意・不安定から順に申し送るために並べ替えを一度かける。
以下の申し送り患者リストを、当直者が注意を払うべき優先順位で並べ替えてください。
[患者ごとのI-PASSのI(重症度)とP(サマリー)のみ列挙]
# 並べ替え基準
1. 不安定 > 要注意 > 安定
2. 同じ重症度なら、夜間にアクションが必要な患者を先に
3. 「もし〜なら」の条件分岐がある患者を先に
# 出力
優先順位リスト(番号付き)と、特に要注意の患者には理由を1文添えて。
これで口頭申し送りの進行順が決まる。安定患者は「残り〇人は安定で、特別なアクションはありません」と一括報告する。
Step 3: 申し送りシートを印刷・渡す
生成した申し送りシートを、当直者に紙またはデジタルで渡す。口頭申し送りと併用する。シートだけ渡して終わりにはしない。
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当直申し送りシート [日付] [引継ぎ者] → [受け手]
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【要注意患者】
■ [患者ID] [年齢/性別] [主病名] Day[X]
重症度: 要注意(理由: ○○)
概要: [One-liner + 経過1文]
Action:
□ [時刻] [アクション] → 基準: [閾値]
□ [時刻] [アクション] → 基準: [閾値]
If-Then:
→ [条件] → [対応]
→ [条件] → [対応]
連絡先: [主治医/上級医の連絡先]
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【安定患者】(特別なアクションなし)
■ [患者ID] [年齢/性別] [主病名] Day[X] - 安定
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効いたところ
- 1患者あたりの申し送り書作成が体感で 15 分 → 5 分以下に
- Action list の時刻指定と閾値(「38.5度以上なら」等)が毎回抜けずに入るようになった
- 安定患者の報告を一括にできるので、口頭申し送り全体が 30 分台に収まるようになった
- シートが残るため「言った/聞いてない」の齟齬がなくなった
限界・気をつけていること
AIに渡せる情報はテキストのメモだけで、「この子は今朝より明らかに顔色が悪い」という感覚情報は含まれない。
- 重症度判定: I(Illness severity)のAI出力はあくまで参考。最終判定は自分でする
- 急変リスクの感覚: メモに書き忘れた「なんか嫌な感じ」は申し送りに出てこない。言葉で補うか、口頭で強調する
- 薬剤・時刻・数値: Action list の投薬時刻、検査値の閾値は必ず原カルテと突合する。AIが「22:00」と書いても、オーダーが「21:00」なら危ない
- 個人情報: 送信前に患者氏名・ID・DOBは伏字化する。これは例外なし
「AIが作った申し送り書を医師が確認する」ではなく、「医師が持っている情報をAIで型に流し込む」という感覚でいる方が安全。
横展開
同じパターンで使える書類は多い。SBAR(Situation/Background/Assessment/Recommendation)形式の他院紹介、術前サマリー、他科コンサルトの要旨作成など、「様式が決まっていてメモ→構造化文書に変換するだけ」の場面ならそのまま転用できる。当直特有の場面を超えて、書類作成の「整形レイヤーだけをAIに担わせる」発想として広く使える。