第6回 業務の言語化 標準化文化と接続

このレッスンが終わる頃には、こうなります。
- 「なんとなくやっている」業務を、AIに渡せる形で書き直せる
- 言語化のための4つの問いを使えるようになる
- 医療の標準化文化がなぜAI委任の準備になるかを説明できる
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「業務を言語化できないと、自動化できない」
いけともというエンジニアが言う言葉です。 Goodpatchという会社が200人全社でClaude Codeを導入したとき、最初に取り組んだのも「業務の書き出し」でした。
AIに仕事を任せる前に、まず自分の仕事を言葉にする。 この順番が、成否を分けます。
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言語化できない業務は、任せられない
「いつもの感じで」は、AIに通じません。
電話対応のベテランスタッフが退職するとき、「いつもの感じでやって」と引き継いでも、新しいスタッフには伝わらない。 マニュアルを作って、初めて引き継げます。
AI委任も、全く同じです。
問題は、「いつもの感じ」で長年やってきた業務ほど、言語化が難しいという点です。 熟練するほど、暗黙知になっている。 暗黙知は、意識して引き出さないと出てこない。
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医療現場ではこう翻訳する
「業務の言語化=クリニカルパスや標準手順書を書く作業」
医療現場は、標準化の文化を持っています。
手術の手順を標準化する。 投薬の確認手順を標準化する。 感染対策の手順を標準化する。
これは「個人のやり方を消す」ためではなく、「品質を安定させる」ためです。 誰がやっても、同じ品質の結果が出る状態を作る。
AI委任のための言語化も、同じ目的です。 「院長がやっても、エージェントがやっても、同じ品質のアウトプットが出る」 そのための手順書を書く。
医師は、この手順書を書く素地を持っています。 クリニカルパスを書いたことがある、標準手順書を見直したことがある、教育に関わったことがある。 これが、AI委任の準備になっています。
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4つの問いで業務を言語化する
業務を言語化するために、4つの問いを使います。
問い1:いつ・どのくらいの頻度でやるか
毎日?毎週?月1回?依頼があるたびに?
例:
毎週月曜日の午前中。
外来終了後、当日内に。
月次レポートは月末の翌営業日までに。
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問い2:何を入力にするか(インプット)
この業務を始めるために、何が必要か。
例:
- 先週の外来件数データ(電子カルテから書き出したCSV)
- 院長からの「〇〇について調べて」という依頼メモ
- 当月の会計データ(経理担当からのExcel)
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問い3:何を出力にするか(アウトプット)
この業務の結果、何が生まれるか。
例:
- Markdown形式の月次レポート(500字以内)
- ガイドライン比較表(A4一枚相当)
- 患者向けお知らせ文の草稿(400〜600字)
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問い4:品質の判断基準は何か
「良い」「悪い」の区別を、できるだけ具体的に書く。
例:
- 良い:出典URLがついている、要点が5点以内、ですます調
- 悪い:出典なし、1,000字超え、断言口調の医療情報
- 良い:今月・先月・前年同月の3軸比較が入っている
- 悪い:数字の羅列だけで解釈が何もない
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実践:月次レポート業務を言語化する
この4つの問いを使って、実際の業務を書き出してみます。
業務名:月次診療実績レポート作成
いつ:月末の翌営業日(例:6月末なら7月1日)
インプット:
- 当月の外来件数(電子カルテからのCSVデータ)
- 主訴の上位10件とその割合
- 新患数・再来患数の内訳
- 前月・前年同月のデータ(アーカイブフォルダから)
アウトプット:
- Markdown形式の月次レポート
- 長さ:500字以内
- 内容:当月実績・前月比・前年同月比・主訴トップ5
品質基準:
- 3軸(当月・前月比・前年同月比)が全て入っている
- 患者個人が特定できる情報は含まない
- 数字だけでなく「先月と比べて〇〇だった」という解釈が1〜2行入っている
これをCLAUDE.mdまたは専用のrole.mdに書いておきます。
## 月次レポート作成(記録担当向け)
以下の手順で月次診療実績レポートを作成してください。
インプット:
- archives/monthly/[当該月].csv(外来件数・主訴データ)
- archives/monthly/[前月].csv
- archives/monthly/[前年同月].csv
アウトプット(Markdown・500字以内):
- 当月実績(外来件数・新患数・主訴上位5件)
- 前月比コメント(1〜2行)
- 前年同月比コメント(1〜2行)
注意:患者個人情報は含めない。数字には出典ファイル名を添える。
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言語化が難しい業務への対処
4つの問いで書けない業務もあります。
「なんとなく判断している」「ケースバイケース」という業務は、まだAIに任せるのが早い段階です。
そういう業務は、2つに分けて考えます。
任せるパート:情報収集・選択肢の列挙・フォーマット整理 → ここはエージェントに任せられる
人間が担うパート:最終判断・例外対応・ケースバイケースの判断 → ここは院長が担う
「全部任せる」か「全部やる」の二択ではありません。 業務を分解して、任せられる部分だけ任せる。 この視点が、言語化を現実的にします。
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言語化で気づくこと
言語化してみると、自分でも気づいていなかったことに気づきます。
「この業務、毎月やっているけど何のためにやっているか分からなくなっていた」 「この手順、実は不要なステップが2つ入っていた」 「この情報、集めているけど誰も使っていない」
AIへの委任のために言語化を始めると、業務改善のきっかけになります。 これは、予想外の副産物です。
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次回予告
第7回は、プランモードです。
指示を出す前に、計画を立てる。 「いきなり処方しない」のが良い医師であるように、「いきなり実装しない」のが良いAI活用です。
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言語化は地味な作業です。 でも、この地味な作業が、後のエージェントの精度を決めます。
「AIのために書く」と思わず、「自分のクリニックの引き継ぎノートを書く」と思って取り組むと、続けやすいです。