前のレッスンで、自分の仕事の工程とAIが動かす制約を分解しました。ここから先は、その工程の中でAIに何をさせるか、役割そのものを決める段階に入ります。
「AIを使っている」という一言は、実はかなり幅のある言い方です。アイデア出しの壁打ち相手として使う場合と、AIが作った画像をそのまま作品に載せる場合とでは、負うべき責任がまるで違います。この違いを見分けずに「使っている」とだけ言ってしまうと、必要な確認を飛ばしたまま作品を出してしまうことがあります。
分かれ目は一本の線
AIとの関わり方は5つに分けられます。分かれ目は1つだけです。AIが生成した素材が、相手の目に触れる最終成果物の中にそのまま現れるかどうか。 この一本の線で、5つの役割は2つのグループに分かれます。
AIなし
意図的に使わない選択も、正当な結果のひとつ
相談役
壁打ち・下調べの相手。出したものは最終成果物に現れない
道具作り
最終作品を作るための道具やテンプレートづくりを手伝わせる
共作
AIが作った素材が、自分の作業と並んで最終作品に現れる
素材そのもの
AIによる生成そのものが、作品の形になっている
最初の3つは「現れない側」、最後の2つは「現れる側」です。同じ人が、同じ仕事の中で異なる役割を使い分けることも普通にあります。たとえば、講演の構成案を練る段階ではAIを相談役として使い、話の内容そのものは自分の言葉で書き、スライドに載せる図解だけをAIに生成させてそのまま使う、という組み合わせは珍しくありません。この場合、構成では相談役、図解では素材そのもの、と役割が場所ごとに変わっています。
現れない側の3つ
相談役と道具作りは、最終成果物にAIの生成物が現れないぶん、責任の中身も違います。
AIなしという選択も、5つのうちの1つです。締め切りに余裕があるときや、その作品にとって自分だけの手作業そのものが価値を持つときは、AIを使わないという判断も正当な結果です。使わなかった理由を後で聞かれたときに説明できれば、それで十分です。
相談役として使うときは、どこまでの情報を渡してよいかという入出力の境界線を守ること、そしてAIが出す枠組みに無自覚に引きずられないことが要ります。壁打ち相手の意見は参考であって、そのまま採用する結論ではありません。案を3つ出させたら、なぜその3つを選んだのかをこちらで検証してから話を進めます。
道具作りは、AIに手伝わせて作ったツールやテンプレートを、最終作品そのものと混同しないことが要ります。たとえば、原稿のチェックリストや見出しの型をAIと一緒に作った場合、そのチェックリスト自体は道具であり、それを使って書いた原稿が作品です。作ったツールが、実は自分がしていた判断をそっくり自動化してしまっていないかを、ときどき点検する必要があります。
同じ「AIを使う」でも、責任の重さは違う
講演の切り口を考えるとき、AIに複数の案を出させて話し相手にします。最終的にどの切り口で話すか、どう言葉にするかは自分で決めます。相手の目に触れるのは、自分の言葉だけです。
スライドに載せる図解を、AIにそのまま生成させて使います。生成された画像そのものが観客の目に触れるため、権利関係の確認や、生成過程を説明できる状態にしておく責任が重くなります。
現れる側の2つ
共作と素材そのものは、AIの生成物がそのまま相手に届くぶん、確認すべきことが増えます。
共作では、開示をどうするか、権利関係に問題がないか、出てきたものの品質を自分の基準で検証したかの3点に加えて、もう1つ注意すべきことがあります。最初は自分が方向を決めていたはずが、いつの間にかAIの提案を受け入れるだけになっていないかという、姿勢の緩みです。 これをドリフトと呼びます。
素材そのものになると、責任の水準はさらに上がります。使っている仕組みがどう動くか、どんな失敗をしやすいか、開示をどうするか、そしてその使い方をどれだけ続けるつもりかまで、自分の言葉で説明できる状態にしておく必要があります。
共作と素材そのものの違いは、AIの生成物が作品の一部か、作品の形そのものかという点にあります。記事の中の1枚の図をAIに生成させて使うのは共作です。作品そのものが生成過程を見せる形式になっている場合は、素材そのものに近づきます。どちらに当たるかで、確認すべき項目の重さが変わることを覚えておいてください。
やってみよう
演習1:自分のAI利用を5つの役割に当てはめる
最近の仕事で、下調べや事務作業も含めてAIに触れた場面をできるだけ洗い出してください。それぞれの場面を、AIなし・相談役・道具作り・共作・素材そのものの5つに当てはめてみます。
演習2:想定と実際のずれを1つ見つける
演習1で挙げた場面のうち1つを選び、始めるときに想定していた役割と、実際にはどの役割になっていたかを比べます。ずれがあった場合は、どこで境界線を越えたのか、次はどこで気づけそうかを1〜2文で書いてください。
今日のまとめ
3行で振り返ります。
- AIとの関わり方は、AIなし・相談役・道具作り・共作・素材そのものの5つに分かれる
- 5つを分ける一本の線は、AIが生成した素材が最終成果物にそのまま現れるかどうか
- 現れる側の役割ほど、開示・権利関係の確認・品質検証・姿勢の緩みへの注意が重くなる
次のレッスンでは、書きながらAIとやり取りを重ねる、実際の往復の進め方を見ていきます。
セルフチェック
1. 本文で説明された、5つの役割を分ける一本の線とは何ですか。
2. 共作としてAIを使うときに、本文が特に注意を促している姿勢の緩みを表す言葉はどれですか。
3. AIとの関わり方の5つの役割について、本文の説明と合っているものはどれですか。