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原価の裾から値をつける

  • レッスン 3 / 6
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値付けで決めるのは「いくらにするか」ではなく「いくらまでなら壊れないか」。機能を削れないかを先に問い、課金単位に分けて実測し、平均でなく分布で原価を見て、上限を3段で設計してからプラン表を引く手順を身につける。

このレッスンで

終わる頃には、次ができるようになります

  • 変動費を生む機能を落とせないか値付けの前に問える
  • P50平均でなくP90・P95・P99の分布で原価を判断できる
  • 上限を3段で設計しプラン表を2週間で実測へ差し替えられる

値付けで一番危ないのは、高くつけすぎて売れないことではない。原価を知らないまま安く出すことだ。裏でLLMを動かすプロダクトは、無料枠の設計を1つ間違えるだけで、売上より原価の伸びの方が速くなる。

ここで出すのは「いくらにするか」ではない。「いくらまでなら壊れないか」を先に出す。金額の最終決定は自分の仕事だが、その前段の原価計算と選択肢の整理はAIに任せられる。

手順0: その機能を落とせないか先に問う

上限設計に入る前に、もっと安い解決策がある。変動費を生む機能は、単価だけでなく上限3段の実装・原価ログの計装・月次の再計測・キルスイッチの運用という付帯コストを丸ごと連れてくる。落とせるなら、どんな上限設計より安くて確実だ。

先に問う3つ。

  1. その機能は製品価値の核か、飾りか。核でないなら落とす候補になる
  2. 落としたとき、売り文句のどこが変わるか。変わらないなら落としてよい
  3. まだ課金を始めていないか。購入者ゼロなら無傷で落とせる。始めた後は約束の取り下げになる

落とすと決めても、実装を消す必要はない。プランのfeaturesから外す、UI導線を切る、APIキーを設定しない。この3つで機能は止まる。コードは資産として残せる。

2026年9月、pediaの買い切り5,000円・無期限プランには、上限のないAIチューターが付いていた。損益分岐は約1,850回で、それを超えると永久に純損失が続く設計だった。上限をどう設計するかを検討する前に「この機能は本当に要るか」を問うたところ、医療安全上の理由でUIからは既に外されており、残っていたのはプランの約束文言だけだったと分かった。featuresから2行消すだけで、赤字構造そのものが消え、上限もキルスイッチもトークン記録も不要になった。上限設計に何時間もかける前に、この問いを1回通すだけで済む場合がある。

課金単位に割る

機能一覧ではなく、原価が発生するアクションの一覧を作る。原価構造が違うものは混ぜない。

要約サービスを例にすると、記事の要約は入力トークン×本文長、動画の処理は文字起こし秒数と要約の両方、チャットは往復回数×文脈長というように、アクションごとに変動要因がまったく違う。1つの「利用料」にまとめてしまうと、どのアクションが原価を押し上げているか見えなくなる。

見落としやすいのが保存と検索だ。ストレージと埋め込みは、ユーザーが使わなくなっても課金が続く。解約されるまで原価が残るものは、他のアクションとは別枠で数える。

実測する

「あのモデルは1Kトークンいくら」から掛け算した数字は原価ではない。実際のログから出す。

各アクションのAPI呼び出しに、入力トークン数・出力トークン数・モデル名・ユーザーID・アクション名を必ずログする。ログしていないなら、値付けの前にこれを入れる。計測は前のレッスンで扱った通り、実装と同時に入れるものであって、値付けの直前に慌てて後付けするものではない。

最低2週間、またはアクション200件のどちらか遅い方まで貯める。1アクションあたりの実費を、モデルごと・アクションごとに円で出す。ここまでの実測が取れるまでは、値付けを確定しない。仮の数字で確定したプランは、後から上げにくい。

平均を捨てて分布を見る

ここが値付けの型の中心になる。出すのは4つ。ユーザー1人あたり月次原価のP50・P90・P95・P99。平均は使わない。

LLM利用は裾が重い。上位1%のユーザーが原価の3〜5割を占めることは普通に起きる。平均で利益率を着地させると、そのユーザーが1人来ただけでプランが赤字に転じる。「ライト・ミドル・ヘビーが2:6:2で分布する」という仮定も、裾の1人を平均側に押し込んでいる点では同じ罠にはまっている。

