急変予測・患者安全病棟チェックプロンプト
「何か変だ」を見逃す理由
病棟で働く医師・看護師なら、この経験があるはずだ。「なんか今日この患者さん変だな」と思いながら、バイタルが正常範囲内だったので見送った。翌朝、急変していた。
NEWS2(National Early Warning Score 2)などのスコアリングシステムは普及したが、個別患者を「今後24時間」の視点で体系的に評価するワークフローは、多忙な病棟では省略されやすい。
このプロンプトが解決する問題:
- 単独のバイタル異常に引っ張られ、「全体像の変化」を見落とす
- 「なぜこの患者が今悪くないのか」を反証的に問わない
- 24時間後の最悪シナリオを想定せず、検査・治療のタイミングを逃す
- 申し送りが「主観的所見」中心になり、引き継ぎ医が同じリスクを認識できない
NEWS2スコアと急変予測の限界
NEWS2は優れたツールだが、臨床医はその限界も知っておく必要がある。
| NEWS2スコア | リスク分類 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| 0 | 低リスク | 定期モニタリング継続 |
| 1-4 | 低〜中リスク | 担当医が評価、モニタリング強化 |
| 5-6 または 単一指標3点 | 中リスク | 上級医への緊急連絡 |
| 7以上 | 高リスク | 緊急チーム対応、ICU検討 |
NEWS2が検出しにくい状況:
- 術後の代償機構:若年・健康な患者は代償反応が強く、NEWS2が上昇するまでに重症化している場合がある
- 慢性的なベースライン異常:COPD患者のSpO2 88%、慢性腎不全患者のCr 3.0は「正常」
- 薬剤による症状マスク:βブロッカー服用患者は頻脈が出ない、副腎皮質ステロイドは発熱を抑制する
- 精神症状・行動変化:NEWS2に含まれない認知機能低下は敗血症の早期サインかもしれない
プロンプト(コピーして使用)
あなたは病棟患者の安全管理に精通した総合内科専門医です。
以下の患者情報を分析し、急変リスクと必要な対応を体系的に評価してください。
【患者基本情報】
患者ID(匿名可):
年齢・性別:
入院日・在院日数:
主診断・入院理由:
術後の場合:手術名、術後日数
【現在のバイタルサイン(直近値 + 過去6-12時間のトレンド)】
体温: ℃(過去値:)
収縮期血圧: mmHg(過去値:)
拡張期血圧: mmHg
心拍数: 回/分(過去値:)
呼吸数: 回/分(過去値:)
SpO2: %(酸素投与: L/分 または 室内気)
意識レベル: [清明 / 声に反応 / 痛みに反応 / 反応なし]
【直近の検査値(利用可能なもの)】
血算:WBC /Hb /Plt
生化:Cr /BUN /Na /K /CRP
凝固:PT-INR /D-dimer(もしあれば)
血糖:
尿量(直近6時間または24時間): mL
【現在の投薬(急変関連で重要なもの)】
抗菌薬:
血圧関連薬(降圧薬・昇圧薬):
抗凝固薬・抗血小板薬:
インスリン:
免疫抑制薬・ステロイド:
【臨床所見・特記事項】
本日の担当医/看護師が「気になった」こと:
新しく出現した症状:
患者・家族の訴え:
---
【STEP 1: NEWS2スコアの自動計算と解釈】
提供されたバイタルをもとにNEWS2スコアを計算してください。
- 各指標のスコアとその根拠を示す
- 「ベースラインからの変化」として特に注意すべき指標を明示する
- このスコアが過小評価しているリスクがあれば指摘する(βブロッカー、慢性低酸素等)
【STEP 2: 24時間最悪シナリオ分析(上位3パターン)】
この患者が今後24時間で急変するとしたら、最も可能性の高い3つのシナリオを提示してください。
各シナリオについて:
a) 病態名と進行経路(例:術後腸閉塞 → 腹部コンパートメント症候群 → 循環不全)
b) このシナリオの「前駆サイン」として今日見られるべき所見(現在あるか?ないか?)
