ここまで、委任力・記述力・評価力という、AIとうまく協働するための3つの力を見てきました。今回の倫理的責任は、性格が少し違います。他の3つが「うまくやる」ための力だとすれば、倫理的責任は「責任を持ってやる」ための軸で、委任力・記述力・評価力すべてを貫いています。
倫理的責任の3つの種類
倫理的責任の3要素
作成の倫理的責任
どのAIを選び、どう関わるかについて思慮深くあること。渡す情報の扱いや組織のルールとの整合
透明性の倫理的責任
作業でAIがどう関わったかを、知る必要がある人に対して正直に伝えること
展開の倫理的責任
AI支援で作った成果物を使う・共有する前に、事実を確かめ、最終的な責任を自分が負うこと
何を渡してよいか(作成の倫理的責任)
オンボーディングガイドを作る過程で、AIに何かを渡す機会は何度もあります。業務フロー表、過去のガイド、社内の連絡先一覧。渡す前に、確認しておきたい観点があります。
社員の氏名・連絡先・人事評価に関わる記述は、渡す前に伏せるか、渡す必要があるか自体を見直す
発表前の組織変更や人事異動など、社外・部署外にまだ知られていない情報が混ざっていないか
会話をAIの学習に使わない設定になっているか、社内で決まっている利用ルールに沿っているか
案内資料に載せる部分だけでなく、参照資料として渡す元データにも同じ基準を当てはめる必要があります。載せるつもりのない情報でも、渡した時点でAIには見えている、という前提で扱ってください。
たとえば、経費精算フローの説明のために過去の申請データをそのまま渡そうとしたとします。申請者名や金額はガイドに載せるつもりがなくても、渡した元データには含まれています。載せる情報だけを気にして、渡す元データのほうを見落とす、という抜け漏れが起きやすい部分です。項目名や手順だけを抜き出した表に作り直してから渡す、という一手間が、作成の倫理的責任にあたります。
AIを使ったことを、誰にどう伝えるか(透明性の倫理的責任)
オンボーディングガイドをAIと一緒に作ったこと自体は、隠す必要のあることではありません。ただし、伝え方には工夫が要ります。「AIが作りました」とだけ書くのは曖昧すぎますし、逆に何も伝えないと、あとで内容の出どころを聞かれたときに困ります。
誰に伝えるかも一様ではありません。配属先の上司には、下書きの作成にAIを使い、業務フロー表と照らして自分が確認したことまで伝える必要があります。一方、資料を読むだけの新人本人には、そこまで詳しい経緯を伝える必要はなく、「この資料は定期的に見直しています」程度で十分なことがほとんどです。誰が、その情報を知っていることで何が変わるかを基準に、伝える相手と深さを決めてください。
具体的に何を、どう書けば開示になるのかは、次のレッスンで扱う個人のAI利用方針とあわせて、08回目で詳しく組み立てます。ここでは、「AIがどう関わったかを、知る必要がある人には正直に伝える」という原則だけ押さえておいてください。
使う前に確かめ、使ったあとに引き受ける(展開の倫理的責任)
前々回の評価力で見た確認作業は、ここでも要ります。オンボーディングガイドが新しいメンバーの手に渡る前に、実際にその部署で働いている人に一度読んでもらい、事実の誤りがないかを確かめる。この一手間が、展開の倫理的責任にあたります。
評価力での確認と、展開の倫理的責任の違いは、確認するタイミングと立場です。評価力は自分が下書きを読んで判断する作業ですが、展開の倫理的責任は、自分以外の目(実際の業務を知っている人)を通してから世に出す、という一段階です。自分では気づけない事実誤認が、この段階でよく見つかります。
注意
責任は最後まで人が持つ
AIがどれだけ流暢な文章を作っても、そのガイドに書かれた手順が間違っていたときの責任は、AIではなく作成した人が負います。評価力で確かめることと、展開の倫理的責任として引き受けることは、別の作業として意識してください。
やってみよう
演習1:渡す前チェックをやってみる
自分の題材で、AIに渡そうとしている(または渡した)資料を1つ思い浮かべてください。上のToolTableの3項目に照らして、伏せるべき部分がないか確認します。
演習2:4つの力の問いに1文ずつ答える
- 委任力:この仕事は、AIに任せてよい種類の仕事だったか
- 記述力:渡した資料の中に、載せるつもりのなかった情報は混ざっていないか
- 評価力:完成前に、誰かに事実の確認を頼んだか
- 倫理的責任:この成果物にAIを使ったことを、誰に伝える必要があるか
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- 倫理的責任は作成・透明性・展開の3種からなり、他の3つの力すべてを貫く軸
- AIに渡す資料は、載せる部分だけでなく元データ全体に個人情報や未公開情報がないか確認する
- 完成した成果物は、使う前に事実を確かめ、使ったあとの責任は人が引き受ける
次のレッスンでは、01回目から06回目までを通しで使い、1つの仕事を最後まで運ぶ演習を行います。
セルフチェック
1. 倫理的責任の3種の組み合わせとして正しいものはどれですか。
2. AIに資料を渡す前の確認として、本文が挙げていないものはどれですか。
3. 「展開の倫理的責任」の説明として正しいものはどれですか。