AIの関わり方5つで見たとおり、共作や素材そのものとしてAIを使うときは、開示の責任が重くなります。では、実際に何を、誰に、どこまで明かせばよいのでしょうか。このレッスンでは、その判断の材料を整理します。
明かすか明かさないかの二択で考えると、判断が止まりがちです。相手ごとに、求められる水準は最初から違います。
誰に明かすか
同じ作品でも、相手によって開示の期待は変わります。
契約や業界の慣習で、AIの使用範囲を明示するよう求められることがある。事前に確認しておく
つながりのレンズが高い作品ほど、作った人の存在そのものが価値になるため、期待も強くなる
手法の共有として、どこにAIを使ったかを話題にする慣習がある領域も増えている
社内向けの方針やガイドラインがあれば、個人の判断より先にそちらに従う
相手が複数重なる場面もあります。クライアント向けの成果物を、後日自分のポートフォリオとして公開する場合は、クライアントへの開示と読者への開示を別々に考える必要があります。クライアントとの契約では使用範囲を明示していても、後で公開する際には読者向けにあらためて書き添える、という二段構えが要ることもあります。
明かす場所も、相手によって変わります。契約書の一文で済む場合もあれば、記事の末尾に短い注記を添える場合、講演の冒頭で口頭で触れる場合もあります。書く場所を先に決めておかないと、公開の直前になって「どこに書けばいいのか」で迷うことになります。
何を、どこまで明かすか
開示の重さは、5つの役割のどれを使ったかによって変わります。相談役や道具作りのように最終成果物に生成物が現れない役割では、開示は最小限で足ります。共作や素材そのものになると、何をAIにさせ、どこを自分で判断したかまで説明できる状態が要ります。
つながりのレンズが、開示の重さも左右する
つながりのレンズが低く、誰が書いたかを読み手はほとんど気にしません。AIで下書きを作ったこと自体を、逐一明かす必要は薄くなります。
つながりのレンズが高く、書き手自身の声が作品の核です。AIをどう使ったかは、読み手にとって作品の受け取り方そのものに関わるため、明かす水準は上がります。
医療の場面での例
患者向けの説明用リーフレットを作る場面を考えます。AIで下書きを作った場合でも、このレッスンで扱うのはあくまで開示の仕方であり、診断や治療の内容そのものの判断には踏み込みません。実際の作成では、患者を特定できる氏名・生年月日・個人の所見をAIへの依頼文に入れないことが前提になります。
そのうえで、下書きをAIで作ったことを院内でどう共有するか、内容の医学的な正しさを誰がどう検証したかを記録しておくと、あとから確認を求められたときに答えられる状態になります。開示は、公開する文章に書き添えることだけを指すのではなく、確認された経路を、自分の中と組織の中に残しておくことも含みます。
たとえば、AIで作った下書きを、最終的に別の医療者が内容を確認したうえで配布する、という手順を踏んだとします。このとき「誰が」「いつ」「何を確認したか」を一行でも記録しておけば、あとから配布物の内容について問い合わせがあったときに、確認の経路をすぐに示せます。読者には配布物の丁寧さとして伝わり、組織の中には検証の記録として残る、という二重の意味を持つのが、この場面での開示です。
明かし方の型を書く
明かし方は、次の3つを決めれば一文になります。
明かし方を決める3つの問い
誰に
クライアントか、読者か、組織内か。相手によって書く場所と言葉が変わる
何を
使ったこと自体か、役割の種類か、検証した内容か。どこまで具体的に書くか
どこまで
常に明記するか、聞かれたときに答えるか。作品の性質によって使い分ける
この3つを埋めれば、「〔相手〕に対しては、〔何を〕を、〔どこまで〕の形で明かす」という一文が作れます。作品の種類ごとに、この一文を先に用意しておくと、公開の直前になって開示の範囲を迷うことがなくなります。
やってみよう
演習1:3つの場面で明かし方の一文を書く
自分がよく手がける仕事を3つ選び、それぞれについて誰に・何を・どこまでを埋めた一文を書いてください。同じ「AIを使った」でも、場面によって一文の中身が変わるはずです。
演習2:一番重い場面を1つ選ぶ
演習1で書いた3つの一文のうち、開示の水準がもっとも重いものを1つ選びます。なぜそれが一番重いのか、どのレンズ・どの役割が関係しているのかを1〜2文で説明してください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 開示の期待は相手によって違う。クライアント・読者・同業者・所属組織で、求められる水準は同じではない
- 開示の重さは、AIとの関わり方の役割と、つながりのレンズの高さによって変わる
- 誰に・何を・どこまでの3つを決めれば、作品ごとの明かし方が一文で書ける
次のレッスンでは、ここまでの内容を1枚の制作方針にまとめ、実際の場面で試します。
セルフチェック
1. 本文で説明した、開示の判断に関わる要素の組み合わせはどれですか。
2. 5つの役割のうち、開示の水準が特に重くなるのはどちらですか。
3. 患者向けの説明資料を例にした節で、本文が前提として述べていることはどれですか。