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倫理とガバナンス

院内でAIを使う際の組織としての枠組みを作る。倫理委員会との関係、院内AIポリシーの雛形、絶対NGとケースバイケースの仕分け。

  • レッスン 2 / 8
  • 16分

このレッスンで

終わる頃には、次ができるようになります

  • 医療AI利用の絶対NGとケースバイケースを患者情報や臨床判断の基準で仕分けられる
  • 院内AIポリシーの骨格を対象ツール、使用可能な用途、入力禁止情報でA4一枚に書ける
  • JCIや病院機能評価で問われるトレーニング記録や方針文書化の要点を説明できる

倫理とガバナンス

このレッスンが終わる頃には、

  • 院内AIポリシーの骨格をA4一枚で書けるようになる
  • 「絶対NG」と「運用次第で許容」を仕分けられるようになる
  • 倫理委員会・JCIへの説明に使える語彙を持てるようになる

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「使っていいですか」を個人に聞き続けるコストを計算する

AIを使い始めた医師や看護師は、必ずこの問いにぶつかります。「これ、使ってもいいんですよね?」上司に聞く、上司も知らない、情報システム部に聞く、判断できる人がいない。最終的に「念のため使わない」で着地する。

判断基準がなければこの消耗が繰り返される。ポリシーがあれば「範囲内ならやっていい」で済みます。ガバナンスの目的は縛ることではなく、判断コストを下げることです。

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倫理の論点:「絶対NG」と「ケースバイケース」を分ける

医療AIの倫理は、絶対にやってはいけないことと、運用次第で許容できることに分かれます。

医療AI利用の絶対NGとケースバイケース

絶対NG(状況によらない)

患者識別情報(氏名・生年月日・ID・住所)を外部AIサービスに入力する

診断・治療方針をAI出力のみに基づいて決定する(人間のレビューなし)

AIが生成した医学情報を、一次情報の確認なく患者に提供する

臨床研究・治験の結果をAIで改変・捏造する

セキュリティポリシーを無視して患者データを含むファイルをアップロードする

ケースバイケース(設計・運用・承認次第)

匿名化・仮名化した症例データを使った教材作成

AIが作成した患者説明文書の使用(医師が内容を確認・修正した場合)

AIを使った文献検索・要約(一次情報との照合を前提に)

院内業務の自動化ツール(対象が非臨床業務の場合)

AIを使った研修プログラムの開発

絶対NGは医療法・個人情報保護法・研究倫理から外れません。ケースバイケースも「何でもあり」ではなく、事前承認と記録が必要です。

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倫理委員会・治験審査委員会との関係

多くの医療機関では、倫理委員会がAI利用の明示的なルールを持っていません。2026年時点ではまだ追いついていない施設が大半で、管理職がすべきことは2つです。

倫理委員会との関係で管理職がすべき2つのこと

1

臨床研究に使う場合は必ず事前相談する

研究へのAI利用、患者データ分析へのAI介在、論文執筆でのAI使用は、施設によっては倫理委員会への申請が必要になりつつある。事後のリスクは事前確認のコストより大きい。

2

研究以外でも記録を残す

「業務効率化でAIを使っている」事実の記録は、後のガバナンス審査への備えになる。何を・誰が承認し・どう運用しているかを、方針として文書に残す。

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JCI・病院機能評価への耐性

JCI(Joint Commission International)や病院機能評価を受けている施設では、情報管理と教育の記録が求められ、AI導入についてよく問われるのは以下の点です。

AI導入でよく問われる4つの点

1

スタッフが適切なトレーニングを受けているか

2

使用に関する方針が文書化されているか

3

インシデント発生時の対応フローがあるか

4

患者安全への影響評価が行われているか

ポリシー文書とトレーニング記録があれば多くの設問に答えられます。「使っているが記録がない」は審査で最も弱い立場です。

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院内AIポリシー雛形(A4一枚)

以下をそのまま使っていただいて構いません。施設名・承認者・施行日を入れて、内容を実情に合わせてください。


◯◯病院 生成AI利用ガイドライン(第◯版)

施行日:◯年◯月◯日  承認者:院長 ◯◯◯◯

1. 目的

本ガイドラインは、当院における生成AI(以下「AI」)の業務利用について、安全・適切な活用を促進しつつ、患者安全・個人情報保護・医療倫理を確保することを目的とする。

2. 対象ツール

本ガイドラインが対象とするのは、以下を含む外部AIサービスとする。

  • ChatGPT(OpenAI)
  • Claude(Anthropic)
  • Gemini(Google)
  • その他、外部サーバーにデータを送信するAIサービス全般

院内システムに組み込まれたAI機能については、各システムの利用規約に準じる。

3. 使用可能な用途(例)

  • 公開資料・医学文献の要約・翻訳
  • 患者説明文書の草案作成(医師が内容を確認・修正した上で使用)
  • 院内研修資料・スライドの草案作成
  • 業務手順書・マニュアルの文章補助
  • 統計解析の補助(非個人データ)

4. 使用を禁じる情報(入力禁止)

以下の情報を外部AIサービスに入力することを禁止する。

  • 患者氏名・生年月日・住所・電話番号・メールアドレス
  • 患者ID・保険証番号・マイナンバー
  • 診断名・処方内容・検査結果など診療情報(仮名化・匿名化がされていないもの)
  • 職員の個人情報
  • 院内の機密情報・未公開の経営情報
  • 取引先の機密情報

5. 臨床判断への適用制限

AIの出力を、以下に直接使用することを禁じる。

  • 診断の確定
  • 治療方針の決定
  • 薬剤処方の決定
  • 患者への病状説明(AIが作成した文書を未修正で使用する場合)

AIは補助ツールとして活用し、最終判断は必ず医療従事者が行う。

6. 記録と報告

  • 業務にAIを使用した際は、記録を残すことを推奨する(必須ではない、ただし研究利用の場合は必須)
  • AIの出力を起因とするインシデント・ヒヤリハット発生時は、院内の通常報告フローに沿って報告する

7. 研究・論文への利用

  • AIを使用した研究については、事前に倫理委員会へ相談する
  • 論文・学会発表でのAI使用については、投稿規定に従い明示する

8. 改定

本ガイドラインは技術・法令の変化に合わせて定期的に見直す。現行版はイントラネット内に掲示する。

照会先:◯◯部門 担当:◯◯


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ポリシーを作る前に確認する5つの問い

ポリシー作成の前に、この5問に答えると骨格が固まります。

ポリシー作成前に答える5つの問い

1

うちの施設で一番リスクが高いシナリオは何か

2

現時点で職員は何のAIを、どの目的で使っているか

3

情報セキュリティ担当・法務の担当者は誰か

4

倫理委員会への事前相談が必要な利用シーンはどれか

5

1年後にこのポリシーを見直す担当者を誰にするか

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参考

  • 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(最新版)
  • 文部科学省・厚生労働省・経済産業省「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」
  • 日本医師会 AIの臨床利用に関する検討委員会(プロジェクト委員会)「AIに関する臨床的課題と生命倫理について」(2026年4月)
  • 医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン」(2024年10月初版、2025年7月第2版)

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