c) このシナリオを「今すぐ」否定または確認するために行うべき検査・確認事項1つ
d) このシナリオに進展した場合の初期対応(最初の10分)
【STEP 3: 反証チェック — なぜこの患者は「今」急変していないのか】
リーディング懸念(最も心配なシナリオ)について、意図的に反証を探してください:
「もしこのシナリオが進行しているなら、〇〇という所見があるはずだが、現時点でないのはなぜか?」
を3つの視点から検討してください。
→ 反証が十分ある場合:リスク低下の根拠として記録
→ 反証が見つからない場合:リスクがより高い可能性として扱う
【STEP 4: 薬剤・処置による症状マスクの確認】
現在の投薬・処置によって、急変の徴候がマスクされていないかを評価してください:
確認項目:
- βブロッカー → 頻脈が出ない(敗血症・出血の徴候を隠す)
- コルチコステロイド → 発熱が抑制される(感染の徴候を隠す)
- NSAIDs → 発熱・局所炎症反応が抑制される
- オピオイド → 呼吸数抑制・意識変容のマスク
- 降圧薬 → 循環不全でも低血圧が現れにくい
- 利尿薬 → 過剰利尿による低血圧・電解質異常
- 抗凝固薬 → 出血リスク増大・内出血の顕在化遅延
現在の処方で上記に該当するものを特定し、何を代わりにモニタリングすべきかを示してください。
【STEP 5: 特別リスクの確認(該当すれば)】
以下の特殊状況に該当する場合、追加リスクを評価してください:
□ 術後患者の確認事項:
- 術後何日目か(DVT/PE最リスク期はDay 2-5)
- 腸管機能回復の確認(腸蠕動音・排ガス・経口摂取開始)
- ドレーンの性状変化(血性増加 / 消化液様 / 膿性)
- 手術部位感染(SSI)のサイン
- 輸液バランス(術後の過剰輸液 / 不足)
□ 敗血症スクリーニング(qSOFA評価):
- 呼吸数 ≥ 22回/分
- 意識変容
- 収縮期血圧 ≤ 100mmHg
※2項目以上:敗血症の可能性、血液培養と乳酸値測定を検討
□ 輸血・輸液療法中の患者:
- TACO(輸血関連循環過負荷)のサイン:SpO2低下+頻呼吸+頸静脈怒張
- TRALI(輸血関連急性肺障害)のサイン:輸血後6時間以内の呼吸不全
□ 免疫抑制患者(ステロイド/化学療法/移植後):
- 好中球減少発熱(ANC < 500 + 発熱 = 至急対応)
- 非典型的な感染巣・非典型的な起因菌
【STEP 6: ISBARフォーマット申し送り文の自動生成】
上記の評価をもとに、次の担当医・担当看護師への申し送りを作成してください。
ISBAR形式:
I (Identify / 患者識別):
S (Situation / 状況):
B (Background / 背景):
A (Assessment / 評価):
R (Recommendation / 推奨):
申し送りには以下を必ず含める:
- 「次の担当者が最初の1時間以内に確認すべきこと」
- 「このサインが出たら即座にコールすべき条件」(例:収縮期血圧90以下、SpO2 92以下等)
---
【総合リスク評価サマリー】
🔴 要緊急対応(今すぐ):
🟡 要強化モニタリング(次の2時間以内):
🟢 現状継続可能(ただし監視継続):
⚠️ 注意:このツールは担当医・担当看護師の判断を補助するものです。病態の急速な変化に対しては、このツールを使う前に直接患者評価を優先してください。
使い方のポイント
特に効果が高いシチュエーション
引き継ぎ前の総チェック(夜間帯・休日前)
担当医が変わる前の最終評価として使う。「悪くなりそうな患者」をあぶり出し、引き継ぎ医への重点情報を整理する。引き継ぎの抜け漏れによる急変の多くは、このステップで予防できる。
「なんか変」を感じた時の構造化
