ここまでの4本で、撤退基準を先に書き、計測を実装と同時に入れ、原価の裾から値をつけ、6点セットで届ける型を見てきました。共通する形は、AIができるところまでやって、最後の一手だけ本人に渡すことです。
この最後の一手を、なぜAIに渡させないのか。ここを曖昧にしたまま進めると、値付けも公開も告知も、いつの間にかAIが決めた既成事実になります。このレッスンでは、その境界線を名前と手順に分けて持ちます。
本人ゲート、5つの線
作る側の作業がどれだけ進んでいても、次の5つはAIの提案では終わらず、本人の判断を経ます。
本人ゲート、5つの線
価格の最終決定
値付けレッスンの出口。金額を確定するのは本人
本番デプロイ・公開
届けるレッスンの出口。公開ボタンを押すのは本人
告知の配信
プレスリリース配信・外部投稿。撤回がきかない外部送信
撤退/凍結の決定
撤退基準レッスンの出口。実際に止めると決めるのは本人
従量課金APIの新規採用と一括実行
値付けと同じ重さの決定
前半の4つは、レッスン1〜4で扱った撤退・計測・値付け・届けるの出口にそのまま乗ります。5つ目も、費用が発生する仕組みを新しく採用するかどうかという同じ重さの決定です。
AIは原価と選択肢まで
本人ゲートの手前までは、実質的にすべてがAIの仕事です。
値付け作業、どこまでAIが埋めるか
原価をP50・P90・P95・P99で並べる
プラン案をFree・Pro・Maxの3つで作る
上限をソフト警告・ハードキャップ・キルスイッチの3段で確認する
価格をいくらにするか
無料枠を何回にするか
AIが自信を持って一つの数字を断定で埋めることは、選択肢を減らす形で本人の決定を先取りすることになります。複数の計算方法が同じ結論を出しても、それは強い材料であって決定そのものではありません。
予告、承認、実行の3拍子
本人ゲートを越える必要があるとき、順番は3拍子で固定します。
予告
何をするか、規模はどれくらいか、費用や影響はいくらかを一行で言う
承認
返事を待つ。予告しただけで進めない
実行
承認が返ってから動かす
この順番が抜けると何が起きるかは、AMPL自身が実例を持っています。ある処理スクリプトに、指定がなければ従量課金APIを使うという既定値が入っていました。上限も、件数ごとに止めるゲートも、実行前の予告もありませんでした。結果、本人の承認なしに5,709件のリクエストが走り、そのうち4,685件は1日で発生していました。原因は3つです。従量課金の外部APIが既定値になっていたこと、一括処理に件数ゲートと予告がなかったこと、APIキーが環境変数に常駐して拾える状態にあったことです。
この例が示しているのは、AIの判断が粗かったという話ではなく、既定値と実行条件の設計に予告と承認を差し込む場所がそもそも無かったという事実です。3拍子が守っているのはAIへの不信感ではなく、取引の背景や時間軸のような、AIのログに書かれていない文脈を本人に補ってもらうことです。
実録:今も本人ゲートで止まっている三つ
抽象的な話で終わらせず、AMPL自身のプロダクトボードに今書かれている状態をそのまま見ます。
minaton(港区子育て向け)は本番稼働中で、計測もPostHog・GA・web_vitalsで動いています。キッズデザイン賞のマークも掲出済みです。それでも値付けの方向だけが決まっておらず、無料のまま止まっています。
pedia(小児科専門医試験、888問)は決済の仕組みが実装済みですが、公開はしていません。Stripeの価格作成、本番環境のシークレット設定、デプロイ、pushが、本番デプロイ・公開という本人ゲートの手前で止まっています。売却するか課金するかの方向も決まっていません。
tokyo-speedは有料チケットとホストへの受け取りの仕組みを実装し、本番にも反映済みです。それでも実際の課金は動いていません。Stripe Connectを有効にするかどうかの判断が、手数料率や法務の確認とあわせて止まっています。
三つとも実装は終わっています。止まっているのは技術ではなく、本人ゲートを越える判断そのものです。
今日のまとめ
- 本人ゲートは5つ。価格の最終決定、本番デプロイ・公開、告知の配信、撤退・凍結の決定、従量課金APIの新規採用と一括実行
- AIの仕事は原価と選択肢を並べるところまで。最後の欄を断定で埋めない
- 越えるときは予告してから承認を得て実行する。順番を守らないと、AMPL自身が経験したような無断実行が起きる
次のレッスンでは、この本人ゲートで実際に止まっている3つのプロダクトを、もう一段詳しく見ます。
セルフチェック
1. 値付けの作業のうち、AIが最後まで埋めてよいものはどれか
2. 予告、承認、実行の3拍子がある理由として最も適切なものはどれか
3. 従量課金APIの新規採用と一括実行について、守るべき規律はどれか