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撤退基準を先に書く

  • レッスン 1 / 6
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「手応えがあれば続ける」は条件にならない。続ける条件・止める条件・次の判定日を3行で先に書き、判定日を過ぎても判断しなかったこと自体を止める側の事実として扱う型を身につける。

このレッスンで

終わる頃には、次ができるようになります

  • 「手応えがあれば」のような曖昧な継続条件を観測可能な事実に書き換えられる
  • 続ける条件・止める条件・次の判定日を3行の撤退基準として書ける
  • 判定日を過ぎても判断しなかったことを止める側の事実として扱える

土日にAIで作った問診票の下書きツールが、気づけば3ヶ月動いている。同僚にも配って、何人かは使っている。ここで「このツール、続けますか」と聞かれたら、どう答えるか。

多くの人はこう答える。「手応えがあれば続けます」。

この一言が、あとで一番厄介になる。

「手応えがあれば」は条件ではない

条件とは、あとで誰が見ても同じ判定になるものを指す。「手応え」「良さそう」「反応がいい」は、そのときの気分で伸び縮みする。手応えがあると思えば続くし、忙しくて見なくなれば自然消滅する。どちらにしても、決めたのではなく、決めずに時間が判定してしまっている。

止める・続けるを決めるのに一番向いていないのは、作った本人の主観だ。自分が作ったものを「もうやめよう」と自分の感覚だけで判定するのは難しい。手を動かした時間が惜しくて、続ける理由を後から探してしまう。

条件を先に、観測可能な事実の形で書いておけば、この揺れが消える。判定日に条件と実測を並べるだけで、答えが出る。

3行で書く

書くのは3行だけでいい。

続ける条件: <観測可能な事実。「YYYY-MM-DDまでに◯◯が△△に達する」>
止める条件: <同上。達しなかったら、を明記>
次の判定日: YYYY-MM-DD

さっきの問診票ツールなら、こう埋まる。

続ける条件: 2026-12-01までに、説明なしで自力で使い始めた同僚が5人に届く
止める条件: 12-01時点で3人に届かなければ止める
次の判定日: 2026-12-01

「5人」「3人」は仮の数字でいい。判定日にメッセージを見て「誰が何人使っているか」を数えれば、迷わず答えが出る形にしておくことがポイントだ。人数でなくても構わない。「1ヶ月に◯回自分で使ったか」でも「エラー報告が0件だったか」でもいい。判定日に事実だけで割り切れることが条件になる。

止める条件の4つの型

止める条件は、だいたい次の4つのどれかに分類できる。

種類条件の書き方の例
需要判定日までに、説明なしで使い始めた人がN人に届かない
収益判定日までに、有料に切り替えた人がN人/月次の売上がN円に届かない(値付け後の話。このコースの03で扱う)
コスト月次のAPI利用料がN円を超え、かつそれに見合う需要がない
本人判定日までに自分がそれを触る優先順位が動かなかった

最後の「本人」が一番効く。実装は終わっているのに、公開の作業だけが2ヶ月動かない。これは「意志が弱い」という話ではなく、実はそのツールの優先順位が自分の中で低い、という事実そのものだ。感情の問題として片付けず、事実として受け止めた方が判断は早くなる。

止める=消すではない。凍結

「止める」と聞くと、コードを消して謝って回る場面を想像しがちだ。そうではない。

止めるとは、更新を止め、ドメインとAPIの課金だけ止め、「凍結」と1行書いておくことを指す。コードもデータも残しておいていい。気が変わったり、状況が変わったりすれば、いつでも解凍して再開できる。

この違いは大きい。「消す」と思うと撤退の決断は重くなり、先延ばしにしたくなる。「凍結するだけ」だと分かっていれば、判定日に淡々と決められる。

判定日を過ぎて判断しないこと自体が、止める側の事実

ここが一番忘れられがちな部分になる。

判定日を設定しても、その日に忙しくて見なかった。翌週も見なかった。そのまま3ヶ月経った。これは「まだ判断していない」のではない。実際には、それを見る優先順位が自分の中になかった、という「止める」側の答えがもう出ている。

判定日を過ぎても判断しなかったことを、先延ばしとして扱わない。それ自体を、止める条件の「本人」の列が満たされた、という事実として読む。この読み方を持っておくと、いつまでも「休眠中」のまま注意力だけを食い続けるものが減っていく。

AIが決めるのはどこまでか

続ける・止めるの最終判断は本人が下す。AIの役割は、判定日に条件と実測を並べて提示するところまでにとどめる。

  • 判定日が来たら、続ける条件・止める条件それぞれの実測値をAIが集計して見せる
  • 「続ける/止める/凍結」の決定そのものは本人が下す
  • AIが勝手に凍結を実行したり、公開を止めたりはしない。予告して、承認を得て、それから動く

この線引きがあることで、撤退基準は「AIに任せて自動で切られる仕組み」ではなく、「本人が判断しやすくするための下ごしらえ」になる。

今日のまとめ

  • 「手応えがあれば」は条件ではない。続ける条件・止める条件・次の判定日を、判定日に事実だけで割り切れる形で3行に書く
  • 止める=消すではなく凍結。更新を止め、コストだけ止めて、気が変わればいつでも解凍できる
  • 判定日を過ぎても判断しなかったこと自体を、止める側の事実として扱う。先延ばしを「保留」として見逃さない

次のレッスンでは、この撤退基準と同時に入れておく計測の設計に進む。判定日に何を見て条件を判定するか、そのイベント設計を実装と同時に組み込む。

参考

  • 梶谷健人「AIとサービスを開発してリリースするまでの流れとポイント」(note, 2026-09-11)。このコースの骨格は同記事の11工程のうち後半3工程(価格設計・マーケ素材・計測設計)を起点に、撤退基準を先頭に足したAMPL版。記事本文は有料のため転載しない

セルフチェック

1. 「手応えがあれば続けます」が撤退基準の条件として不十分な理由は何ですか?

2. 撤退基準で「止める」と決めたとき、実務として最初にやることは何ですか?

3. 判定日を過ぎても続ける・止めるを判断しなかった場合、この状況をどう扱うべきですか?

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