論文を読み、データを検算し、学会発表の準備をする。研究という仕事には、こうした地味な下調べの時間が積み重なっています。Claudeを文章の下書きに使ったことがある人は多くても、研究用のデータベースに直接つながる仕組みがあることは、意外と知られていません。
この仕組みは「コネクタ」と呼ばれます。使い方を覚える前に、まず何が使えて何が使えないかの地図を作っておきます。ここを飛ばすと、米国の医療保険制度に紐づいた機能を、日本の研究にそのまま使おうとしてつまずくことになります。
コネクタで何が変わるか
コネクタを何も足さなくても、Claudeは学習した知識をもとに文献の内容や研究手法について答えられます。ただし、それは「知っていることを思い出して答えている」状態で、いま実際にPubMedにその論文があるか、正確な巻号やDOIはどうかまでは保証されません。
コネクタをつなぐと、Claudeは会話の途中で該当のデータベースに直接アクセスし、そのとき取得した情報をもとに答えます。検索して返ってきた実物のデータを見ながら答えるので、記憶に頼った答えより裏付けが強くなります。名前を出して頼むか、何をしたいかを伝えれば、Claudeが必要なコネクタを自分で選んで呼び出すこともあります。
この違いは小さく見えて、研究の下調べでは効いてきます。存在しない論文を、いかにも実在するかのように答えてしまう現象は、Claudeに限らずどの生成AIにも起こりえます。コネクタを介して実際のデータベースを検索させれば、少なくとも「検索した結果、その論文が見つかったか」までは確かめられます。ただし、検索結果の解釈や要約に誤りが混じる可能性は残るため、確かめる手間そのものが要らなくなるわけではありません。
日本でもそのまま使えるコネクタ
研究目的で使えるコネクタのうち、次のものは国の制度に依存せず、日本の研究者・大学院生にもそのまま使えます。
生物医学系の論文データベース。検索、引用の相互照合、一部は全文取得ができる。全Claudeユーザーに無料で、患者の個人情報にはアクセスしない仕組みになっている
査読前論文(プレプリント)の検索と、正式な論文として出版されたかどうかの追跡ができる
臨床試験の登録情報データベース。適格基準やエンドポイントの設計を調べられる。管轄は米国法に基づくが、登録されている試験自体は世界各国のものを含む
生物活性化合物や治療標的に関するデータベース。創薬・薬理学寄りの研究に向く
このうちPubMedは特に確かめやすい例です。個人の健康情報や患者データにはアクセスできず、公開されている研究論文だけを取得する仕組みになっていると、公式のドキュメントに明記されています。
米国の制度に固有のコネクタ
一方で、次のコネクタは米国の医療保険・診療報酬の制度そのものに紐づいています。名前だけ見ると医療全般に使えそうですが、日本の診療報酬や国民皆保険の制度にはそのまま使えません。
注意
日本ではそのまま使えない
CMS Coverage Database(米国の公的医療保険Medicareの適用可否データベース)、米国版ICD-10(診断・処置コード)、NPI Registry(米国の医療提供者登録番号)は、事前承認の確認・医療コーディング・保険金請求といった、米国の保険請求業務のために作られたコネクタです。日本の診療報酬点数表・医籍登録・国民皆保険の制度とは別物として扱ってください。
米国版ICD-10は、日本で使われているICD-10(厚生労働省が採用しているもの)とは体系も改訂のタイミングも異なります。同じ「ICD-10」という名前がついていても、中身は別物だと覚えておくと、混同を避けられます。これらのコネクタは、2026年1月にAnthropicが発表した「Claude for Healthcare」の一部として整備されたもので、想定している利用者も保険者・医療機関の請求担当者です。研究者が論文を探す用途とは、そもそも設計の出発点が違います。
使い方の基本
コネクタは、会話を始める前に一度つないでおく必要があります。
設定からコネクタを開く
個人アカウントなら設定のコネクタ一覧から探す
使いたいコネクタを選んで接続する
PubMedなど。初回は接続の許可を求められる
会話でコネクタ名か目的を伝える
「PubMedで探して」でも、目的を書くだけでも呼び出される
呼び出しごとの確認に答える
自分で追加したコネクタは、使うたびに一度確認が入ることがある
所属先がチームやエンタープライズ契約の場合は、この手前で管理者が組織としてコネクタを使えるようにしておく必要があります。使いたいコネクタが一覧に出てこないときは、まず所属先の管理者に確認してください。
やってみよう
演習1:自分の研究に効くコネクタを3つ選ぶ
いま取り組んでいる、あるいはこれから始めたい研究テーマを1つ思い浮かべてください。上のコネクタ一覧から、役に立ちそうなものを3つ選び、それぞれ「なぜ役に立ちそうか」を1文で書いてみましょう。
演習2:自分の環境を確認する
個人アカウントか、所属先のチーム・エンタープライズ契約かを確認してください。後者の場合は、コネクタを追加できる権限が自分にあるか、無い場合は誰に頼めばよいかを調べておきましょう。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- コネクタは、記憶に頼った答えでなく、実際のデータベースを見た答えをClaudeから引き出す仕組み
- PubMed・bioRxiv/medRxiv・ClinicalTrials.gov・ChEMBL・Open Targetsは、国の制度に依存せず日本でもそのまま使える
- CMS・米国版ICD-10・NPIは米国の保険請求制度に紐づいており、日本の研究にはそのまま使えない
次のレッスンでは、PubMedコネクタを使って、実際に自分の文献レビューの計画を立てていきます。
セルフチェック
1. コネクタをつないだ状態でClaudeに調べ物を頼んだとき、何が変わりますか。
2. 次のうち、日本の研究者・大学院生にもそのまま使えるコネクタはどれですか。
3. CMS・米国版ICD-10・NPI Registryに共通する性質として正しいものはどれですか。