月次原価/人   P50: ¥__   P90: ¥__   P95: ¥__   P99: ¥__   最大: ¥__

判定の目安はP99が月額の40%以内に収まるかどうか。収まらない場合は、次の上限設計で抑える。

上限を3段で設計する

数値をドキュメントに書いただけでは設計にならない。コードに入っていることを確認する。

しきい値挙動
ソフト警告枠の80%ユーザーに通知する。体験は止めない
ハードキャップ枠の100%その課金サイクルで当該アクションを停止する。他機能は生かす
キルスイッチ想定原価のN倍(全体)管理者に通知し、該当アクションをサービス全体で停止できる環境変数を1つ用意する

キルスイッチはサービス全体にかける方だ。個別ユーザーの使いすぎではなく、プロンプトのバグやループでAPIを叩き続ける事故を止めるためのものになる。

2026年9月、社内の論文パイプラインが、プロバイダ未指定時に外部の生成AI APIへ黙って流れる既定値を持っていたことがあった。上限も件数ゲートも実行前の予告もなく、1日だけで数千件のリクエストが発生した。従量課金APIを既定値にしない、一括処理は件数と概算費用を予告してから走らせるというルールは、この経験から生まれている。上限設計は「起きたら困るから念のため」ではなく、実際に起きた事故を踏まえた必須工程だ。

プラン表を引く

3プランが標準形になる。

FreeProMax
目的価値到達までは無料で見せる主力。ここで利益を出す裾の受け皿。原価に見合う額を取る
枠の決め方活性化に必要な最小回数P90が収まる枠P99が収まる枠。超過は従量か停止

Freeの枠は「たくさん試せる」ではなく「1回価値に届く」で引く。到達に必要な回数は、前のレッスンで定義したactivationの基準から出す。推測しない。

年額は月額の10〜12ヶ月分にする。割引ではなく、前受けでキャッシュを厚くするのが目的だ。3プランを並べて客に選ばせるのではなく、どれを選ばせたいかを先に決め、その1つだけを推奨表示にする。医療・専門職向けの場合は、経費で落ちる価格帯と個人の自腹の価格帯が別物になるので、想定購入者がどちらの財布かを先に書いておく。

2週間で仮定を実測に差し替える

値付けは1回で終わる作業ではない。

ローンチから14日後、実ユーザーのP50・P95・P99を再計測し、分布の表を更新する。枠を上げるのは自由だが、下げるのは既存ユーザーには適用せず、新規からにする。想定と実測が2倍以上ずれていたら、プラン構造そのものを引き直す。

罠リスト

値付けで繰り返し起きる失敗と、その対処をまとめる。

対処
平均ユーザー像で利益率を着地させたP95・P99で引き直す
無料枠を「たくさん試せる」で引いた活性化に必要な最小回数まで絞る
ストレージ・埋め込みを原価に入れ忘れた解約まで残る原価として別枠で計上する
上限をドキュメントに書いただけだったコードで実際に止まることを確認する
従量課金APIが既定値になっていた呼び出し側の明示指定に変える
再試行・失敗時の課金を数えていなかったリトライ分も実測ログに含める
長文・長尺の裾を切っていなかった入力長に上限を設け、超過は事前に拒否する
値上げ前提で安く出した既存ユーザーは据え置きになる前提で初期価格を決める

AIが越えない線

原価計算とプラン案の作成はAIに任せられる。しかし価格の最終決定は自分の仕事として残す。AIは実測した原価とP50・P90・P95・P99の分布、上限の実装状況、選べる価格の候補までを並べる。そこから先、いくらにするかを選ぶのは本人であって、AIが断定で金額欄を埋めるものではない。予告して、承認を得て、実行する順番はここでも変わらない。

今日のまとめ

3行で振り返る。

  • 上限設計の前に、その機能自体を落とせないか問う。落とせれば上限設計そのものが不要になる
  • 平均でなくP50・P90・P95・P99の分布で原価を見る。裾の重いユーザーが原価の大半を占めることが普通に起きる
  • プランは2週間で仮定を実測に差し替える。価格の最終決定は本人の仕事として残す

次のレッスンでは、値をつけたプロダクトを実際に人に届ける6点セットに進む。

セルフチェック

1. 上限設計に入る前に、手順0で最初に問うべきことはどれですか?

2. 原価分布をP50平均ではなくP90・P95・P99で見るべき理由はどれですか?

3. 値付けにおける本人ゲートの説明として最も正確なのはどれですか?

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