多くのチームは、AIをまず「一人ひとりが自分のために使う道具」として迎え入れます。各自が自分のチャット画面で下書きを作り、資料をまとめ、疑問を解消する。最初はそれで十分に速くなります。
チームが育つにつれて、この使い方が少しずつ足かせに変わっていきます。誰かがすでに答えを持っているのに、別の人がまた一からAIに同じ質問をする。誰かが試して失敗したやり方を、別の人が知らずにまた試す。このコースでは、AIを一人で使う段階から、チームで使う段階へ移るときに何を決めればいいかを、5回に分けて見ていきます。
総務でよくある場面
たとえば、社員数百人の会社の総務チームを思い浮かべてください。経費精算・稟議・出張規程など、社員からの問い合わせに3人で対応しています。
それぞれが自分のAIチャットに規程を読み込ませ、社員からの質問にその場で答えています。ある社員が「出張の宿泊費の上限」を聞き、別の日に別の社員が同じ質問を別の担当者にする。2人は同じ規程を見ているはずなのに、答えの言い回しが微妙に違う。どちらの答えが「正式」なのか、あとから確かめる手段もありません。
この状態は、誰か1人のミスではありません。3人がそれぞれ自分のAIとだけ向き合い、聞かれたことも答えたこともチームに積み上がっていない、という設計の問題です。
一人で使うAIと、チームで使うAIを分けるもの
「一人で使うAI」と「チームで使うAI」の違いは、性能ではありません。答えがどこに残るか、誰が読みに行けるかという設計の違いです。
AIの使い方を2つに分ける
自分のチャット画面の中だけで完結します。会話は自分だけのもので、同僚がそこで何を聞き、AIが何と答えたかは見えません。
会話が終われば、そのやり取りは自分の履歴に残るだけです。チームの他の誰かが同じ疑問を持っても、ゼロから聞き直すことになります。
チームの共有スペースにAIがいて、そこでのやり取りは関わる全員から見えます。誰かが聞いたことも、AIが答えたことも、あとから誰でも読みに行けます。
一度確かめた答えは、次に同じ質問をした人にも活きます。AI自身も、チームが共有スペースに書いたことを踏まえて答えられます。
どちらが優れているかという話ではありません。1人だけの下書きなら前者で十分ですし、機微な内容を扱う場面ではむしろ個人のAIのほうが適していることもあります。ただ、チームで繰り返す仕事を個人のAIだけでまかなおうとすると、無理が出てきます。
AIを一人で使い続けると増える3つの代償
チームの規模が小さいうちは、個人利用の欠点はほとんど目立ちません。3人のチームなら、多少の聞き直しがあっても大きな痛手にはなりません。
AIを一人で使い続けると増える3つの代償
重複
同じ質問、同じ調べ物を、別々の人が別々に繰り返す
引き継ぎの空白
担当が変わると、前任者がAIとやり取りした経緯が丸ごと消える
答えのばらつき
同じ規程・同じ資料を見ていても、答えの言い回しや強調点が人によってずれる
チームが10人、30人と育つほど、この3つの代償は目立つようになります。新しく入った人は「誰に聞けばいいか」すら分からず、結局また一からAIに聞き直します。チームが大きくなるほど、AIを一人で使う設計のほうが割高になっていくのです。
このコースで見ていくこと
ここから先の4回では、AIを一人で使う段階から、チームで使う段階へ進むために必要な考え方を順に扱います。AIがただの便利な道具でなく「チームメイト」と呼べるために何が要るか、健全なチームを支える原則は何か、実際の仕事をどう割り振るか、そして組織としてどこまで準備できているか。
いきなり大きく変える必要はありません。まずは、自分のチームが今どちらの使い方に近いかを見極めるところから始めます。
やってみよう
演習1:重複を思い出す
直近1か月で、チームの誰かが別の誰かと同じような相談をAIにしていた場面がなかったか思い出してみましょう。もし最初から答えが共有されていたら、防げた重複はどれくらいあったか考えます。
演習2:一人で使うか、チームで使うか
自分のチームが今使っているAIの使い方を、「一人で使うAI」と「チームで使うAI」のどちらに近いか位置づけてみましょう。どちらか一方に決めきれない場合は、業務ごとに分けて考えてみます。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 一人で使うAIは個人を速くするが、答えはその人の画面に閉じ、チームには積み上がらない
- チームが大きくなるほど、重複・引き継ぎの空白・答えのばらつきという代償は目立つようになる
- 次のレッスンからは、AIがただの道具でなく「チームメイト」と呼べるようになる条件を見ていく
次のレッスンでは、AIがチームメイトになる条件を、3つの条件に分けて見ていきます。
セルフチェック
1. 本文の総務の例で、3人がそれぞれ自分のAIチャットで社員対応をしていたときに起きていた問題として正しいものはどれですか。
2. 「一人で使うAI」と「チームで使うAI」を分けるものは何だと本文で説明していますか。
3. チームが大きくなるほど目立つようになる代償として、本文で挙げられていないものはどれですか。