自分が書いた報告書、自分が作った資料、自分が撮った写真。「自分の作品」と呼べる範囲がどこまでかを、言葉にしたことがある人は多くありません。
AIに手伝ってもらった瞬間から、それは自分の作品ではなくなるのでしょうか。逆に、最初から最後まで一人で作りさえすれば、それだけで自分の作品だと言えるのでしょうか。どちらの問いも、答えは単純な「はい」か「いいえ」ではありません。境目を決めているのは、AIを使ったか使わなかったかという一点ではなく、もっと別のところにあります。
このレッスンでは、自分の作品を言葉にするための3つのレンズを用意します。この講座全体で、この3つのレンズを使い続けます。
表現・つながり・独自性という3つのレンズ
作品を見るときに使えるレンズは3つあります。どれか1つが正解というものではなく、並べて使う3つの並列の見方です。
作品を見る3つのレンズ
表現
読んだ人・見た人の心をどれだけ動かすことを目的にしているか。明瞭さや機能を優先する作品もあれば、感情を動かすことそのものが目的の作品もある
つながり
作った人の存在が、どれだけ前面に出ているか。特定の個人の声として届く作品もあれば、組織やブランドを通して届く作品、誰が作っても構わない作品もある
独自性
発想そのものの新しさと、仕上げ方の特定さ。狭い読み手に向けた独特な作品もあれば、広く通じる型に沿った作品もある
3つのレンズは、優劣ではなく用途の違いを映します。社内向けの週次報告書は、表現もつながりも独自性も低くてかまいません。むしろ、誰が書いても同じ形で、要点が一目で分かることのほうが価値になります。一方、個人の名前で発表するエッセイは、その人自身の声が伝わることが作品の核になるため、3つとも高く育てることに意味があります。
同じ「文章を書く」でも、目指す場所は違う
表現・つながり・独自性のどれも低くてよい仕事です。誰が書いても同じ構成で、読み手が最短で状況を把握できることが最優先になります。AIに定型フォーマットで下書きさせても、価値はほとんど落ちません。
表現・つながり・独自性のすべてが作品の価値そのものです。書き手自身の見方や声が消えると、読み手にとっての意味が薄くなります。AIに任せる範囲を決めるときは、この違いを先に意識する必要があります。
どちらの仕事にも優劣はありません。大切なのは、いま向き合っている仕事が3つのレンズのどこに位置するかを先に言葉にしておくことです。 位置が分かれば、AIにどこまで任せてよいかの判断がそのぶん楽になります。
「自分のもの」と言えるかどうかは、2つの面で決まる
AIがどれだけ関わったかという割合では、自分の作品かどうかは決まりません。判断すべき面は2つあります。
1つ目は、作品そのものです。そこに現れている決定や表現が、自分の判断を一貫して反映しているかどうか。AIが出した案をそのまま流用しても、それをどう選び、どう直したかという判断が自分のものであれば、作品は自分のものと言えます。
2つ目は、相手との関係です。読み手や観客が、作った人の存在をどれだけ気にするかという点です。つながりのレンズが低い仕事では、AIの関与を気にする相手はほとんどいません。つながりのレンズが高い仕事ほど、AIがどう関わったかが相手にとって意味を持つようになります。
補足
このコースの枠組みの出どころ
このコースの枠組みは、Rick Dakan・Joseph Feller と Anthropic が開発した AI Fluency Framework(4D)をもとに、AMPL が独自に書き起こしたものです。今回の3つのレンズはこのコース独自の切り口ですが、後半のレッスンで使う「委任力」「倫理的責任」という言葉は、この4Dの用語をそのまま使います。例と演習はすべてAMPLで作っています。
3つのレンズは、引っ張り合うことがある
3つのレンズは互いに強め合うこともあれば、一方を伸ばすと他方が犠牲になることもあります。
たとえば、ポートフォリオ用に独自性を最大限まで押し出したデザインを作ると、クライアントの既存ブランドとの一貫性、つまりつながりのレンズが弱くなることがあります。逆に、誰が読んでも同じ理解に達するよう独自性を抑えた説明資料は、表現の強さを意図的に手放しています。
どちらが正しいということはありません。自分がいま何を優先したいのかを先に決めておくと、AIに何を任せ、どこは自分で握るかの判断が具体的になります。
やってみよう
演習1:自分の作品を3つのレンズで見る
最近手がけた仕事を2〜3個思い浮かべてください。報告書、記事、資料、デザイン、講演のスライドなど、種類は問いません。それぞれについて、表現・つながり・独自性を高・中・低で評価し、なぜその評価になるのかを1行で書いてみます。カテゴリー全体の印象ではなく、その1点の作品固有の理由を書くのがポイントです。
演習2:引っ張り合いを1つ見つける
演習1で挙げた作品のうち1つを選び、あるレンズを強めようとすると別のレンズが弱くなる場面がなかったかを振り返ります。あった場合は、そのときどちらを優先したか、なぜそう判断したかを1〜2文で書いてみてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 自分の作品かどうかは、AIをどれだけ使ったかではなく、表現・つながり・独自性という3つのレンズで見る
- 「自分のもの」と言えるかは、作品自体に自分の判断が一貫しているかと、相手が作った人の存在をどれだけ気にするかの2面で決まる
- 3つのレンズは引っ張り合うことがあり、優先順位を先に決めておくとAIに任せる範囲の判断が楽になる
次のレッスンでは、時間・手間・資源という別の見方で、AIが自分の仕事のどこを軽くし、どこに新しい負担を生むのかを見ていきます。
セルフチェック
1. 本文で紹介した、作品を見る3つのレンズの組み合わせはどれですか。
2. 「自分のもの」と言えるかどうかを判断する2つの面として、本文で説明されているものはどれですか。
3. 3つのレンズについて、本文の説明と合っているものはどれですか。