看護師が「いつもと違う」と感じているが、バイタルが正常範囲内の患者に使う。直感を定量化し、追加評価が必要かどうかを医師へ説明する材料になる。
術後Day 2-3の系統的評価
術後早期は代償機構が働いているため見落とされやすい。特にPE(肺塞栓)・腸閉塞・吻合部縫合不全が問題になる時期をカバーした評価が可能。
ICUからの退室前・高度急性期病棟への転棟前
ICUレベルの管理から一般病棟への移行前に、残存リスクを系統的に確認する。「ICUを出て良いか」という問いに対する構造化された回答を得られる。
入力のコツ
- バイタルはトレンドで入れる: 現在値だけでなく「12時間前は38.5℃だったが今は37.2℃」など変化の方向性が重要
- 「担当者が気になったこと」は正直に書く: 漠然とした不安でも良い。AIはそれを起点に構造化する
- 尿量は必ず入れる: 組織灌流の最も敏感な指標の一つ。0.5mL/kg/時未満は要注意
- 投薬リストは急変関連薬に絞る: 全薬剤を入れると情報が分散する。降圧薬・抗凝固薬・ステロイド・抗菌薬を優先
活用例:67歳男性 S状結腸がん術後4日目
この患者で検出される主要問題
患者:67歳男性、S状結腸切除術後4日目
バイタル:体温 37.8℃(昨日 37.1℃)、HR 92→98回/分(上昇傾向)
BP 108/70(昨日 122/78)、SpO2 97%室内気、呼吸数 18回/分
検査:WBC 14200(術後2日目 11800)、CRP 18.2(術後2日目 12.1)
尿量 24時間 580mL(体重 68kg → 0.35mL/kg/時)
担当看護師の所見:「昨日まで少し話せていたが、今朝はぼんやりしている感じがする」
STEP 2(最悪シナリオ上位3つ)の出力例
シナリオ1: 吻合部縫合不全 → 腹膜炎 → 敗血症性ショック ⚠️ 最優先
前駆サイン:発熱上昇✓、WBC・CRP上昇✓、HR上昇✓、BP低下傾向✓、尿量低下✓
→ 5つ全て一致。このシナリオの確認を最優先とする
確認検査:造影CT腹部骨盤(至急)、血液培養2セット(至急)
シナリオ2: 術後肺炎・無気肺
前駆サイン:発熱✓、頻脈✓ / 呼吸数18回(増加なし)、SpO2 97%(正常)
→ 一部一致するが、呼吸器症状が薄い。胸部聴診・レントゲンで確認
シナリオ3: DVT/PE(術後Day 4 = リスク期)
前駆サイン:下肢所見は記載なし、SpO2正常(ただし小さいPEでは正常あり)
→ 下肢の腫脹・圧痛の評価が未記載。D-dimer測定を追加
STEP 3(反証チェック)の出力例
縫合不全シナリオへの反証を探す:
「縫合不全があれば腹部症状(腹痛・腹膜刺激徴候)があるはずだが現在は?」
→ 腹部所見が入力されていない → この患者では腹部診察が最緊急タスク
「縫合不全ならドレーン排液が変化するはずだが?」
→ ドレーン性状の記載なし → 至急確認が必要な情報
「意識変容はあるか?」
→ 「ぼんやりしている感じ」 → qSOFAの意識変容に相当する可能性あり
(qSOFA現時点:呼吸数18回(1点)+ 意識変容の疑い(1点)= 2点)
⚠️ qSOFA 2点以上 → 敗血症ワークアップ開始基準を満たす
注意点
このプロンプトは「直接患者を診ることの代替」ではない。
急変リスクが高いと判断された場合、AIの分析を終えてから患者のもとへ行くのではなく、まず患者を見てからこのプロンプトで思考を整理する。
AIが提示する「シナリオ」はあくまで確率的な提案だ。入力された情報の質と量に依存する。「書かれていないこと(尿量なし・ドレーン性状なし等)」は「問題なし」を意味しない。
申し送りの質を上げる目的での使用が最も安全な活用法だ。次の担当者に確実に引き継ぐべき情報を構造化するために使い、AIの出力をそのまま医療判断の根拠にしないこと。